ディカプリオお味噌味

主に短編の小説を書く決意(ちょっとずつ)
あと映画の感想とかも書いてみる(たまに)

悲しみの傘③

2016-10-13 00:15:04 | 小説
 六月晴れとでもいうのだろうか。太陽の姿は見当たらないのに空は湖に太陽の光を注いだように真っ青に輝いている。こんな天気は今日が最後で、明日からはしばらく雲行きが怪しい日々が続くらしいと、お気に入りのお天気お姉さんがいっていた。
 伸久は織田裕次郎の住むアパートに向かっていた。二十歳になって学校もバイトもない、ゆえに伸久は夏だけニートになる。少しでも自分の小遣いを稼ぐために短期のバイトを探すべきなのだが、帰国してすぐにそうは簡単に頭も体もいうことをきかない。日本では携帯すら持っていないのだ。
 二十歳で携帯も所持していないニートなんてもはや日本では俺一人くらいだろう。そんなことを考えながら、伸久は目的のアパートにたどり着いた。
 裕次郎の住む年季の入った小汚いモルタル造りのアパートは懐かしくもあるのだが、近寄りがたい場所でもあった。裕次郎は幼馴染であり親友でもある。幼稚園、小学校のころは毎日のように遊んだ。だが、このアパートにはほとんど足を踏み入れたことがなかった。
 インターフォンを一度押したが物音一つしない。
 いないか。
 透いわく、裕次郎は朝の新聞配達が早いから午前のクラスはとっていないらしい。だから家にいるかと思ったのだが。
 もう一度押した。音はない。やはり出てこない。
 いまどき突撃訪問なんてないか。
 携帯の重要性を思い知った伸久は自らの無計画な行動に苦笑し、目の前の階段を下りようとしたが、下界に姿を現した裕次郎の姿を捉えると、足が止まった。
「裕次郎か」
 咄嗟に上げた裕次郎の顔には青髭がやや目立ち、無地の白シャツと黒のスキニーパンツにコンパクトに収まった体は以前よりも細く矮小しているようで脆弱な印象を伸久に与えた。鼻梁はその高さを増し、女性が憧れるようなぱっちりお目目は昔のまま健在だ。
「ノブか」
 裕次郎は親友の帰りに童のような声を上げて可愛らしい笑みを浮かべた。
「凱旋帰国だな」
「その割にはあまり歓迎されてないんだ」
「こないだは悪かった。ちょっと色々あってな」
「別にいいんだよ。お前と違って、俺は暇で仕方ないからな」
「背伸びたか?」
「莫迦野郎、それは俺の台詞だ。いつの間にかこんな伸びやがって」
 小学校のころは伸久の方が二〇センチ近く上回っていた背丈も、今では裕次郎に軍配が上がっているようだ。
「入るか」
 意外な言葉だった。
「え、いいのかよ」
「悪いが金欠で洒落た喫茶店行く金もねえんだよ」
「いや、携帯持ってるだけマシだよ」
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