センス・オヴ・ワンダー

2010年06月09日 | 心の教育




 今日、O大学のチャペル・アワー(礼拝)で講話をしました。最初はがやがやとしていた学生諸君が、やがて静かになり、大半の学生たちは熱心に聴いてくれたようです。

 そこで、ネット受講生のみなさんにも、シェアすることにしました。過去のコスモロジーの授業をヴァージョン・アップしています。読んでみてください。そして、よかったらコメントをください。



  チャペル・アワー講話「センス・オヴ・ワンダー」

                            2010・6・9

 
 聖書:旧約、詩編一九・二―七 

  天は神の栄光を物語り
  大空は御手の業を示す。
  昼は昼に語り伝え
  夜は夜に知識を送る。
  話すことも、語ることもなく
  声は聞こえなくても
  その響きは全地に
  その言葉は世界の果てに向かう。
  そこに、神は太陽の幕屋を設けられた。
  太陽は、花婿が天蓋を出るように
  勇士が喜び勇んで道を走るように
  天の果てを出で立ち
  天の果てを目指して行く。
  その熱から隠れうるものはない。



 讃美歌:二二六番「輝く日を仰ぐとき」(How Great Thou Art)(私のとても好きな讃美歌の1つです。Youtube で探したら、英語で歌ったいいものがありました。聴いて読んで聴いてというふうにしてみてください。)





 今日の聖書の箇所に「天は神の栄光を物語り、大空は御手の業を示す」とありますが、大空の色は青ですね。では、なぜ空は青いか知っていますか?

 ご存知のように、白く見える太陽光線は実は七色の光線が集まったもので、水やプリズムで屈折すると、屈折率によって赤・オレンジ・黄・緑・青・紺(深い青)・紫に分かれますが、この並びは光の波長の長い順になっています。

 太陽からやってきた光の中の青から紫にかけての短い波長の光は、大気中の光の波長よりも小さい微粒子にぶつかると大きく屈折して、散乱するのです。

 空つまり大気の主な成分は、窒素が約七八%、酸素が約二一%、アルゴンが〇・九%、二酸化炭素が〇・〇四%、オゾンが二×一〇のマイナス六乗%、つまり約九九%は窒素と酸素です。散乱させる微粒子は小さなホコリや水滴だという説もありましたが、青い散乱光を出す粒子は光の波長より小さくなければならないので、むしろ酸素分子や窒素分子だと考えたほうがいいといわれています。

 つまり、酸素や窒素の分子が、青い光を空いっぱいに散乱させてくれるから、それを地上から見ている私たちには空が青く見えるんですね。そして、中でも特に酸素があるから、私たち酸素を吸って生きている動物が生きることができるわけです。

 さらに、酸素はふつう原子二個が結合したO₂という酸素分子のかたちで存在しているのですが、私たちの頭上二〇~三〇キロメートルの上空で太陽の紫外線によって分解されていったん酸素原子一個Oになり、それらがまた結合することでO₃、つまりオゾンができるのだそうです。このオゾンが太陽から降り注ぐ強烈な有害紫外線を吸収してくれていることは、よく知られているとおりです。

 きわめて波長の短い――紫よりも短いので紫外線というわけですが――紫外線は、細胞膜を壊します。すべての生命は細胞から成っていて、オゾン層に守られているからこそ、細胞膜が壊されず、地上で生きることができるのです。O₂があるから、息をすることができる、生きることができる、O₃があるから、生命が守られている、というわけです。

 その酸素を発生させ、かつて分子酸素のほとんど存在しなかった地球大気に一五億年以上もかかって徐々に増やしてくれたのが、光合成微生物とそれが進化した植物です。そうした光合成微生物や植物のおかげで、酸素のたくさんある現在の地球大気ができたのです。

 そして、その地球大気のおかげで、私たちは生きていることができるのです。 空の青さは、空にたくさんの酸素がある証拠です。それから、もちろん窒素もたくさんある証拠です。

 大気中の窒素はバクテリアによって固定されて植物の栄養になり、その植物を私たち動物が食べて生きることができているのですから、たくさんの窒素大気があることも、私たち動物が生きることのできる条件になっているわけですね。

 だから空の青さは、つまり、生命が地上で安全に生きることができる、生きていていいという印だといってもいいでしょう。ちょっとロマンティックに表現すると、「空の青さは、きみは生きていていいんだよ、という空からのメッセージなのだ」ともいえるでしょう。空の青さは、生命への青信号です。

 だから、私たちは、青空を見上げるとすがすがしい、生き生きとした気持ちになるのだ、と私は解釈しています。

 去年、授業でこの「空が青いから、私たちは生きられる」という話をしたら、学生たちがこんな感想を書いてくれました。

 「『空の青さは地上に生命が暮らせるという信号だ』というお話が好きでした。今までも空を見るのは好きだったけど、この話を聞いてからはもっと愛しい気持ちで空が見れそうです。きれいな空を見て気持ちいいなあと思わない人がいない理由が分りました。」

 「青空が青信号だという言葉がすごく印象的でした。青空みたいに広くて大きなものに、君は生きていていいんだよ、って見守られていると思うと、頑張ろうって気持ちになる気がします。立ち止まらず、前を見て進んで行こうって気持ちになりました。」

 もう少し考えてみると、いくら酸素と窒素があっても、そもそも太陽の光がなければ、空は青くなりません。そして、太陽のエネルギーがなければ、植物は育たず、それを動物が食べることもできず、植物や動物から間接的に太陽エネルギーをもらっている私たち人間も生きることができません。

 今日の聖書の箇所は暑い時に書かれたからでしょうか、「その熱から隠れうるものはない」となっていますが、これは別の言い方をすれば、地球上のすべての生命はみんな漏れなく太陽エネルギーをもらっていて、例外はないということです。イエスは、父なる神は「悪人にも善人にも太陽を昇らせる」と言っておられます。

 つまり、太陽が溢れるような光と熱を惜しみなく地球に送り、その光の一部を大空が吸収したり散乱したりする、そのエネルギーで植物や動物が生きられるという条件が調っているので、私たち人間も生きられるのですね。

 そんなこと、当たり前だと思いますか。おどろき! ふしぎ! すばらしい!と思いませんか。青い空だけではなく、この地球の自然は、なぜか不思議なことに人間が生きられるようにありとあらゆる条件が調っています。そのことに気づくと、私は、おどろき・不思議という気持ちを感じざるをえません。英語では「wonder」といいますね。そして、感じると、不思議でいっぱい・すばらしいと思います。英語では「wonderful」です。

 生物学者のレイチェル・カーソンは、そういう自然の不思議さ・すばらしさを感じる心のことを「センス・オヴ・ワンダー」と呼んでいます。そして、いろいろなことを「そんなこと当たり前じゃん」とシラケて考えるのではなく、そこに何か大きな不思議で素敵なものを感じて感動する感性こそ、他の何よりも人生を豊かにすると言っています。

 こういう不思議・ワンダーに満ちたすばらしい・ワンダフルな世界は、偶然に出来たのでしょうか、それともそこには何か大きなもの・力の働きがあるのでしょうか。

 言うまでもなく、旧約聖書の著者は、そういう大自然の働き・業の中にというか向こうにというか、「神の栄光」「御手の業」を感じ取っています。そして、神の深い知識、言葉、響きが全世界に行き渡っていると感じて、それを詩にうたったのです。

 知識を情報と言い換え、言葉を秩序と言い換え、響きを影響力と言い換えれば、これはきわめて現代科学的な洞察と一致していると思います。そして宇宙に働いている秩序を生み出す情報やその影響力を研究している一流の科学者の中には、光り輝く白い髭のおじいさんといった神話的な神さまではありませんが、このワンダフルな世界を創りあげた何かをはっきり認めて「サムシング・グレイト」と呼んでいる人が現われています。現代は、そういう宗教と科学が調和する時代になっている、と私は考えています。

 短い時間なので、今日はこれ以上掘り下げて考えることができませんが――もっと掘り下げて考えてみたい人がいたら、秋学期の「キリスト教と他宗教」を受講してください――学生諸君には、なによりもまず、この世界・自然が不思議・ワンダーでいっぱいのワンダフルな・すばらしい世界であることを感じ取る「センス・オヴ・ワンダー」という感性を磨いてほしいと思っています。そして、さらにその向こう、その奥に働いている力についても考えてみてほしいと願っています。



センス・オブ・ワンダー
レイチェル・L. カーソン
新潮社

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コメント (8)
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