仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「五郎治殿御始末」 浅田次郎

2006-03-12 11:27:29 | 讀書録(一般)
「五郎治殿御始末」 浅田次郎

お薦め度:☆☆☆☆
2006年3月12日 讀了


800年續いた武士の時代が終焉を迎へた明治維新。
徳川15代將軍慶喜が大政奉還して政治形態が變はり、スムーズに新しい世の中になつたやうな印象がある。
もちろん、鳥羽伏見から五稜郭に至る舊幕府勢力の抵抗はあつたが、人の生活レベルでの變化に附いてはイメージ出來ていなかつた。

淺田次郎は、6つの短篇で、この間の變化を武士の視點から描いてみせた。
かつての武士たちは、御一新の後、どのやうに生きていつたのか。
商人になつた者、官僚になつた者、軍人になつた者、俥曳きになつた者・・・
それぞれの人生に於て、かつての武士としての生涯はどのやうに投影されてゐるのか。

いずれも趣のある作品だが、なかでも印象に殘つたのは、「遠い砲聲」と表題作「五郎治殿御始末」。

「遠い砲聲」の主人公は、近衞砲兵隊の中隊長として勤めながら、かつての主君に仕へてゐる。
西洋時計の使ひ方になかなか慣れられずに苦勞し、演習では大失態を演じてしまふ。
それでも周圍の彼に對する姿勢は暖かい。
軍人はいづれももと武士であり、かつての主君に仕へる彼の生き樣に好意的なのだ。
そして主君は、彼に對して何もしてやれない自分を情けなく思つてゐる。
最後の花火のシーンは壓卷だ。
武士の心意氣が傳はつてくる。

「五郎治殿御始末」は、武士としての身の始末のつけかたを描いたもの。
孫の養育と家の存續に心を碎いた老武士が選擇した道は・・・
すつきりと背筋の通つた生き方をしてきた人は、周圍がその生きざまを見てゐるものだ。
西南の役をもつて、武士の時代は名實ともに終はつた。

これまで知らなかつたこと。
御三家のひとつ尾張家はいち早く薩長の側についてゐたといふこと。
そして、その當主は會津中將、桑名越中守と實の兄弟だつたといふこと。
つまり、尾張大納言は、血をわけた兄弟である二人と鬪つたわけだ。
幕府側からすれば、武士の風上にも置けぬ裏切り者といふことになる。
もともと尾張は將軍家とは仲が惡かつたとはいへ、よもや、といふ感じがした。


2006年3月12日讀了



五郎治殿御始末

中央公論新社

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4 コメント

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Unknown (ミツルギ)
2006-03-12 22:11:04
トラックバックありがとうございます。
尾張藩は会津桑名の制圧に重要な役割を果たしたのに、明治政府では不当な扱いを受けています。いわば、兄弟ともども幕府にも新政府にも利用されただけという悲しい結末ですね。
浅田氏はそこを知っておられて、あえて桑名を舞台にしたのではないかと思いました。御存知かもしれませんが、徳川慶勝を扱った城山三郎『冬の派閥』を読むと、より深みが増しました。
ありがたうございます (仙丈)
2006-03-12 22:18:58
ミツルギさん

コメントありがたうございます。
會津・桑名が舊幕府軍の中心的な役割を果たしてゐたことは知つてゐましたが、尾張が官軍側とは知りませんでした。
幕末は、私が知らないことがまだまだたくさんありさうです。
城山三郎『冬の派閥』、讀んでみたいと思ひます。

トラックバックありがとうございました (がんりょ)
2010-02-13 17:31:22
私のBlogにたくさんトラックバックしていただきありがとうございます。仙丈亭さんとかなり同じ本を読んでいて、親近感を覚えました。これからも、時々お邪魔いたします。よろしくお願いします。
がんりょさん (仙丈)
2010-02-13 20:32:39
こちらこそ、かなり讀んでる本が一緒だつたのでたくさんTBしてしまひ、失禮しました。
ご迷惑でなければ、これからも同じ本を讀んだらTBしますね。

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