「激しすぎる感情の起伏」
悪妻が夫を育てるエピソードは、世の古今東西を問わず数々挙げられているが、
アメリカ第16代大統領リンカーンの夫人、メアリーも引けを取らない。
歴史の新しい時代の人物だけに、その悪妻ぶりを伝えるエピソードも大そうな数にのぼる。
彼女の最大の難点は、夫の社会的立場や身分を理解していなかったことだ。
これは二人がスプリングフィールドで出会った時、メアリーが名家の令嬢だったのに対し、リンカーンが無名の貧乏弁護士だったことに起因している。しかし、彼女は世話女房で、だからこそ、理想を掲げるなかりで世間に無頓着なリンカーンでも、上手く世渡りができたのである。メアリーは、夫が大統領になっても、世話女房役を降りなかった。自分が面倒を見るのを当然と考えていたのだ。
ただ、私生活だけならそれでも良かったが、彼女は政治問題にも口を出して仕切ろうとし、
人事問題にまで関わろうとしたから、リンカーンは辟易していたという。
また、メアリーの嫉妬深さも夫を煩わせた。
南北戦争勝利後の式典で、リンカーンがグラント将軍の若い部下の妻と話しただけでも、嫉妬で荒れ狂って周囲を困らせたし、
大統領主催のパーティでは、リンカーンが主賓の夫人と腕を組むのがマナーなのにも関わらず、それすらも許さなかったという。
更に、彼女はお嬢様育ちらしく浪費癖があった反面、ケチな行動で夫の面目を潰したし、
小さな出来事でも一喜一憂して大声を上げたり、落ち込んで寝込んだりもした様だ。
しかし、そんな彼女をリンカーンが愛したのは、無名時代の恋と世話女房ぶりに、彼なりの思いを抱いてのこと。
悪妻とはあくまで世間的評価であり、彼の評価は別だったのである。
世界の「美女と悪女」がよくわかる本