ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(59)

2017-01-03 10:27:34 | Weblog
喫茶店「樹々」のカウンター。

「そうか。藤沢君、施設に移されるのか」

白川さんの顔はいつになく神妙だった。

「病院としては良くなる見込みの薄く、かといって直ちに命に別条のない患者は、退院させたいんですよね」

僕は窓際の席に、向かい合って座っている高校生のカップルに目を向けた。かつて僕が通っていた頃の制服と変わっていない。

「なかなか美男美女の組み合わせじゃないですか」

僕は声を絞って言った。

「ああ、あの子達。そうだね。あの二人、見てるとねえ、藤沢君と有紗ちゃんを思い出すよ。君がいない時は、彼らもあの席に座っていた」

「それにしても、少し幼くありません?孝志と矢野と比べると」

「いやあ、そうでもないよ。確かにあの二人は大人びてはいたけど、それでも、あどけなかったよ。誠君はさらに幼かった」

白川さんは遠くを見つめるような目をしていた。僕は少し恥ずかしかった。

「でも、あのカップル、見込みありますよ。今の時代、チェーン店に入らず、この店を選ぶなんて、センスがあるな」

「このあたりもだいぶ、チェーン店が増えたからね。なかなか難しい時代になったよ」

白川さんが苦く笑う。

「そういえば、亜衣がこの店を手伝いたいらしいですよ」

「ああ、そう」

「お義父さんも、ランチの時間とか、一人じゃ大変でしょ」

「ううん、昔はお客さんは多かったけど、今の方がきついな。やっぱり年かね」

「だから父娘でやればいいじゃないですか。亜衣はこの店への思い入れが強いみたいです。俺だってこの店に残っていて欲しいですよ」

僕は冷めたコーヒーを飲み干した

「そろそろ、いかなきゃ」

「どこに?」

「学校へ行ってみようかと。この前、喫茶店の写真を孝志に見せたら、凄く嬉しそうで。だから、今度は母校でも撮ってこようかなって」

「そうか、孝志君、喜んでたか」

白川さんは静かな笑みを浮かべた。僕は店を出て母校へと向かった。



コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大人になるにつれ、かなしく... | トップ | 大人になるにつれ、かなしく... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿