横隔膜雑録 (横隔膜のたわごと改め)

我思う、故に我あり。
ことばを愛おしみ、己をかたらう。
北海道からのささやかな自己主張。

知りたいことと、決断することの葛藤

2017年04月23日 | gooにコメント
羽生結弦「今は考えてない」平昌五輪以降の進退白紙
「この大会の出場で引退します」
これまでもよく聴かれた台詞である。

スポーツ選手はいつだって、限界に挑戦し、試合・大会で最高の結果を出すことを目指す。
そのためには「覚悟」が必要だ。だから「選手生命を賭ける」ということを口にする。

いつしか、日本の人々は「いつ引退するのか」という枠組みで、アスリートを認識するようになった。
そして、パフォーマンスが低下しても競技を続ける選手に対して「いつまで続けるんだ」と蔑視することとなる。

国際大会に出場するアスリートが、大会に出るためには、組織の支援が必要だ。
競技の運営団体、競技の「連盟」、競技者個人を支えるスポンサー。

アスリート個人が、個人の自由意志として「競技続行」を願うのは当然のこと。
だが組織は、パフォーマンスの低下が認識された途端、後継のアスリートを探し出す。

当然のことだ。
各競技の、各連盟の、各国の、名誉と威信がかかっているのだから。

しかし、アスリート個人にしてみれば、「競技続行」は何よりも大事なこと。
競技を続けられれば続けられるほど、パフォーマンスの更なる向上が期待できるのだから。

そもそも、アスリートが競技に取り組み始めるのは、達成感の獲得だ。
「魅力」と言い換えることもできよう。

勝って嬉しいから、続けていきたいと思う。
そして、負けたからこそ更なる向上を願い、練習に励み、食生活をコントロールする。

競技の面白さを知った時、アスリートは「一生競技を続けたい」と決意する。
人生を競技に捧げたいと思うから、より競技に「精進」する。

しかしながら僕ら一般市民は、そんなアスリートの内心の決意と、競技のためのトレーニングを、
「編集」されたメディアによって知るのみだ。

浅田真央さんの引退報道で思い知らされた「メディア」のコントロール。
一般市民が知りたいのではなく、「メディア」が「商品価値」に応じて自律的に報道する。

かつて、アマチュアレスリングに、太田章という選手がいた。
アジア大会金メダリスト、オリンピック日本代表。階級は90キロ級。現在は早稲田大学の教授である。

モスクワ五輪は、日本国のボイコットで「幻の」代表。
(共産圏国家ボイコットの)ロス五輪で銀メダル、そして、ソウル五輪では肋骨を骨折しながらも銀メダルを獲得。

彼がソウル五輪を目指した時、周囲は一斉に太田を非難した。
「ロートルが何をするか」というのだ。

今後を考えれば、実績のあるベテランよりも、伸び盛りの若手を期待するのが世の常。
しかし太田は、そういう風潮を分かった上で、あえて代表を目指したのだ。

参考までに、太田はバルセロナ五輪でも代表として出場し3回戦に進んだ。
続いてのアトランタでは、遂に代表を逃した。

彼は異端視されながらも、大会出場への「自由意志」を優先して、
大学教員を続けながら、アスリートとして競技に臨み続けたのだ。

現在は、各国の競技連盟の認証なしに国際大会への出場は叶わないだろう。
太田章のようなアスリートの登場は、期待しようがない。

とはいえ、アスリートの「自由意志」が生かされた歴史的事例であることは間違いない。
もちろん、太田章に「引退会見」はなかったし、
むしろ多くの日本国民は彼の名前を知らないだろう。

羽生くんは、まだまだ伸び盛りである。
まさか「引退」を前提に競技を続ける気持ちはあるまい。

マスコミの「知りたい」意志は、十分理解する。否定はしない。
でも、それを迫ることで、アスリートの向上心は萎えていくのだ。

アスリートはいつだって「今」最高のパフォーマンスを願ってトレーニングする。
それは「競技続行」への「決断」であって、「引退」の「決断」ではない。

知りたいことを聞くのは自由だが、
その副産物に、もっと思いを巡らせてほしい。
ささやかな、一市民の思いとして。
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