野田ヶ山、振子山、象ヶ鼻 のだがせん、ふりこせん、ぞうがはな
山行日 2016年5月12日
標高 1344m、1452m、1550m
登山口 大山町川床
駐車場 車道路肩(3台)
水場 なし
トイレ 大休峠避難小屋、ユートピア避難小屋、大神山神社
メンバー さぬきナメクジ隊(ピオーネ、むらくも)
四国の山はいつの間にか、アケボノツツジの花でピンク色に染めていた季節がそろそろ終わりに近づき、真っ白なシロヤシオの花や鮮やかなシャクナゲの花のシーズンを迎えようとしている。
その衣替えの端堺に大山へ出かけることにした。
大山といえば関東の人にとっては神奈川にある大山(おおやま)が有名だが、関西人はすぐに伯耆大山が頭に浮かぶ。
あまり山に親しみのない人でも多少スキーを齧った人なら、大山を知らない人はまずいないくらいにスキー場のメッカでもあり、辺り一帯が大山隠岐国立公園内にある。
なので、動植物はもちろんですが、石ころ一つ持ち帰ってはいけない特別保護地域となっている。
自然環境はよく護られており、ブナなどの原生林はもちろんですが、この山に咲くさまざまな高山植物なども保たれているようです。
しかし、一方で50万年から1万年前にかけて成長した溶岩ドームで形成されていて、地質は安山岩質で脆く崩壊が激しい。
南壁、北壁は崩壊が進み稜線はナイフリッジとなっており、脆く滑りやすい地質もあって事故多く、縦走が禁止されている。
特に2000年に起きた鳥取県西部地震により、その後の崩落は一層進んでいるようです。
すそ野に広がるアカマツやコナラ、そしてブナなどの原生林は自然が豊かで、訪れる人たちを包み込んでくれ、中腹から上の沢や谷では豪雪地帯ならではの雪渓が5月まで残り、雪解けを待ちかねるようにして、豊かな高山植物が花を咲かせる。
一方で北壁と南壁では脆くて危なっかしくて、荒々しい崖錘が人を拒み、厳冬期になると、急崖をザイルとピッケルを持った登山者が攀じ登り、板をザックに括り付けて登ってきたスキーヤーが白銀の斜面を一気に滑り降りる。
すそ野と山頂付近の環境および景観差があまりにも大きいが、それが却って魅力的な山にしている。
AM3:50、高速に乗って瀬戸大橋を渡る。
賀陽町を過ぎたところでガスが高速道を覆い、視界は50mほど、ガスは湯原の手前まで続いた。
トンネルを抜けたとたんに青空が広がり、右手に蒜山、大山の山並みを眺めながら溝口ICで降り45号線を走る。
車道沿いの水田では青々とした稲が植えられ、それはすそ野の下方から始まり、上方ではまだ水が張られたばかりの様子。
あぜ道の傍の小さな用水路では冷たい澄んだ水がさらさら流れていた。
大山は南側の鍵掛峠から眺めると、息をのむような険しい姿だが、西側から眺めると伯耆富士と言われているように、端正な姿をしている。
アザミの咲くあぜ道と朝陽を浴びる伯耆大山
大山環状道路に入り、中の原を過ぎたところで鮮やかな色をした山鳥のオスが、道の中ほどでジッとして動こうとしないでいるのを、スピードを落とし避け、グネッと曲がったところにある川床に車を止める。
7:06、スタート。
大休峠までの距離は3.9km。
川床・中国自然歩道入口 阿弥陀川
すぐの阿弥陀川に架かる小さな橋を渡って、足元に咲くスミレの道をゆるやかに登っていく。
今日は大休峠から野田ヶ山と振子山を経て象ヶ鼻の上にある1636mピークへ登り、そこから天狗ヶ峰から剣ヶ峰と続くナイフリッジの稜線を眺めたあと、大山寺へと下り、車道を歩いて川床へと周回する予定にしている。
橋 大休峠への道標
キョロロロロロー、どこかで聞いたような鳥の鳴き声がする。
聞きようによってはキョヒヒヒヒヒーと笑ってるようで、前を歩く妻がボソッと声を漏らした。
「わたし、笑われているのかな」
梢の上を赤い鳥が視界を横切った。
笑う鳥は別名火の鳥という異名を持つアカショウビンでした。
くちばしが赤く大きいのだが、恰好はなんとなくカワセミに似ている。
自然歩道 岩伏分れ
ブナなどの木に混じって白いふさふさっとした花を咲かせるウワミズザクラの樹があちこちで見受けられる。
梢からはさまざまな野鳥の鳴き声が聴こえてきますが、こんなにも騒がしい森は、植林の多い四国の山にはないような気がする。
野鳥のたくさん棲める環境が保たれているっていうことなんでしょうね。
ウワミズザクラ 石畳①
聞き分けることのできる鳴き声の主は、ツツドリ、キビタキ、コマドリ、ウグィスに混じってキツツキのドラミングもあちこちから響いてくる。
そのほかにもオオルリやときおり鷹なども鳴いているようですが、詳しくはわからない。
道標 石畳②
足元に咲く花なども種類多く、ここまでで見た物はギンリョウソウ、イワカガミ、アオマムシグサ、ホウチャクソウ、エンレイソウ、ツクバネソウ、ユキザサ、そして同定の難しいスミレもたくさん咲いていた。
大山は動植物の宝庫ですね。
ミヤマカタバミ 道標
山水の流れる行く手行く手の沢筋からゲッゲッ、ゲコゲコゲッゲッ、姿は見えないが、苔の生えた岩陰からしきりと鳴き声が聴こえてくる。
おにいさん、おねえさん、遊んで行かない?
ごちそうするから、寄って行ってよ。
虫がたくさん捕れたよ、ミミズもたくさんあるよ、おいしいよ。
ゲコゲコゲッゲッ!
こちとらねえちゃんじゃねえわ、じいちゃんばあちゃんだい、せっかくだがまたにすらーな、それじゃーな。
9:04、趣のある石畳道をコツコツ歩いて、見覚えのある大休峠避難小屋に着いた。
オオカメノキ 大休峠避難小屋
ベンチに座って一休み。
足元の朽ちかけた木にはブナが芽生えていた。
避難小屋の山手側斜面には矢筈ヶ山、甲ヶ山、勝田ヶ山を経て船上山への登山道があるが、道標は朽ちて倒れている。
遅い朝食を食べながら、これから向かう野田ヶ山方向を見上げると、稜線には小さくユートピア避難小屋がおいでをしている。
朝食は朝、香川で買ってきたコンビニのおにぎり2個、梅干しとおかか、早朝の高速SA売店は開いておらず、また溝口ICから登山口間には食料などを購入するお店がない。
ブナの芽 振子山と象ヶ鼻
おにぎりのあと、ヨーグルトを飲む。
なんともミスマッチな味がする。
ごはんには牛乳が合う。
ブナの茂る登山道へと入っていくが、足元は昨日に降った雨で水たまりができ、ぬかるんでいる。
登山道わきにはサンカヨウが茂っていたが、花はすでに終わり、青くてちっこいちっこい実が残されていた。
コヨウラクツツジ ブナの新緑
空は真っ青、雲一つない。
明るい陽が林内に零れ落ち、道にはマイヅルソウが群生するが花はまだ。
イワカガミの花が行く手行く手に現れ、その都度前を歩く妻がカメラを構えるが、一体何枚写真を撮ったら気が済むのか、一昔前のフィルムカメラでは考えられないデジカメ、息を止めて屈み込み、立ち上がるたびに目まいがする。
ところどころで樹幹越しに、烏ヶ山の羽を広げたような姿が覗く。
10:25、山頂にイワカガミの花の咲く野田ヶ山に到着。
野田ヶ山 ナナカマド
足元の花と、風景全体を染め上げるような新緑の木々と、遠い山並みと、青く透明な空と、クラクラしたものが一つになってとどめる。
ふと前方を見上げると山肌を断ち割ったように崩れ落ちた奥に、ドーム型の天狗ヶ峰と右手に三鈷峰の頂が覗く。
ちょい見にはどこがルートなのかさっぱりわからなかったが、野田ヶ山からは方向が西から南へと振っているので、まだまだ左手の尾根方向へと歩かないといけないようだ。
槍ヶ峰、天狗ヶ峰、三鈷峰 ブナ林
後方を振り返ると、野田ヶ山の右奥に矢筈ヶ山の姿が覗き、やがて甲ヶ山の頭も移動する都度じわりっと垣間見えるようになる。
稜線にはダイセンミツバツツジの鮮やかな花が、ところどころで見えてくるようになると、岩肌がぽつりぽつり現れ、やがて振子山のなだらかな尾根が前方に横たわって見えてくる。
タチツボスミレ 振子山
歩く道は少しずつ険しくなり、左手には大休谷と地獄谷の合流する渓谷を刻み、上部にはわずかに雪渓が残る。
さらに下流には大山滝があるのですが、ここからは見えない。
ちょっとした岩場を越えた。
振り返ってみるとそれが小指ピークと呼ばれているところのようでしたが、確かではない。
雪渓とダイセンミツバツツジ 小指ピーク?
小指ピークと思われるところから一旦下って、再び痩せ尾根の岩場を登り返す。
右手には東谷への渓谷があり、やはり雪渓がところどころに残っていた。
親指ピークへ① 親指ピークへ②
親指ピークの岩場にはハンガーボルトが打ち込まれ、ロープが固定されている。
上を見るとミヤマハタザオが岩場にしがみついていた。
フィックスロープ ミヤマハタザオ
ピークの先は崩壊が進む土塊の崖で、そこにも固定されたロープがぶらさがっており、できるだけロープに頼らないようにして、基部に降り立つ。
そこから東谷を眺めた景色はほぼ垂直な崖の下。
振子山方向に上り返してホッとする妻。
親指ピーク基部 痩せ尾根で一息
いつかは崩れて、幾分かなだらかにはなるのでしょうが、いまのところ突っ張り人生で、尖がって頑張っております。
稀に尖がったままで人生を終える方もおいでるかもわかりませんが、誰もがどこかで角が取れて柔和になる。
それには先が長くて、親指ピークにはまだまだ若すぎるようでした。
親指ピークを振り返る
痩せ尾根を歩み、サンカヨウの群生地を過ぎて、12:03、振子山に到着。
岩場の陰で景色を眺めながらお昼ごはん。
単独の男性の方が追い付いてきて、同じく岩場の陰でお昼ごはん。
わたしたちは7時に川床をスタートしたが、男性の方は8時に大山口から歩き出したとのこと。
大山口ってどこだろう?
大山滝の聞き間違いだろうか?
それとも大山夏道登山口だろうか、いずれにしてもめちゃ速い。
いや、わしたちが異常に遅い。
槍ヶ峰~天狗ヶ峰~象ヶ鼻
痩せ尾根は続き、崩壊先で途切れた道から新たに作られたう回路を歩き、崩落した崖をのぞき込む。
崩落 サンカヨウ斜面
一旦緩やかな鞍部になったが、象ヶ鼻への登りはきつかった。
フデリンドウ ウリハダカエデ
サンカヨウの白い花やダイセンキスミレに癒されながら、振子沢分岐のポールに着く。
歩いてきた振子山を振り返った。
奥には矢筈ヶ山から甲ヶ山、勝田ヶ山への稜線が見えていた。
振子沢分岐 矢筈ヶ山、甲ヶ山
南には烏ヶ山。
振子山で出会った男性が再び追いついてきたので、少しお話をしたあと、三鈷峰を眺めながら象ヶ鼻へと登る。
烏ヶ山 三鈷峰
13:15、象ヶ鼻に到着。
お一人の男性が景色を楽しんでおられた。
振子山で出会った男性は、一休みした後、三鈷峰には寄らずに上部砂滑りから下山を開始。
1636mピークに向かった男性はその手前辺りから元谷へと下ったのですが、しばらくして谷筋から大きな崩落の音がした。
ドーン、ガラガラガラー、一瞬男性が滑落したのかと思ってその方向を眺めたが、男性が下ったさらに下方の斜面で起きた岩の崩落だったようです。
景色を眺めていた男性によると、崩落は繰り返し起きていて、砂滑りとは少し離れているところとのこと。
それにしても体が強張るくらいに大きな音でした。
象ヶ鼻から天狗ヶ峰を眺める
1636mピークに寄って、天狗ヶ峰への切れ込んだ稜線を眺めてみたかったのですが、諦めて下山開始。
ユートピア避難小屋の壁には「縦走禁止」と赤書した看板が壁に打ち付けられていた。
ユートピア避難小屋 上宝珠越
空にはいつの間にか、刷毛雲が浮かんでいて、弓ヶ浜がきれいな弧を描いている。
気温が上がったのか、斜面に咲くサンカヨウは幾分萎れたように咲いていた。
飛ぶことに特化した鋭い翼を持ったアマツバメの群れが、チリリリリーと鳴き、頭のすぐ上を谷に向かって滑空して行く。
孝霊山と弓ヶ浜
崩落の進む北壁。
ここを無雪期に攀じ登る人はまずいないと思うのです。
命がいくつあっても足りない。
北壁
大屏風岩基部あたり、および別山方向を眺める。
大屏風岩基部
大雨のときはもちろんですが、雪解けのころには、繰り返し巻き返し崩落を起こしているものと思われる。
ガレ
岩の下にはまだ雪渓が残っているところもある。
沢① 沢②
ところどころにミヤマハタザオの咲く元谷を下り、避難小屋の東側堰堤に出る。
元谷
元谷避難小屋下の堰堤からは林道を下らず、緑の濃い沢筋の道を辿り、大神山神社へ。
クルマバソウ 大神山神社
神社では警察官が立ち寄っており、ちょっとしたトラブルがあったらしいのですが、石畳の参詣道は静かで落ち着いた雰囲気。
参道の両脇にある小さな溝では冷たそうな澄んだ水が、さらさら流れている。
やがて環状線に出て、ヒュッテやホテルを横目に川床へと歩いた。
豪円山や中の原の懐かしいスキー場を眺めながら、てくてく一時間、車を置いている川床に到着。
途中、お地蔵さんがあったり、タニウツギが咲いていたり、退屈はしない車道歩きでした。
参詣道 川床
登山道脇で見ることのできた花たち。
スミレの仲間 イワナシ
ダイセンキスミレ サンカヨウ
イワカガミ ショウジョウバカマ
川床登山口7:06-岩伏別れ7:50-9:04大休峠避難小屋9:25-野田ヶ山10:25-親指ピーク11:12-12:03振子山12:18ー12:45振子沢分岐12:52-13:15象ヶ鼻13:23-ユートピア避難小屋13:31-三鈷峰分岐13:33ー上宝珠越13:52-元谷15:12-13:30大神山神社13:37ー大山寺15:51ー16:53川床
グーグルマップ(登山口などの位置がわかる地図)→こちら
ルートラボ(距離、時間などがわかる地図)→こちら
この時期の大山も素晴らしい景色ですねー。
それにしても良く歩かれてます。
Pさん、良く頑張りました、はなまるです。
砂滑りの雪は以外と少ないですね。
夏に降りた時少し雪が残っていましたよ。
この時期はもっと多く有るのかと思ってました。
冬場の積雪量で決まるんでしょうね。
これはロングでいいと思いますがエントツ山さんは未だ未だと言われますかねー。
此れだけ歩かれてナメクジ隊は無いでしょう。
もっと相応しいネームを考えなはれ。
それにしても坊主さんなんしょん?
生きとるかー?
砂滑りは通行禁止の看板が新しくつけられていたのですが、昨年にここから下ってたので、何思わず跨いでしまいました。
ですが、昨年と比べて一段と崩壊が進んでいて、かなり危険な状態になっていると思いました。
特に谷へ降りる箇所にロープが固定されてますが、そこはさらに崩壊が進んでいてロープを頼るのにも危なかった。
また谷には絶えず小さな石が上から落ちてましたし、谷下部では砂ではなく、大きな石が雪渓の上にゴンゴン溜まってましたわ。
妻も私もへっぴり腰でなんとか元谷へ降りましたが、もしも来年行くことがあっても、砂滑りはよう下りません。
へっへっへー、エントツ山さんに言わせたら、距離からしてもやっぱり普通でしょうね。
普通の距離を時間を掛けて、新日本百名山で有名な岩崎元朗スタイルの疲れない山歩きってな感じです。
大山は四国にはないいい山です。
また違ったコースでゆっくり楽しみたいわ。
坊主さんは元気で田んぼの準備をしてると思います~。