太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

黒い悪意

2014-06-12 08:50:51 | 不思議なはなし
自分の中にある、ささやかな悪意に気づくとき

いつも心の同じ部分が ちくり とする。

たとえば。

私たちの寝室は、洗濯室に近い場所にある。

夜、私たちが寝室にいるときに乾燥機をまわすと、それなりの騒音が聞こえてくる。

乾燥機をつけたのが夫や、夫の父だった場合は、「うるさいな」と思うだけであるのに比べ

それが夫の母だと、私の中の悪意が顔をもたげてくる。

同じことが起きても、いまいましさ加減が違うのである。

これを悪意といわずして何と言おう。



きっと誰にも、そういうブラックで意地悪な部分があるのだけれど、

私は、それは悪、として育ってきた。



私は40歳で離婚をし、そのあと、ずいぶん年下の人と恋愛した。

私たちは結婚する気満々で付き合い始めたのだけれど、3ヶ月もしないうちに雲行きが怪しくなり

それでも2年も惨めな恋愛を引き伸ばし続けたある日、私はバカみたいにフラレた。

その理由は、『私よりも不幸な人と出会ってしまったから』であった。


嘘ではないんだろうが、結局は若くてかわいくて好みの相手だったに違いない。

別れ話は、相談でも何でもなく、私は受け入れるしかなかった。


私を振った相手とは職場恋愛で、別れたその翌日も毎日顔を合わせなければならない。

そして私たちがつきあっていることは秘密だったから、それまでどおり普通に仲良しのふりを続けなければならない。



頭を抱える私に、エンジェルセラピーのセラピストは言った。


「どーんどん恨んでいいですよー、思い切り恨んじゃってください♪」


どんな仕打ちをされた相手にも、砂をかけるようなことをしてはいけない、と言われて育った私にとって

それは目から鱗が落ちるような助言(?)であった。


その日からの私の恨み方は半端なかった。

表面では何でもないような仲良し。

しかし彼がいないところで、彼のお茶の入った湯のみを両手で包み


『絶対に私より先に幸せになれない、絶対に私以上に誰も愛せない』


と念じる(怖!!)

彼のデスクに置いてある車の鍵や腕時計にも心をこめて念じる。

寝る前にも、思いつく限りの言葉で恨んだ(激怖!!!)

今度はどういう方法で恨もうかと考えるのはとても楽しかったし、

事実、恨みを飛ばすのは爽快だった。

私は自分の中にこんなにドス黒い悪意があることに心底驚いた。

にこにことしている私を見て、

彼は私は都合のいい、ものわかりのいい女だと思ったことであろう。




けれども、そんな楽しい恨みっこも、残念なことに1週間もすると飽きてしまった。



恨むのに飽きると、アホらしいからさっさと次へ行こうと思うようになった。

そして振られてから、たった2ヶ月足らずで今の夫に出会ったのだった。

(その2ヶ月、不安と絶望と闘うという困難な道のりだったにしろ・・・)



私が念じたとおり、私は彼よりも先にハッピーになって、次の人生の花道を彼に見送ってもらうという

私の願いのとおりになった。

結局は、失恋したおかげで今があるのだから

私よりも不幸な人が現れてくれて感謝している。




私は結構ブラックな部分を持っていることを知りつつも

それでもなお、良い人であろうとする癖がついている。

以前、そうしてもがいていたとき、実家の母が言った。

「大丈夫だよ、あんたはあんたが思うほどいい子じゃないんだから」

どんな仕打ちをされた相手にも砂をかけるなと言った母が、そう言うのである。

「なんじゃそりゃ?」

拍子抜けしたけれど、良い人になりたがって苦しいときに、その母の言葉を思い出す。



いいんだ、私は私が思うほど良い人じゃないんだもの。



そう思うと、気持ちが楽になって、

抑えつけられることのない悪意は、短時間でどこかに消えるのである。








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