メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『ニュールンベルクのストーブ』

2017-02-18 10:50:04 | 
原題 THE NURNBERG STOVE ウィーダ/著

※1993.9~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト1」カテゴリーに追加しました。

『フランダースの犬』とはまた違った趣の1作
オーガスト少年が心底愛するヒルシュフォーゲルの行方を追って、一風変わった旅をする物語


母のいない、子どもの多い大家族
気の弱い父は、ある日返すあてのない多額の借金のために
祖父が掘り出した素晴らしい装飾のストーブを
商人に騙されて安値で売ってしまう

神さまと同じように、そのストーブを崇拝していたオーガストは
売られていく先までストーブの中に身を潜め
空腹や不安に苛まれながら、いったん商人の部屋で一夜を過ごすが

その夜、なんともフシギでステキな骨董品たちのダンスを観て、
愛するヒルシュフォーゲルの声を聞く


ストーブと少年は、ドイツの国王のもとへ送られ
事情を聞いた若く優しい王は、少年の無邪気で一心なヒルシュフォーゲルへの気持ちにうたれ
彼の家族に当然支払われるべきだった多額のお金を
そしてオーガストは画家になるべく教育を受けさせて、
立派に成人したらストーブを譲る約束をする


なんといっても、ヒルシュフォーゲルの演説
何百年もの歳月を経て、人間を見つめ続けてきたモノの言葉が
私たち人間の心に重く響き渡る


“言葉とは、人に課せられた呪いである
 モノである芸術品が、自分たちを創り上げた真の製作者を熱く想う気持ち
 単なる見世物として観られるのではなく、モノとして深く愛して親しんでくれる者のそばにいて
 彼らの目を楽しませることこそ、製作者に対する恩返しだ”



モノ、模造品も無数に出回って、あふれている現代でも充分に通用するメッセージ

突然、芸術品に命を与え、話をさせるところなど全く予想もしない展開で
だからこそ胸に残る1場面

ラスト、国王に出会って、また信じられないくらい優しいのもお話ならでは

ハッピーエンドでホッとしたけど、最初、凍てつく夜に、外から帰ってきた少年が
貧しいながらもヒルシュフォーゲルがいるだけで、小さな弟妹も幸せいっぱいにしてくれる
暖かい場面があるからこそ、その後の話がいきている


“詩人や画家の才能は、他の人には見えないことを見せ、聞けないことを聞くために存在する”

とクリエイターを励ましてくれるような一節があるが、
ウィーダの作品(まだ2冊目だけど)には
所々に特別重要なメッセージがいくつもあって、どの1行にも濃縮されている


容赦なく凍りついた冬、貧しい家族だけれども、
その心の中から生まれる美しく清らかな温かさ、愛のあふれている2作だった

できれば挿絵の入ったものを読めたらよかった
いろんな骨董品が世にも不思議なパーティを開いているところを挿絵にすれば
きっと素晴らしくファンタジックなものになるだろう



チロルのストーブ





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