私は、仲のいい後輩の棋士である、田口みずき女流一級を誘い、糸井君に指導してもらった。田口さんは私より10歳近く年下で、最初に集まった時はまだ高校生だった。場所は将棋館、あるいは森村先生の自宅を訪ねていくことも多かった。その時は奥さんが面倒を見てくれた。
私と田口さんの対局を糸井君が見守る形で行われた。たいてい、2局指して1勝1敗といった所だった。勝負を終えると、盤面を戻し、糸井君が二人の悪手や甘手を指摘する。
「そうですね。さおりさんは、やはり全体的に集中力が、以前より落ちていると思います」
「そうかな?」
「はい。こういった研究会だからという訳ではなく、公式戦でもそう感じます」
「そうか・・・」
「糸井先生、私は」
田口さんが、糸井君の褒め言葉を待っている。
「うん。全体的には良く指せているけど、ちょっと攻めっ気が強すぎるかな。もう少し、守りにも重点を置いたほうがいい」
「はい。守りですね。でも守り、苦手なんですよね。性に合わないというか」
奥さんが紅茶を運んできた。
「糸井君、田口さんには、優しく教えてあげるんだよ」
「は、はい」
糸井君も奥さんには頭が上がらない様子だ。何せ、小学生時代からの姿を見られているのだ。
田口さんは、森村門下ではない。思えば、多彩な顔ぶれが、森村家には集まった。菜緒も私の誘いで何度か来た。奥さんは先生の死後も、こうして私たちが森村宅へ訪ねてくるのが嬉しそうに見えた。
「さおりちゃん」
「はい」
奥さんは私の肩をたたいて、優しい眼差しを向けた。何も言わずとも私たちは森村先生を通してつながっていた。
私と田口さんの対局を糸井君が見守る形で行われた。たいてい、2局指して1勝1敗といった所だった。勝負を終えると、盤面を戻し、糸井君が二人の悪手や甘手を指摘する。
「そうですね。さおりさんは、やはり全体的に集中力が、以前より落ちていると思います」
「そうかな?」
「はい。こういった研究会だからという訳ではなく、公式戦でもそう感じます」
「そうか・・・」
「糸井先生、私は」
田口さんが、糸井君の褒め言葉を待っている。
「うん。全体的には良く指せているけど、ちょっと攻めっ気が強すぎるかな。もう少し、守りにも重点を置いたほうがいい」
「はい。守りですね。でも守り、苦手なんですよね。性に合わないというか」
奥さんが紅茶を運んできた。
「糸井君、田口さんには、優しく教えてあげるんだよ」
「は、はい」
糸井君も奥さんには頭が上がらない様子だ。何せ、小学生時代からの姿を見られているのだ。
田口さんは、森村門下ではない。思えば、多彩な顔ぶれが、森村家には集まった。菜緒も私の誘いで何度か来た。奥さんは先生の死後も、こうして私たちが森村宅へ訪ねてくるのが嬉しそうに見えた。
「さおりちゃん」
「はい」
奥さんは私の肩をたたいて、優しい眼差しを向けた。何も言わずとも私たちは森村先生を通してつながっていた。