古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

新しい幸福論

2016-07-12 | 読書
『新しい幸福論』(橘木俊詔著、岩波新書)を読みました。昨年、トマス・ピケテイの「21世紀の資本」が評判になりました。ピケテイの述べるような格差拡大が、日本で起きているかを検証した本とみて読むことにしました。
 日本は従来「一億総中流社会」と言われてきたが、最新のデータによると、それは幻想にすぎないと、第1章「深刻化する格差社会」で述べます。
 日本の貧困者についてみると、ここ30年の間に貧困率が12%から16.1%に増加し、この16%という数字は先進国の中でアメリカに次いで第2位です。ここでの貧困率は「相対的貧困率」で、国民」の中で中位の人の半分の所得に満たない所得の人の比率です。
 第2章「格差を是正することは可能か」
「国民が幸福である」と判断している人の比率をみよう。
2016年の国連報告では、第1位がデンマーク、第2位がスイス、第3位がアイスランド、第4位ノルウェイ、第5位がフィンランドです。ジニ係数で再配分後の所得格差をみると、アメリカ0.379、イギリス0.345、日本0.329フィンランド0.259、スウェーデン0.259、
ノルウェイ0.250、デンマーク0.248と北欧諸国の所得分配の平等度が高い。社会保障給付費のGDPに占める比率も高い。
内閣府の『平成30年度国民生活白書』では、1981年から2005年まで、国民の一人当たりGDPは増加しているのに、生活満足度は確実に低下している。
所得格差の是正策には、再配分前の所得の平等化と再配分後の所得の平等化がある。前者は市場競争主義の社会に入れば当然格差は広がる。後者について述べると、政府は税と社会保障による弱い再配分政策を保持してきた。日本の税・社会保障による所得再配分効果は非常に弱いが、中でも税の貢献分は非常に小さく、弱いながらもそれを支えているのは社会保障制度である。
 第3章は「経済学における成長と脱成長の葛藤」

 経済成長率は、技術進歩率、労働成長率、資本成長率の合計で示される。
第1に、日本は出生率が大きく低下している。第2に、現役世代は貯蓄をして、引退世代は貯蓄を取り崩す。前者の減少と後者の増加という人口の年齢構成の変化で、資本成長率も0%、技術進歩率が大きくならないと経済成長率は正にならない。
 この章で注目すべきは「格差拡大が経済成長にマイナス効果」と論ずる部分です。
格差の拡大は、富裕層と貧困層の人数が増大し、中間が減少する。
富裕層 消費性向が低いので人数が増加しても家計消費の増は少ない。
中間層 人数が減るので家計消費の減少量が大きい。
貧困層 人数が増えても家系消費の増加量は少ない。
三つの相層を総合すると、家計消費の総量は減少し、経済成長にとってマイナスになる。
次に、中間層の減少は、国の教育費減少の影響を受け子供の高い教育を受ける機会を減少させる。有能な労働者を減少させ、次世代の成長にマイナスになる。
 さらに、格差の拡大は非正規労働者の増加を伴っている。これは労働者全体で見た場合、生産性は低下するかもしれない。
過去(1985~2005)の格差の存在が、その後(1990~2010)の経済成長にどのように影響したかというOECDのデータがある。
格差の存在が成長率を引き上げたのは、3か国(アイルランド、フランス、スペイン)、逆に成長率を引き下げた国は16か国で。日本も含まれる。
日本は、格差を縮小させれば、成長率が高まるかもしれない。
これが、この本で著者が最も述べたかったことらしい。

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