メランコリア

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『レクトロ物語』ライナー・チムニク

2010-07-22 19:41:40 | 
『レクトロ物語』ライナー・チムニク/文・絵 上田真而子/訳 福音館文庫
チムニクの本としては長編というか、たくさんのレクトロのお話を1冊にまとめたもので、
毎ページに話にピッタリの線画が挿し込まれてて嬉しいかぎり。
『クレーン男』にも同じ名前で、似てるキャラクターが出てきたけど別人なのかな?
たしか戦争に行ってそれきりだったはずだけど。。

楽しいのは、レクトロがさまざまな珍しい仕事に就いて、活躍すること。
道路掃除夫、駅員、郵便配達員、飛行船からのビラ配り、消防士、進水式の管理人、電話線工事夫、動物園の飼育員、発明家・・・
いつも「うっとりと夢をみて」いるのが大好きだけど、技術士でもあり、夢中になったことには努力家なレクトロ。
専門職はとくに資格や経験者じゃないと採用されない世界だけど、たまたま空きができて飛び込んじゃうんだよね。
あっけない最期がビックリしたけど、全然悲しいエンディングじゃない。
子ども向けだけじゃないチムニクのさらに深い魅力がつまった1冊だった。

p.96
「小包を受け取るのは、われわれが生きてゆく上でのささやかな喜びのうちで、もっとも大きな喜びのひとつだ」

p.285
「あの鳥たちはみんな温かくて、やわらかくて、生きているんだ。そしてみんなそれぞれ小さな鳥の心臓を持っていて、トクトクと、高価な懐中時計のように、速く、興奮して打っている。鳥たちは大急ぎで生きて、まもなく死ぬからだ」
大統領が小鳥の心臓音を聴きながら、自らも鳥になって首をかしげるシーンは衝撃的。

p.303
「みんな、びっしり並んでいっしょに歩いているのに、一人一人自分の中に閉じこもっていて、だれも話しあおうとはしない。だから、家にいてさびしくてやってきたものには、そのさびしさが一層つのるのだった」

p.378
「レクトロは自分が一人ぽっちではなかったことに初めて気がついた。そして、とても、とても、幸せな気分になった。わたしたちが想像できるより、ずっと幸せな気分に。なぜなら、わたしたちが幸せだというときは望みを一杯抱えたままで、しかもその望みはいつも夢でしかないのだから。けれども、今やレクトロにはそれらが夢ではなく本当になっていた。そこでレクトロは思った。さあ、いい気持ちになって夢にふけることができるぞ、いつもそうだったように、と」

p.380 あとがき
「チムニクはあるインタビューで、私たちを取り巻いている具体的な現実をそのまま生きた童話の世界に取り込んでしまいたい、といっています。(中略)それは、技術の巨大な機構や管理の非人間的なからくりなど、現代のさまざまな社会システムの中で押しつぶされそうになる個人が、懸命に人間として生きていこうとする、その健気さです」


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