ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・病気・芸能・スポーツ・政治・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年、「僕とパニック障害の20年戦争」出版。

大人になるにつれ、かなしく(28)

2016-12-24 21:23:26 | Weblog
亜衣が女児を出産したのは8月のはじめだった。出産に関しては男は全く役に立たないとはよく聞く話だが、真実だった。僕はいても、いなくてもいい存在に成り下がった。亜衣が妊娠してからは、自分が亜衣と生まれてくる子を守るという意識が強まっていたが、そのような小さなプライドは、出産の苦しみに耐えた亜衣と比較すること自体、おこがましい。それに退院した後すぐ、亜衣が「今度は男の子がいいなあ、一姫二太郎って言うでしょ」と言ったのには、驚かされた。この小柄な体に、どれだけの生命力と精神力を兼ね備えているのかと思うと、畏怖の念すら湧き上がってくるのである。

翌年の春、僕はめでたい場所で藤沢と有紗に再会した。都内某所の結婚式場である。

「結婚おめでとう。孝志。有紗さん」
藤沢と有紗がゴールインしたのだ。

「ああ。今日のスピーチ頼むな」

「気が重いけど何とかやってみるよ」
藤沢に新郎新婦の友人代表のスピーチを依頼され、僕は渋々了承した。

「坂木君、久しぶりだね。卒業式以来か。私のこと、覚えてくれてる」

「勿論だよ」

「大人っぽくなったね。当たり前か」
有紗はにこやかに言った。この笑顔さえあれば、きっと二人は上手くやっていける。一抹の不安はあるけれど。

ウエディングドレス姿の有紗は想像以上に美しかった。

「幸せになってほしいなあ、有紗ちゃん。すっかり大人の女性になった。うん、綺麗だ」
いまや僕の義父となった白川さんは、感慨深げだ。緊張の中にも、有紗の顔には時々、笑みがこぼれていた。

新郎の孝志は、ダークグレーのタキシードが良く似合っている。誰もが憧れる美男美女のカップルの結婚式。しかし、式場はこじんまりとしている。親族、同僚、友人。どれも疎らなのだ。孝志の父は、やはり姿を見せなかった。しかし、花嫁の父が欠席なのは意外だった。理由は体調不良という事らしいが、この結婚に反対だったと藤沢から聞かされている。有紗の母と兄夫婦とその娘たちが、父親の不在をかろうじて取り繕っている。

同僚や友人は、新郎新婦ともに10人程度。藤沢の高校時代の友人は僕だけだ。有紗は社交性もあり、いまは大型書店のフロアを仕切っているのだから、いくらでも呼びたかったに違いない。しかし、藤沢とのバランスを考えたのだろう。そもそも藤沢は、結婚式を挙げたくなかったのだ。すべては有紗のためだった。


ジャンル:
小説
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