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ここまであてにならない高度生殖医療施設の自主公表妊娠率

2017-08-13 20:22:24 | 日記
 体外受精や顕微授精などの高度生殖医療を実施している施設では自身の施設における妊娠率をホームページなどで公表しているところが多く見受けられます。しかしこうした数字にはほとんど意味が無く、治療成績を比較することもできません。一方でそれらをご覧になった一般の方々は多少お金がかかっても高度生殖医療さえ繰り返せば、待望の妊娠から出産に至るものと思い込んでしまわないでしょうか?特に治療周期数の多い施設では、巧みな母集団の操作により、治療の実態にそぐわない高い数字を公表しているところがある可能性は否定できません。その一方でこうした妊娠率の公表に学術的或は道義的な疑問を持つまっとうな産婦人科医師であっても、一応数字を公表しないと一般の方々に成績が悪いからではないかとあらぬ疑いを抱かれかねないことから、不本意にも横並びの数字を公表せざるを得ません。
 まず気をつけなければいけないのは一般的に施設毎に公表されている胚移植あたりの妊娠率の解釈です。施設によっては凍結融解胚盤胞移植あたりの妊娠率を単に胚移植あたりの妊娠率として公表しているのではないかと思われます。しかし同じ胚移植でも凍結融解胚移植あたりの妊娠率は新鮮胚移植あたりの妊娠率より高くなります。その理由として卵巣刺激後の子宮内膜が落ち着いてから移植した方が着床しやすいためという考え方もありますが、凍結融解胚移植を実施する母集団ではそもそも卵巣機能が良く実は体外受精が必ずしも必要でない女性が多く含まれているためである可能性があります。卵巣機能の良い女性では卵巣刺激により卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になるため、卵巣が落ち着くまでは胚移植ができず、全胚凍結することになります。もし卵巣が落ち着かないまま着床すれば、OHSSは進行し重篤な状態に陥りかねません。また胚凍結に至る方はそれだけ余剰胚があることから卵巣機能が良い方が母集団に含まれる可能性が高いことになります。それはそうとして問題と思われることは、凍結融解胚盤胞移植あたりの妊娠率をあたかも胚移植あたりの妊娠率であるかのような誤解を与えていることです。受精卵は5日目に胚盤胞まで育って初めて着床が可能になります。しかし受精卵が全て胚盤胞まで育つわけではありません。それでも3日目の胚、場合によっては2日目の胚を凍結融解して移植している事例もしばしば見受けられます。受精卵の数が少ないと胚盤胞まで至らず、移植がキャンセルとなるリスクが高くなるためでしょうが、凍結融解胚盤胞移植あたりの妊娠率を公表しておきながら、実際はメインには2日目や3日目の胚を凍結融解移植している施設が多数存在しているものと思われます。
 そこで採卵あたりの妊娠率を公表している施設もあります。しかしこの妊娠率は採卵周期あたりの妊娠率ではないことに注意が必要です。つまり卵巣刺激をしても卵子が採取できず、卵子が採取されても未成熟卵や変性卵のため顕微授精がキャンセルになることもあり、こうした採卵周期を母集団に含めるかどうかは施設の裁量でいかようにも操作できます。
 さらには採卵周期あたりの妊娠率を出したとしても、その数字の解釈にはやはり注意が必要です。なぜなら一般的に胚移植着床後の流産率は女性の年齢に伴いとても高くなりますので、同じ患者さんが何回も着床して妊娠数としての分子を押し上げている可能性があるからです。その絡繰りがわかっていてかわからずしてかは不明ですが、胎嚢が見えた段階で臨床妊娠としてカウントしている施設が多いように見受けられます。
 これまでの多数の研究から受精後の発生と着床、胚の発育には精子のDNA integrity(遺伝子の状態)がかなり重要であることは間違いありません。したがって米国の男性不妊専門医は児の1人出生あたりの医療費を治療効率の目安として算出して公表しています。例えば精子のDNA integrityを改善させる精索静脈瘤の根治は自然妊娠のみならず、体外受精などの妊娠率を上げて流産率を減らすことも報告されています。これから不妊治療を始められる方々にとっては治療によって実際に健常児に恵まれる可能性とそこにかかる費用が一番の関心事であるため、1人出生にかかる費用の算出は最も合理的な指標と言えます。したがって不妊治療カップル数がさほど増えていないにも関わらず、体外受精や顕微授精の治療周期数が増え続けている日本の現状を考慮すると、本当は高度生殖医療により1人出生にかかっている医療費についてきちんと計算して公表しなければいけないのではないでしょうか?しかしその数字が公表されて現実を知ることの是非もあるかもしれません。なぜなら多くのカップルは不妊治療で実は夢を買っているという現実があるからです。そうであれば受精卵が一個も胚盤胞にならず移植ができず失望するよりは、着床する可能性の低い3日目や2日目の胚を移植して妊娠反応が出るかもしれない夢を持てる方が一時的にせよ幸せであるかもしれません。しかしその患者心理を商業主義に利用しているとしたらそれはそれで大きな問題と思います。人間は生きて行くのに夢は必要です。しかし数字を出す以上は集患のため見るものに思い込みを抱かせる事を目的とするのではなく、治療の現実に対峙させるものでなくてはいけないのではないでしょうか?
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