Mayumiの日々綴る暮らしと歴史の話

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好色五人女 巻一  「お夏の巻」

2017-04-16 16:18:21 | Weblog




お夏は、姫路の米問屋但馬屋の当主、九右衛門の妹でした。
世間から、京の島原の太夫を上まわる、と讃えられたほど、その美しさは言うに及ばず、十六歳ながら、すでに匂う様に艶やかな女っぽい娘だったので、降るほどの縁談も、相手の姿かたちをより好みし、袖にし続けていました。

この但馬屋へ、同じ播磨の室津から、清十郎という男が奉公に上がって来ました。元々は造り酒屋の跡取りだったのですが、遊女と心中事件を起こして勘当ものとなっていました。
相手の女から死に遅れて寺へ預けられていたところ、将来の為を考えて、世間のほとぼりが冷めるまで、手代として修行を積むのが良いだろうと、但馬屋へ世話してくれる人があったのです。

清十郎は大変な美男で、室津の八十七人の遊女すべてと深い仲になったと云う程の、 女に好かれる男前でした。
もともと育ちが良く、優しくて頭のいい男だったので、但馬屋に上がってからも、女中たちはみんな清十郎に色めき立ちます。
しかし、清十郎は、恋の遊びにも飽き果てて、人が変わった様に、真面目に実直に勤めていました。

ある日、清十郎は自分の帯のくけ直しを、女中の一人に頼みます。
女中が帯の縫い目をほどいてみれば、中から十四、五枚も、遊女の恋文が出て来ました。しかも差出人はすべて別人。
室津の有名どころの女郎たちが、商売の手管ではなく、本気の想いを綴ったものだったのです。女中たちは、興奮して文の数々を読み回しながら、それをお夏にも見せたのです。
商売女がこんなに夢中になるなんて、あの手代はどう云う男なんだろう?この時から、清十郎を意識し始めたお夏の気持ちは、いつしか恋心へと変わって行きました。

清十郎はと言えば、恋文の件以来、人気は増々過熱し、女たちの攻撃を捌きかわすだけで精一杯となり、遂には仕事も疎かになって来ます。面倒になってしまって、ぼんやりすることが多くなって来る日々の中、お夏からの恋文が次から次へと送られて来ます。
他ならぬ、お夏からの文。
一つ家にいながら、垣間見るぐらいの隙しかない中でも、
お夏の魅惑の姿は、やはり清十郎をも虜にしました。 
今は互いに、思いを遂げたいと、そればかりを願いながら、身分違いという無情の隔たりが、二人の前に横たわります。逢いたい思いを募らせたまま、恋やつれの日々が過ぎて行きました。

春、尾上の桜が咲いて、但馬屋の女たちも、花見見物へと繰り出すことになりました。海沿いの桜並木は夕暮れに染まり、見物の人たちの顔が美しく映えています。
綱に小袖を掛け広げた幕の内で、但馬屋の花見もたけなわです。
けれど、お夏の心は上の空で、幕の外ばかりが気になります。
清十郎も、女たちの監督係として来ていたからです。
千載一遇の今、早わざで逢い引きできたらいいのに・・・。
そんな思いでじりじりしつつ、けれど初めから、二人きりになどなれるはずもありません。

そんな時、向こうの方で人だかりがします。大神楽がやって来て、獅子舞を始めたのです。物見高い但馬屋の女たちも、アッと云う間に見に行ってしまいました。

幕の内にはお夏一人。

ハッと手招きするよりも早く、お夏はもう清十郎に掻き抱かれ、
髪のほどけるのも気にかけず、物を言う余裕もないままに、二人は結ばれました。

そのまま二人は港へと走ります。

お嬢様と手代の恋です。 離れ離れにならない為には、二人には駆け落ちしかありませんでした。船は上方へ向けて港を出ました。
大坂辺りで裏長屋を借り、五十日は夜昼なしに抱き合おう。
お夏清十郎は、幸せそうに微笑みます。

ところが、何としたことか、船が引き返し始めてしまいます。
乗船した飛脚が、荷を忘れて来たと言うのです。
港に戻るや否や、姫路からの追っ手に見つけられ、お夏は籠に押し込められ、清十郎は縄で括られて、その日の内に連れ戻されてしまったのでした。

座敷牢での幽閉の日々ののち、清十郎は奉行所に召し出されると、
思いも因らぬ詮議を受けることになりました。
但馬屋の内蔵から、小判七百両が紛失したのです。
おそらく、清十郎がお夏を騙して盗み出させ、それを持って逃げ様とした、と云う嫌疑でした。身の潔白を証明できぬまま、清十郎はそれから数日の内に処刑されてしまいました。
ところが、六月も初めの頃になって、虫干しをしていた車長持ちの中から、その七百両がひょっこりと出て来たのです。
内蔵から移しておいたのを、みんな忘れていたのでした。

連れ戻されてからと云うもの、お夏は二度と清十郎には会わせてもらえず、どうしているかさえ、誰にも教えてもらえません。
ひたすら、この恋のお咎めが清十郎に及ばない様にと、お夏には、もうその思いしかありませんでした。

清十郎が死んでしまったことなど露とも知らぬまま、
苦しく沈んだお夏の耳に、ふっと子供の囃す歌が入って来ました。

「清十郎殺さばお夏も殺せ」

取りすがって問い詰めるお夏に、乳母は顔を背け、堪え切れずに涙を流します。その涙の意味を知った瞬間、お夏の心は砕け散ってしまいました。

「向かい通るは清十郎じゃないか 笠がよくにた菅笠が
清十郎殺さばお夏も殺せ 生きて想いをさしょよりも」

子どもたちの中に混じってケラケラと笑いながら、
音頭をとって歌いだすお夏。
清十郎の亡骸が眠る塚に、雨の日も風の日も通っていくお夏の目は、もう何も捉えてはいません。
嘆き悲しむ兄の顔も、女中たちの顔も。
心はただ、あの尾上の桜の浜辺に飛んで、
ときめきの中に、清十郎を待ち続けているのでしょうか。 (ノд・。`)

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J1 第7節、コンサドーレ札幌、ホーム札幌ドームで負けなくて良かったですね。(@´Å`@)ホッ


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