私のタイムトラベル

ある家の物語・白鷺家の人々
― 道理を破る法あれど法を破る道理なし ―

道具のこころ

2017年06月18日 | 2. 闘争編

「道具にはこころがある。 道具は心を大事にするもんやけど イチロウさんはみな、

 お金に換算しはる。 これ何ぼの人や」 と後年、梅子叔母は父をそう酷評したが、

とにかくこの家において道具に対する愛着には、並々ならぬものがあった。

 

しかし “道具にはこころがある”と言って、わが兄のもの分からぬ精神を批判した叔母も、それから 祖母・松子さんも、

テレビで放映される “これ何ぼ” の『開運 なんでも鑑定団』という番組が、けっこうお気に入りであった。 

 

松子さんの道具に対する保管の仕方は、とにかく念がいっていた。

父はこれを称して、<お袋のツタンカーメン>と言っていた。

年に何度かの家族が集まっての賑やかな食事のあとは、たいていは、お抹茶をたのしむ。

長い晩餐のあと、使用した たくさんの茶器は、長い時間をかけて丁寧に食器棚にしまわれる。

この時のしまい方だが、まず、茶器を黄色い布で包む。 つぎにそれをうす紙でさらに包む。 

それを木箱に入れると、今度は茶器が揺れたりしないように、その周囲に紙を丸めて詰める。

それから茶器の銘が記された包装紙で木箱を包む。そしてそれを紐で十文字にむすぶ。

つぎに新聞紙で包み、今度は荷造り用の紐で再度括り、やっとひとつが完了する。

晩餐のあとでの片づけであるから、母が片づけを終えて我が家に戻るのは、日をまたぎ、

たいてい真夜中1時か2時過ぎだった。

                             

 

ところでいつだったかのお正月のこと。(お正月はたいていは家族だけで祝う )  

お雑煮を祝った後、例によっておうすを楽しむことになった。

松子さんはきれいな漆のお皿を戸棚から取り出し、そこに上等の和菓子をのせた。 

父の前に和菓子が置かれ、私のたてたおうすがそれに並んだ。

父はおもむろに自分の前にお皿を引き寄せ、和菓子を食べようと黒文字を取り上げた。 

その瞬間、松子さんは言った。

「イチロウちゃん ちょっと待って! そこでくろもじ使わんといて!!」

きれいなお皿に置かれたきれいな和菓子は、父の前に急ぎ置かれた普段使いの陶器のお皿に移動を余儀なくされた。

むろん、普段のお皿に変わっても、その和菓子の味は変わることはない・・・。

 

なお、その漆のお皿はそれからずいぶん後になって、我が家にやってきた。

母が松子さんの食事を作って母屋に持って行ったときにくれたのである。

料理を作ることがだんだん面倒になっていった松子さんの、母へのお礼の気持ちなのであろう。

まるで物々交換みたいに、松子さんの持っている大切な食器類は、母の作る料理とたびたび交換された。

 

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