私のタイムトラベル

ある家の物語・白鷺家の人々
― 道理を破る法あれど法を破る道理なし ―

梅子叔母の滞在(2)ー 芽生えていった争いの種 ー

2017年07月20日 | 2. 闘争編

梅子叔母が実家に滞在する期間は、たいてい一週間から10日ほど、年に3、4回であった。

トラブルが起こってからは黙ってナシの木町を訪れ、黙って帰っていく。

黙って来て、黙って帰っていくのであるが、その滞在はしかし騒々しい。


 裏庭には母屋と一部一体化した形の二階建ての我が家がある。その裏庭で

大きな声で祖母・松子さんに話かけながら行ったり来たりする。

こちらの生活空間が丸見えとなるからと我が家と隣接している母屋の仏間、そこのガラス戸を閉めると

梅子叔母は開け放つ。閉めるといつの間にか開いている。

深夜、裏庭にある洗濯機を回しながら

 咲かせて~ 咲かせて~ 桃色吐息~ あなたに抱かれて こぼれる 華となる・・・ とやる。

お風呂もなぜか深夜が多い。風呂場は母屋にはなく裏庭の我が家のごくごく近くにある。

その風呂場への行き来も鼻歌混じり。

おまけに真夜中に、バタン ドスン 大きな音を立てる。

母屋の座敷の丁度上あたりの部屋で寝ている私はたびたびそれで起こされることになる。

 

もっとも梅子叔母の滞在は昔からひどかった。

特に夏は1か月近く滞在していた。母屋にはクーラーがない。

自然、いとこの菊子ちゃん、百合子ちゃん、杏一郎くんは我が家に朝から入りびたりとなる。

そして子供のいない母屋で、松子さんと梅子叔母は朝顔パーティーと称して

大きなガラスのお皿にいっぱいの朝顔を浮かべ、それを愛でながら、優雅な時を過ごす。

それはそれでいい。それぞれにそれぞれの生活の楽しみ方がある。

しかし、この家ではあらゆることがいつも度を超していた。

 

夏の終わり、迎えに来た梅子叔母のだんなサンが我が家で遊びまわっている三人の子供たちを見て言った。

「おまえらー。みんなずっとここに入りびたりしてたんじゃないかぁ・・・」

「もちろんよぉ!!」 梅子叔母が屈託なくそう返事する。

 

もっとも傍若無人だったのは梅子叔母だけではない。勝手なのは竹子伯母も同じだった。

その当時、我が家に入りびたりの いとこ達がよく遊んでいたものにファミコンがあった。

心配性の松子さんはこの弟、カイトのファミコンを子供たちが壊したらどうしよう、どうしよう、と気にする。

そんなわが母親の様子を見て 竹子伯母は非難がましくこんなことを言う。

「おかあちゃんがあんたらにどんな気ぃつこたはるか(使っている)わかってる?!!」

  ・・・・

                           


父のきょうだいの家族が実家に帰ってくる時、親戚を迎え入れる時の松子さんの完璧なまでの準備、

それは若い頃の母を憂鬱にさせた。それが相手の気持ちを思いやる美しい感覚であったとしても、

だから お・も・て・な・し という言葉が母は嫌いだ。


こうして両親は次第に、不名誉にもきょうだい達の訪問を喜ばない心の狭い長男夫婦とならされていった

そんな土壌の中で争いの種は芽生え、少しずつ育っていった。実に実に不本意ながら。