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『神秘の島(上下巻)』 ジュール・ヴェルヌ著

2015-03-17 13:14:56 | 
『神秘の島(上下巻)』(1875) ジュール・ヴェルヌ著(福音館書店)
清水正和/訳 J.フェラ/画
初版1877年 フランス、1978年 日本、1984年6刷

 

神秘の島(上)
神秘の島(下)

(以下は読後当時の感想メモを転記したもの

あらすじ(ネタバレ注意

ヴェルヌのピーク時に書かれた最高傑作であり、『グラント船長と子どもたち』(1868)、
『海底二万海里』(1872)の最後を締める3部作の最終結末でもある。

とくに渦に巻き込まれたネモ艦長の乗るノーチラス号がその後どうなったのか、
彼の生い立ちの秘密が明かされるとあって、ずっと読みたかった。

物語は『二年間の休暇』の大人版。漂流海賊による危機脱出という大筋は似ているが、
今回はもの知り博士サイラスのおかげで、あたかも文明社会を一から築き上げてゆく面白味がある。
原材料と作り方を知っていれば無人島でもへっちゃらってことだね。まるで科学の教科書みたい。
『自給自足の本』の発展版というか、サバイバルツールとしても役立ちそう。

働き者の水夫で、笑いを誘うペンクロフ、博物知識が豊富な少年ハーバート、
記者で目利きな上、器用なスピレット、料理はおまかせの黒人ナブ、
そして野生の本能、忠誠心、賢くて、重要な登場人物の一人、犬のトップ、
『Aチーム』のように個性のハッキリしたキャラの役割分担、性格描写、その関わり合いも奥深くて面白い。


あらすじ(ネタバレ注意



【第1部 空の遭難者】


ドラマは嵐の中で死闘する気球と男たちの会話ではじまる。
すべての荷物と、ゴンドラまで捨てて、必死にたどり着いた陸地。
だが、リーダーのサイラス、スミス技士がいない

元は、南北戦争時に捕虜となったスミス、水夫ペンクロフが脱走の話をもちかけ嵐の中飛び立ったのだった。
岩の重なるチムニーを仮の住まいとして、技士を探す。
犬トップのおかげで、フシギにも砂丘の奥の洞窟の中にいたスミスを発見。

1本だけ残ったマッチも使ってしまい、途方に暮れていると、時計のガラスを2つ組み合わせて
太陽熱でカンタンに火をおこしてみせるスミス。

「島か? 大陸か?」

聳える山に登り、一望すると、周囲は海ばかりの島と分かり、長期滞在に備えて、
まずはレンガを作り(!)、窯で陶器を作る。
棒の縦三角形の比で経度を、その影から緯度を割り出し、そこがどの大陸、群島とも離れた未知の島だと知る。


翌日から、原始的ではあるが、確実に文明社会に近づける皆の努力がはじまる。
鉄を作り、道具を作り、ニトログリセリンを作り、岩を爆破して湖から岸部の絶壁に続く巨大な洞窟への入り口を作り
「大寺院の本堂」のような自然の創造物の中を改築して、窓、ハシゴ、家具、暖炉も作ってマンションにしてしまう!

湖のジュゴンとの戦いでトップが救われたり、井戸の底に向かって吠える怪事件も起きる。
ポケットの奥にあった1粒の麦から80粒、それを蒔けば800、64万、5億!に増えると説明するスミス。
そして大事に育てられた麦は、事実そのように確実に増え、ついにパンが主食の夢が叶う。

鳥、獣、鮭の大群、牡蠣の養殖、薬草、コーヒー、ついにはペンクロフが夢にまで見たタバコも見つかり、
皆の秘密のプレゼントに狂喜するシーンはイイ。

「おお神よ! 万物の聖なる創造主よ! もう島には不足なものは何もありません!」
この平和もブタの中に入っていた霰弾(発射すると,多数の小さなたまがあられのように飛び散る弾丸)の発見で破られる。



【第2部 見捨てられた男】
この島に他の人間がいるのかが皆の大きな関心事になる。
ひっくり返したはずの海ガメがいなくなった。
木の皮のボートで未知の部分の探検に出かけ、あらゆる道具、衣類、武器の入った箱を発見する。

例によって皆は「ウラー」を連呼。
中の聖書を水夫の縁起であてずっぽうに開いた紐のあるページ、赤い印のつけられた言葉は
「全て求むる者は得、尋ねる者は見出し・・・」(マタイ伝7章8節)

爬虫類岬の探検も終わった帰途、木にひっかかった気球の風船を発見する。
「これで下着が作れる!」と回収する。

クタクタになって川にさしかかると、偶然か、つないでおいたボートが流れてくる。
グラニットハウスに謎の侵入者がいる事件はゾッとした。

ハシゴを引き入れた手が猿でホッとしたが、オラウータンのジュップは「口数の少ない理想的な召使い」となる。
水車で動くエレベータもとりつけ、ガラス器も作る。

クジラが銛を刺されたまま打ち上げられて、皮、ヒゲ、脂が手に入る。
厳しい冬も羊毛のフェルト毛皮があり、アホウドリの首に手紙をつけて飛ばした。

「水が電気、石炭の代わりの原動力になる」というスミス。ヴェルヌの未来透視力はスゴイ

キツネの大群と戦い、ジュップが大怪我を負う。
最初の帆船、ボナドベンチャー号進水の日、「タボル島に難船した」というビンに入った手紙を受け取り、
救助に向かうと、すっかり野獣化した男を発見して連れて帰る。

「人の魂は死なない。理性の光を取り戻させるのが我々の使命だ。可哀想な見捨てられた男だ」

最初は仲間になるのを拒むが、男はついに告白する。
ダンカン号の船員は、子の父で船長のグラントを捜していたが、
この男エアトンがグラントから船を奪おうとした本人で、ダンカン号を手に入れようとして失敗。
孤島に取り残され、改心し、迎えを待つうちに理性をなくした。
だが、ビンのSOSを投げたのは彼ではなく、島を見失いかけたペンクロフの見た炎はスミスのつけたものじゃないと知り、
ますます神秘の謎は深まる。

囲い場との間に電信器もつけて、島や島民の写真も撮った。そこに船が1隻写っていた!



【第3部 島の秘密】
それが海賊船と分かり、かつてその仲間だったエアトンは、償うために単独調査に出て負傷して戻る。
船員は50名ほど。銃で応戦し、6人は島の内部に逃げ、砲弾はグラニットハウスを直撃する。
万事休すと思った時、機雷で海賊船は転覆!

一時、平和を取り戻し、大砲ほか船の部品等も手に入れた皆は、島の守護者と、
逃げた6人の海賊を探す旅に出ようと決心した矢先、電線が切られ、エアトンが消え、ハーバートが撃たれ、瀕死状態に!
読者はこの健気な少年の危機に胸を痛めずにはいられない。

囲い場の危機を知らせにいったトップと、台地を荒らされた知らせをもってきたジュップの活躍はエライ!


皆はグラニットハウスに戻ったが、ハーバートは傷からマラリアに罹る。
3回高熱が出たら死ぬというギリギリに、またもや神秘の人から特効薬が送られてきて助かる。
その上、捕虜となっていたエアトンは囲い場に戻り、海賊らは皆殺されていた!

守護神に感謝を述べずにはいられないと、洞窟、森を探し回るが見つからず、
代わりに死火山だと思っていたフランクリン山から噴煙が上がるのを発見する。


今度は海を乗り越えられる船を造るのに全力を注ぐ。
そして、ある夜「囲い場に来られたし」と神秘の人から電信が届く。
囲い場の手紙で洞窟へ、ボートで奥に行くと、まさにあの巨大な潜水艦ノーチラス号と対面。
老衰したネモ艦長が守護神だった!

彼は脱走したフランス人学者が『海底二万海里』を書いて世界に知らしめたことを知って驚いた。
(こんな粋な設定があるかしら! でも『海底二万海里』の舞台も同年代で重なっているのは変だが、
 ヴェルヌは3部作をそれぞれ独立した物語として扱っているとのこと

ついに明かされるネモ艦長の生い立ち!
インドのダカール王子として生まれ、最高教育を受け、世界中を巡りながら、支配国イギリスを心底憎み
ついに革命を起こして妻子、家族、同志が皆殺しにあい(この辺は予想できた)、仲間と潜水艦を造り、
人間社会と離れて、深遠な旅行者となり、沈没船の宝で巨万の富を得て、祖国独立に戦う民衆に与えていたのは知っての通り。


フランス学者と別れた後も旅を続け、1人また1人仲間が亡くなり、とうとう自分1人が残ってしまった!
リンカーン島に停めたノーチラス号は火山活動で岩に閉じ込められ、偶然流されてきたスミスらに共感し、
その都度救いの手を出していたという。

(60歳で老衰死を目前にして、なおこれだけ活躍してたっていうのも想像を絶するけど、
 すごい謎に包まれていたベールがとれたら、意外と普通の生身の人間だったんだなって感じ)


ネモ「私は間違っていたのだろうか? 正しかったのだろうか?」

サイラス「すべての偉大なる行為は、神の御意思なのです。
     あなたに助けられたものたちは、いつまでもあなたの死を悼むでしょう!」

跪き、手に口づけする少年に「少年よ祝福あれ!」という言葉が大きく心を打つ。

ネモ「祖国! 人間の帰るべきところだ! 人はそこで死ぬべきだ!
   だが、この私は愛したすべてのものから離れて死んでいく!
   孤立して生きることは、実際、人間の力に余る悲しいことだ。
   私は、人間は1人でも生きられると信じてきたまま死んでいくが、君たちは全力を尽くして生まれた国に帰るべきだ」

「神と祖国よ!」

とつぶやき、この文学史上、偉大なる人物はこうして死を迎える。
遺言通り、部屋は密閉されたままバルブに水が入れられ、ノーチラス号はネモ艦長の棺となって深淵に沈んでゆく。
彼の仲間の眠る海底奥深くへと


ネモ艦長が最期にスミスに助言した通り、まさに火山は爆発寸前で、海水が洞窟に流れ込んだが最後、
島ごと吹き飛ぶだろうことを皆に伝え、夜も徹して進水部だけでもと造船を急ぐが、
溶岩は容赦なく吹き出し、美しい森、川、湖までも飲み込み、恐ろしくも平坦な岩一面に変えていく。
そしてついに船の完成も待たずに、海水の流入で島は木っ端微塵!


漂流して4年も過ごした日々、今は1つの岩の塊となり、ネモ艦長の眠る墓場となった島のことを人々は忘れることはなかった。


****************************

簡単にまとめるつもりが、どこも削れなくて5ページにもわたってしまった。
概略だけでもこんなになっちゃうくらいの大冒険、スリル、サスペンス、友情、感動がいっぱいの大スペクタクル。
やっぱスゴイ作家だな、ヴェルヌって。

他にも地底とか月とか、時空も超えて繰り広げられる彼の「驚異の旅」シリーズ、読んでみたい。
とにかく、このテーマだけでも64編も書いたっていうんだから!

福音館書店ではもうヴェルヌは『八十日間世界一周』(1873)のみ。
これは映画で2回、絵本で1回読んだからなあ。

特筆すべきはリアルな挿絵。『海底二万里』(1870)の時と同じと思ったら違った。
ヴェルヌの複雑で驚異の世界には、こんなリアルなヴィジュアルの案内が必要。
噴火のダイナミックな描写といい、刊行時に作者と打ち合わせでもしたのかな?
せめて2~3枚はコピーして、この殺風景なメモに添えたい!




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