常民の青い空

あるいは地域社会に住まう中年男というペルソナ

倉多江美 正常な漫画という事

2008-10-03 | その他

 倉多江美「続 お父さんは急がない」小学館2003/1/20 の
見返しを見て思います。

  ●2年半以上かかって・・・ 
  やっと「お父さんは・・・」の2冊目ができました。
  別にのんびりした性格でもないので、
  単なる怠け者かも。
  わたしってまだ漫画家なのかな、
  と思ってしまうこのごろ。
  ま~、それもまたよし。
  なんとか続編としてまとめてくださったことに感謝!
        倉多江美

 まだ漫画家なのかなってそんな。


 確かに寡作で、あまりお見かけしない気は致しますが、
「あるタイプの漫画の開拓者で
追随者の少ない第一人者として漫画を描き続けている」
私はそう感じていたのです。

 それは某評論家(橋本治さんだったかなぁ)の表現を借りますと
『「正常の方に狂った作家」の書く漫画』ということです。

 もとより表現様式には、それぞれ多くの作話上の約束事があり、
許容されている飛躍した表現や物語の構造があります。
 ほとんど自明の様になっていて忘れていたり、
頭がマンガモードになっていて気づかずに居たりしますが、
漫画というものも特殊な約束事と構造を持つ物語群です。

 その中にはもちろん必要なものもありますし、
読者としてはそれを楽しんでいるのです。
 ですがなかには、子供向けとされていた頃からか、
あの泰斗が映画の手法を移植して再構築した時か、
または貸本屋の系統が合流した時か、
確立した時期はわかりませんが、
物語をぶちこわしにしてしまうものや、安くしてしまうものがあります。
それは、再読に耐えないという形であらわれると思います。

 大概の作家は若いうちから創作をしますから、
この約束事と構造を自明のものとして受け入れ使用しますが、
次第にその約束事と構造が、特殊なことに気づいてきます。
 その結果作品が書けなくなったり、
漫画そのものから離れたりする事を
「正常の方に狂った」として、引退やむなしとしていたそうです。
(これは、その評論家からの伝聞)

 正常の方に行った方でも
約束事を受け入れ創作する方もいらっしゃいます。
再読に耐える作品をお書きになる方は、
そのような方が多いような気がいたします。

 倉多江美さんの場合は少し違います。
正常のほうに行き、
正常のままで作品を発表するようになりました。

 多分その最初の成功作だろうと思われる
「イージーゴーイング」昭和51年 花とゆめ19号掲載

 昭和13年 ナンバースクールと思われる学校での
押さえた筆致で書かれた悲しい物語に
これが少女マンガ雑誌でできる話なのかと戦慄いたしました。



 その後も「静粛に、天才ただいま勉強中」で描かれた
コティ(ナポレオン時代の警察庁長官フーシュがモデル)と
ロビスピエール
 悪党とされる彼らを生き生きとした描いた作品は、
正常の方に行ってしまった作家が書く作品の代表
といえるのではないかと思っています。

 その彼女がまだ漫画家なのかな~というのは、
「まだマンガはいまだし」そう思ってしまいます。


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2 コメント

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漫画同好会(名前検討中 絵画同好会(名前検討中 (村石太キッド)
2012-11-01 20:03:12
ちょっとマイウェイという 懐かしいドラマのオープニングで 流れる パルの曲 夜明けのマイウェイの時 映像される 倉田江美さんの作品に感動して 今 倉田江美 で プログ検索中です
少女漫画家なんですね。読んでみたいナァ。
いらっしゃいませ (仙)
2012-11-03 14:25:15
はじめまして。
 なんの分野でもあることなのでしょうが、素晴らしい才能の活躍が見られなくなることがあります。いろんな事情があるのかもしれませんが、残念だと思っています。
 古書店にもあまり出回らないようですし。多分、所蔵している人は愛蔵して手放さない人たちなのかもしれませんね。

 また、いらしてください。

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