私は曹操である。
私は自らの非常な才を恃み、蛮勇とも思える開き直りを発揮して魏の国を建てた。
私は司馬懿仲達を軍師として重用した。
仲達の異能、権謀と柔佞は、私を凌駕し
嚢中の錐となって出来し
我が一族を害するやも知れぬ。
夕暮れ。
満開の桃花。
下に佇む仲達の後ろ姿。
「仲達!」
私は丹田から野太い声で呼ぶ。
彼の顔だけが
梟の如く捩れて
こちらを向いた。
異相である。
狼顧の相と評された。
私は彼に近づいた。
「仲達、花見か」
「タオリプエン、シャツチャンシー(桃李不言、下自成蹊)、殿の人徳のように自然と引き寄せられたのでございます」
「何を言うか」
私は仲達の持つ太鼓の音に共鳴して
哄笑した。
私は仲達の肚を探った。
「ときに仲達、命を革むるに禅譲と放伐の何れや善し」
「今は濁世にございます。堯、舜の世における純朴な民はおらず、お上を軽んじる悪人が跋扈しております。
よって武力で王座を替えねばなりません」
刹那
私は彼の鷹のように鋭い眼を見た。
その眼は
放伐を行うのは自分であると宣告していた。
仲達から見れば
私の豪放など悪童のそれに過ぎないだろう。
彼は憤怒を露わにすることがなく
常に冷静で恭謙であった。
我が息子たちは優し過ぎて
政治や軍事に向かない。
何れ
謀略と軍略に長けた仲達の天下となり
我が王朝は放伐されるだろう。
私は
暗澹たる一族の未来に消沈したが
面には現さなかった。
刹那の強風に
紅色の花びらが
はらはらと舞い降りた。
「美しいのう」
「殿のお心のようでございます」
おわり
高橋作
私は自らの非常な才を恃み、蛮勇とも思える開き直りを発揮して魏の国を建てた。
私は司馬懿仲達を軍師として重用した。
仲達の異能、権謀と柔佞は、私を凌駕し
嚢中の錐となって出来し
我が一族を害するやも知れぬ。
夕暮れ。
満開の桃花。
下に佇む仲達の後ろ姿。
「仲達!」
私は丹田から野太い声で呼ぶ。
彼の顔だけが
梟の如く捩れて
こちらを向いた。
異相である。
狼顧の相と評された。
私は彼に近づいた。
「仲達、花見か」
「タオリプエン、シャツチャンシー(桃李不言、下自成蹊)、殿の人徳のように自然と引き寄せられたのでございます」
「何を言うか」
私は仲達の持つ太鼓の音に共鳴して
哄笑した。
私は仲達の肚を探った。
「ときに仲達、命を革むるに禅譲と放伐の何れや善し」
「今は濁世にございます。堯、舜の世における純朴な民はおらず、お上を軽んじる悪人が跋扈しております。
よって武力で王座を替えねばなりません」
刹那
私は彼の鷹のように鋭い眼を見た。
その眼は
放伐を行うのは自分であると宣告していた。
仲達から見れば
私の豪放など悪童のそれに過ぎないだろう。
彼は憤怒を露わにすることがなく
常に冷静で恭謙であった。
我が息子たちは優し過ぎて
政治や軍事に向かない。
何れ
謀略と軍略に長けた仲達の天下となり
我が王朝は放伐されるだろう。
私は
暗澹たる一族の未来に消沈したが
面には現さなかった。
刹那の強風に
紅色の花びらが
はらはらと舞い降りた。
「美しいのう」
「殿のお心のようでございます」
おわり
高橋作