「じゃあ僕が呼んでくるから、リオン達はここで待っててね」
「そういう仕事は私がやりますよ!」
「いいって、いいって!」
「王子!」
リオンがとめるのを笑顔で振り切り、王子は身を翻して走っていった。本拠地の一階ロビーにはリオン、サギリ、シグレの三人が取り残される。
珍しい取り合わせで残された三人は、軽く顔を見合わせて苦笑した。
彼らがここに集められたのは、ビーバーロッジの上流に住むと噂の主様に会ってみたいという王子の希望が発端だった。
パーティーメンバーとしておつきのリオンが選ばれたのは当然のこととして、近距離戦闘用にカイルとシグレ、コンビで遠距離のサギリ、魔法使いでレヴィを選出。探すまでもなく一緒にいるリオンといつも探偵事務所で寝ているシグレとサギリはすぐにつかまったのだが、あと数名(特にカイル)がつかまらない。
また手分けをしてばらばらになると手間がかかるから、と王子自らが他メンバーを呼びに出て行ってしまい、結局すぐに集合したリオン達がロビーで待つこととなったのだ。
「王子が戻ってくるまで、のんびり待つか……」
シグレがそう言って煙管に火をつけた。
三人とも、人と話すことがあまり得意ではない。彼らは何となくお互いに黙り込んだ。
「あの……シグレさん」
しばらくして、口を開いたのはリオンだった。
「ん? なんだいお嬢ちゃん」
「お願いですから、あまり見ないでください」
集められてから何故かずっとシグレに凝視されていたリオンはシグレを見上げる。声をかけられたシグレは、ぷかりと煙を吐きだすと視線をはずした。
「悪いな。あんまりかぁいかったからつい」
「……あまり、そうは思えないのですけど」
誠意のない謝罪にリオンが困り顔になる。
人の気配を読むのが得意なリオンにとってシグレの視線は非常に気になるものだった。だがしかし、その視線には愛らしいものを慈しむ様子も、反対に敵意や憎悪も感じられない。正直意味がわからなくて困るのだ。
幸いここにはサギリとシグレしかいない。リオンは思い切って問いただすことにした。
「レインウォールで会ったときからずっとですよね。シグレさん、何故私を見るのですか?」
「だからぁ、かあいかったから見てただけだって」
「そんなこと……」
「シグレは、貴女が心配なのよ」
ずっと黙っていたサギリが口を挟んだ。
「心配? 私を、ですか?」
サギリの言葉に驚いたリオンが、思わずシグレを見上げる。シグレはぷいとそっぽを向いた。サギリは微笑む。
「貴女はまだ小さかったから覚えていないかもしれないけど、私たちはあの組織にいたころの貴女を覚えているの。だから、レインウォールで会ったときはびっくりしたわ。あのときシグレがずっと見ていたのはそのせいね」
「あの組織にいた私は貴女達にとっては危険な存在になりかねませんものね」
「違うわ」
くすくす、とサギリが笑う。
「あの組織にいた子供たちは、ひどい教育をうけていたせいか悲惨な末路をたどった子がほとんどなの。貴女はちゃんと成長して王子と笑っているしょう?それが嬉しかったのよ」
「嬉しい?」
「ちゃんと育つことができる子がいたんだって」
サギリは微笑んだ。そういえば、戦闘に何度か同行したことがあるが、リオンはサギリの笑顔以外の表情を見たことがない。
「心配しているのは、せっかく育つことのできた貴女に悲しい想いやつらい想いをしてもらいたくなかったから。ある意味仲間……と私たちに思われているのは、貴女にとって迷惑かもしれないけど」
「迷惑だなんてそんな」
リオンは首を振った。
太陽宮の人たち以外に、自分の身を案じてくれる人がいるとは思わなかった。
しかもあの組織にいて、過去の自分を知っている人が。
不器用ながらも向けられたその優しい感情は
「とても嬉しい、です」
顔を真っ赤にして答えたリオンにまたサギリは微笑みかける。
顔は笑っていたが、リオンにはその表情が一瞬切なそうなものに見えた。
「ねえリオンちゃん、貴女は今幸せ?」
「幸せですか?」
リオンは、その問いかけに込められた意味を必死で考える。
彼らの優しい気持ちに、応えたかった。
「フェリド様に拾っていただいて、王子のお側にいさせていただいて、陛下や姫様、女王騎士の方々にも大事にして頂いて、私はとても幸せ者です。今はとても大変な時期で、胸を張って幸せですとはいえないのですけど、精一杯努力をしてもっと幸せになりたいと思います」
「そうなの。じゃあ私たちも貴女が幸せになれるように助けるわね。貴女が幸せだと、私たちも嬉しいもの」
そう言ったサギリの微笑みは、今度は心からの笑顔に見えた。
「ありがとうございます」
リオンも精一杯笑い返す。その頭にぽん、とシグレの大きな手が置かれた。顔はそっぽを向いたままだが、今のリオンにはシグレから向けられる気持ちがなんとなくわかる。
「・・・あ~~その、何だ。あんまり泣いたりとか怪我とかするなよ? いろいろと、面倒くさいから」
「はい!」
傍目には関連性のない三人が妙に仲良くなっていることに、メンバー召集から帰ってきた王子が首をかしげるのは、その少しあとのこと。
探偵好きに20のお題。
「今は幸せ?」
きっとお題作成者の意図はぜんぜん違うところにあるのでしょうけど、ネタの神様には抗いきれず曲がったまま変化球を投げてみました。
しかもSSつき。
同じ組織出身ということで、探偵事務所の三人はリオンにいろいろと思うところがあったのではないかなーと。
(一応探偵調査でオボロさんのコメントついてますが)
結構、シグレちゃんもサギリちゃんも情が深いから自分より王子優先だったりドルフにストーカーされてたり怪我してたりするリオンのことは結構というかかなり心配してると思う。
探偵事務所、隠れ妹?