NPO法人 地域福祉協会

清掃事業  森林事業(植栽・剪定)

ショートショート 桃花の下

2018-01-06 | 文学
私は曹操である。

私は自らの非常な才を恃み、蛮勇とも思える開き直りを発揮して魏の国を建てた。

私は司馬懿仲達を軍師として重用した。

仲達の異能、権謀と柔佞は、私を凌駕し
嚢中の錐となって出来し
我が一族を害するやも知れぬ。



夕暮れ。

満開の桃花。

下に佇む仲達の後ろ姿。


「仲達!」

私は丹田から野太い声で呼ぶ。

彼の顔だけが
梟の如く捩れて
こちらを向いた。

異相である。

狼顧の相と評された。

私は彼に近づいた。

「仲達、花見か」

「タオリプエン、シャツチャンシー(桃李不言、下自成蹊)、殿の人徳のように自然と引き寄せられたのでございます」


「何を言うか」


私は仲達の持つ太鼓の音に共鳴して
哄笑した。


私は仲達の肚を探った。

「ときに仲達、命を革むるに禅譲と放伐の何れや善し」

「今は濁世にございます。堯、舜の世における純朴な民はおらず、お上を軽んじる悪人が跋扈しております。
よって武力で王座を替えねばなりません」

刹那
私は彼の鷹のように鋭い眼を見た。

その眼は
放伐を行うのは自分であると宣告していた。


仲達から見れば
私の豪放など悪童のそれに過ぎないだろう。

彼は憤怒を露わにすることがなく
常に冷静で恭謙であった。



我が息子たちは優し過ぎて
政治や軍事に向かない。


何れ
謀略と軍略に長けた仲達の天下となり
我が王朝は放伐されるだろう。


私は
暗澹たる一族の未来に消沈したが
面には現さなかった。

刹那の強風に
紅色の花びらが
はらはらと舞い降りた。

「美しいのう」

「殿のお心のようでございます」


おわり


高橋作




ショートショート  火消し地蔵

2018-01-06 | 文学
私は
蜷川一族の婦人であった。

蜷川一族は
草創期の源頼朝公を支えて軍功を挙げ
越中を拝領した。

そして
最勝寺という寺を建立した。

私は
かいがいしく寺の世話をしていた。

掃除
煮炊き
洗濯。

そして
かまどの近くに安置してある
小さなお地蔵さまを拭き、磨き
花を供えていた。

かまど小屋は
常に煙で充満しており
お地蔵様は真っ黒になっていた。

ある法事の日。

読経が終わり
飲食の宴となっていた。

私を含め
おなご衆も安堵し
かまど小屋に人は居ないはずであった。


突然
「火事だー」
という青年と思しき澄んだ声が堂内に響いた。


それはあたかも清澄なる声明であった。


私は
直観的にかまど小屋へ奔った。


手ぬぐい
着物

そして水を汲んで火を消した。


「ふぅー、ぎりぎりやったちゃ」


ふと
私はお地蔵さんに目を遣った。

なぜか
お地蔵さんは汗をかいたように濡れていた。


「お地蔵さんな教えてくれたがやないがけ」


私は小さくて可愛いお地蔵さんが
一層愛おしく思えた。

そして
手ぬぐいで
汗を拭いてあげた。




おわり



高橋作




最勝寺に火消し地蔵を観た。

2018-01-06 | 観光
「越中の街道と石仏」塩照夫著、北国出版社
に最勝寺(富山市蜷川)の火消し地蔵が載っていました。

よって
実際に観て参りました。

ある日
火事になりそうな出火があり
その際
「火事だー」という叫び声をあげられ
汗をかいていたという
伝説のお地蔵さんであります。




その後
一休和尚が最勝寺に訪れた際
次の一句を詠まれたそうです。

「地蔵 地蔵 汗かき地蔵
   黒地蔵
 かまどの前なる 火消坊」


おわり

高橋記