min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

桜木紫乃著『ホテルローヤル』

2017-06-18 15:33:43 | 「サ行」の作家
桜木紫乃著『ホテルローヤル』文庫 2015.6.30第1刷 

おススメ度 ★★★★☆

本作品は桜木さんの直木賞受賞作である。桜木さんの作品は過去「始終点駅」を読んだ程度であまり馴染みがない。
とはいえ、同郷(北海道)の作家であり親近感は湧くし、特に道東釧路出身の作家さんであり釧路方面を舞台にした作品は興味深い。
この「ホテルローヤル」は釧路湿原のふちに建つラブホテルにまつわる7つの短編からなっている。
「シャッターチャンス」
「本日閉店」
「えっち屋」
「バブルバス」
「せんせぇ」
「星を見ていた」
「ギフト」
以上の7作品だ。内容はホテルローヤルにまつわる人間群像を描いているのだが、時系列的には現代から過去に遡るかたちで描いており、ホテルの利用客、出入りする業者、現在の経営者、そして創業者のそれぞれの立場、事情を織り交ぜて語ることによってその時代の断片(特に北海道東部の最大の都市である釧路の隆盛を誇った時代からバブル崩壊後の衰退の模様)を鋭く切り取って描いていく。
最後の「ギフト」によってこのホテルが建てられた経緯や名前の由来、そして創業者の全貌を明らかにすることによって、その前に語られる物語で不明であった部分が繋がり、全体の作品群に対し読者により深い味わいを与えてくれる。
7作品の中で印象に残るのは「えっち屋」と「星を見ていた」であろうか。
実際この作家がラブホテルの経営者の元に生まれ育ったということで、この家業の裏表の事情を知り抜いた上での描写がありとても興味深いものがあった。最後に、辺境の地に生きる貧しい一般庶民の生きざまに注ぐ作者の暖かい視点が好感持てる作品である。