ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・病気・芸能・スポーツ・政治・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年、「僕とパニック障害の20年戦争」出版。

大人になるにつれ、かなしく(8)

2016-12-13 22:00:40 | Weblog
多くの人々を挟んでいるため、はっきりとは確認できないが、藤沢と有紗は、最も端の席のベンチに座っているようだった。程なく8両編成の電車が定刻どおり滑ってきた。8両目に乗った彼らを見て、僕は6両目に乗った。藤沢の自宅の最寄り駅は5つ目だ。その間、何かの間違いで、二人がこの車両に入ってくるのではと少し不安を覚えたが、それはなかった。彼の駅へ到着した。昼とはいえ、乗降客は比較的多い。これなら人波を利用出来ると思った。僕は彼らを利用し、すばやく死角へ隠れ、二人が階段方向へ向かってくるのを待った。

しかし、二人はいつになっても来ない。見失ってしまったようだ。確認のため、僕はゆっくりとホームの端へ向かって視線をスライドさせていく。やはり誰もいない。それを確認し、僕も階段方面へ向かおうとした。その時だった。二人がホームの隅で、キスしている映像が入ってきたのは。僕はゆっくり後退りながら、抱き合う二人を見ていた。

二人が付き合っていたのは知っているから、別にキスくらいしていたって、驚かない。むしろ自然だと考えていた。しかし、直接その姿を見て、僕は激しく動揺したのだ。教祖と女神が僕の下品な行動に対し、罰を与えたのかもしれない。

僕は力ない足取りで下りのホームへ向かった。反対のホームから、右端を見る。列車は呼吸するように人々を吸い込み、人々を吐き出す。そして、次の列車のための新しい酸素たちが、続々と用意されていく。すでに二人の姿はない。鼓動が高まり、目から何か溢れてくるから、目頭を押さえた。涙で視界が白くぼやけた。その後のことは記憶にない。
ジャンル:
小説
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