SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

新・指先のおとぎ話『夜を越える』

2017-04-23 18:34:03 | 書いた話
もう少し早く宿を発てばよかった。馬を進めながら、男は焦りを覚えていた。夜が更けて、馬の歩みは遅くなっていた。明け方までに、山路を抜けて見晴らしのよい海側の街道に出たかったのだが、男の前には、狭い道が曲がりながら続いている。かといって、野宿をしている時間はない。どうにか朝までに山を越えなければ、乗るはずの船が出てしまう。馬にも無理はさせたくないが、あともう少し。祈る気持ちで手綱を引いたとき、不意に目の前に、白いものが現れた。馬がいなないて止まる。男も肝を冷やした。一瞬遅れて、その“白いもの”の正体がわかった。大きな十字架。なぜこんなところに──思う間もなく、男の耳に唄が聴こえた。「朝が来る、もう朝が来る……」唄は明らかに十字架から響いていた。体が浮く感覚があり、気づくと男と馬は、海沿いの街道にいた。朝の光が、男を照らす。信じられない思いで振り仰ぐと、教会の白い十字架が、眩しく照り映えていた。
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