むらくも

四国の山歩き

黒滝山…高知県

2014-06-02 | 四国山地西部

黒滝山                くろたきやま



山行日                2014年5月28日
標高                 1209.8m
登山口                高知県長岡郡大豊町大久保国道32号線
下山口                島県三好市山城町下名国道32号線
駐車場                なし(国道32号線沿い広い路肩)
トイレ                なし
水場                 なし(下山地点への車道でいくつかの小さな滝あり)
メンバ-               単独




黒滝山は古い山のガイドブックには高知・島県境にある無名の山として紹介されている。
ところが土佐苓北ネイチャ-ハントの会が発足してしばらく経ったとき、それまで38山であったネイチャ-ハントの山にその黒滝山が加えられ39山となった。
その後、ネイチャ-ハントの会はその役目を終えたとして解散したが、山頂はその頃の名残がありよく整備され展望もよく、登山者もよく訪れるようになった。

山頂を境にして南が高知県長岡郡大豊町、北側が島県三好市山城町となっている。
西には3kmほどのところには野鹿池山が聳え、東へは吉野川へと落ち込み、尾根筋は対岸から這い上がりさらに東の三方山を経て、京柱峠へと連なっている。
この山に登るには高知県側のいまは廃村となっている明嘉か、もしくは島県側に国道32号線から繋がる林道が走っていて、そこから取りつくのが一般的なようです。
これまでにこの山へは島県側の林道から2度、野鹿池山への縦走の折りに一で、計3度登ったことになるのですが、今回は4度目。

この山は四国分水嶺の境界にもなっているようなのです。
ただし、四国の分水嶺ははっきりとは定められていないようで、諸説紛々、東端は鳴門の孫崎という説、島市説、あるいは阿南説の三つ、西端は宿毛説、あるいは佐田岬説の二つがある。
それらを繋ぐ稜線も阿讃山脈あり、四国山地ありで、要するに降った雨が太平洋に行くのか、瀬戸内へ流れるのか、豊後水道にいくのか、もしくは紀伊水道へ流れ込むのかその境界ということのようですが、なにしろ水の流れゆくところは水に訊かなきゃわからない。

山好きとしてはどちらでもいいことで、山へ行く理由をかこつけることができればなおいいという程度。
ということで、吉野川沿いの大久保から登って山頂に立ち、折り返すようにして南日浦へと周回をすることにした。

5月も下旬になり、だんだんと気温が上がる季節ではあるのですが、あまりにも上がりすぎで体が急激な温度上昇についていけないというか、いやな感じなのです。
今日の予想最高気温は平地で28度~29度、夏場の行動時間4時間につき飲み水1リッタ-として、予備も含めて3リッタ-持参することにした。
冬場の道具も重たいのですが、夏は夏で増やした飲料水の重量が山行に堪えます。



単独だと、行くも行かぬもそのときの気分次第で気楽だが、その分気合いをいれていないといけない。
油断すると朝目覚めない。
目覚まし時計のタイマ-をセットする。
二度寝してはいけないので、さらに携帯電話の目覚ましタイマ-もセットして枕元に置く。
ところが寝る前にエイエイッと気合いをいれたもんだから、目がランラン、つられて心もランランとしてしまい寝られない。
隣の布団に若い女性と同宿したときと同じように、朝までモンモン、寝たような寝てないような気分で、とうとう堪らずに目覚ましが鳴る前に起きてしまった。
朦朧とした頭、これではいけないと思い、ここでもエイエイッと気合いを入れる。
昨夜から気合いの入れっぱなしだ。
ええ歳こいて大丈夫か?

午前6時、猪ノ鼻峠気温14度、阿波池田へ降りたときはお日さんは東の空15度、季節柄随分と高い。
吉野川沿いを高知方面へ走り、小歩危、大歩危を過ぎてしばらくのところで県境を示す道路標識。
どこかに車を止めるところがないかとウロウロ、大久保郵便局の前に広い場所があったが他にもお店があったりでダメだと判断して、少し引き返し適当な広い路肩へ駐車。

靴を履き替えて、7:24スタ-ト。
大久保郵便局少し手前にある民家の間から細い階段を上がった。




民家へと続く細い道を、後方の吉野川を挟んで開ける景色を振り返りつつ適当に登っていく。
対岸の集落は岩原だろう、その真東には土佐矢筈山へと繋ぐ京柱峠があるはずだがここからは見えない。
ユキノシタの咲く畑道や墓地への道を縫っていくと一人のおばあちゃんがあぜ道を掃除していた。
挨拶を交わして、黒滝山への道を尋ねたところ、そんな山は知らないとの返事。
この上に廃屋があって、さらに上がっていくと民家があって、犬が吠えてくれるからそこの家の人に訊いてごらんと親切に教えてくれた。
あんた、この時間に山に登るんかえ、えらい早いね、気をつけてな。




お別れして、おばあちゃんの教えてくれた道を歩いて行くと民家があって、畑地のほうに大きな犬の檻があって、猟犬だろうか、なかからガホンガホンと吠えられた。
じゃかましい!おりゃはイノシシやシカじゃねえ、吠えるな馬鹿犬め。
心の中で罵りながら、押し黙って尾根に取りつき植林帯へ踏み込んでいく。
小さな伐採地に出て…。




林道に飛び出て、なぜか茶碗の転がる林の中で一休み。
時刻は9:21、歩きだしてすでに2時間近くになるが、地図を眺めると場所は標高804mPを過ぎて破線の道を少し上に上がったところらしい。
ふぇ~、2時間歩いて山頂までまだ2/3もあるわ。
単純計算で山頂まであと4時間の登り、ゲッ!山頂到着は午後1時か、かなわんな~。
止めようかしゃん、一瞬弱気になるが、山に登る度そう思い続けてきて、時間切れになった以外には止めたことはない。




今日もそのパタ-ンだろうなと思いつつ、時間切れは午後1時と決めて再び腰を上げる。
9:39、再び林道へ飛び出した。
位置を確認したが、地図には林道は載ってなかった。




林道を離れて尾根へ踏み込む。
9:47、またも林道へ飛び出る。
標高950mにある地図に描かれた大砂子から上がってくる林道だった。
林道は尾根筋に沿って西北西に延びている。




しばらく林道を歩いて直角の曲がり角から再び尾根に乗ろうとしたところ、ヤブから小さな鳥が右から左へ素早い速さで走って逃げる。
飛び出してきたヤブからバタバタと音がするので目を向けると、そこには親ヤマドリのメスだろうか、地面に羽を打ち付けてまるで怪我でもしたようにもがいている。
おやっと思って近づくと、少し右先へササッと逃げて、そこでまた羽を地面に打ち付けヨタヨタ暴れ出す。
引きつられるようにして寄っていくと、なんでもなかったように素早く飛んでいった。
その間に左へ逃げたヤマドリの子と思われる鳥の姿は見えなくなっていた。
やられたと思った。
ヤマドリの親が子を救うための擬態行為だ。
子が逃げる間、親は狐やイタチなど敵の目を、怪我をしたように見せかけて注意を親に引き寄せる。
オスの親ヤマドリは、子を守るために、わざわざ敵の目の前に飛び出すという。
また、山火事の時には、火から子を守るために親は子の前に立ち焼け死ぬという。

わたしの従姉は車に轢かれそうになった我が子を助けようと、車に飛び込み、子を体をはって車からはね飛ばし遠ざけた。
子は助かったが、従姉は轢かれて死んだ。
親は子のために必死で守ろうとする。
動物も人間も同じだと感じた。




シコクブシやモミジガサの生える尾根を抜け、10:43、標高1196.3m四等三角点・大砂子に立つ。
麓から山頂までの行程半分チョイまでのところで歩き出して約3時間20分かかった。
黒滝山の標高は1209.8mなので、高さとしてほぼ登りきっている。
多少のアップダウンはあったとしても、あと2時間もあれば行けるだろうと思った。

ここから西へ少し進んだところで北へと方向を変えないといけないが、そのポイントがどこなのか探っているうちに通り過ぎてしまった。
引き返して、尾根筋を目で確認したあと、一旦鞍部へと下り、県境尾根に乗り移る。
県境と交わったところが復路の際の分岐地点だ。
テ-プなど施す必要はない。
すでに先人の方が立木にピンクのリボンを結びつけていた。
たぶん、地籍調査の方が残していったテ-プだと思ったが、当たってるかどうかはわからない。




時刻は11:07、県境沿いの尾根を西へと急ぐことにした。
笹を敷き詰めた丸いイノシシのベッドが三つもあった。
一つはいままでに見たことのない大きなもの、もう一つは小さく、三つ目は中くらいの大きさだった。
たぶん、最大のものは母親のもので。小さなものと中型のものは姉弟か姉妹のものと想像した。
イノシシの親子は子が育つ1年間の翌年春までは一緒に暮らす。
兄弟姉妹のうち特に姉は親を助けるようにして弟や妹の面倒を見るといわれている。
男の子は一年経って春に親元を追い出され、オスとして独り立ちする。
そしてメスを求め生涯彷徨う。
人間も似たようなものなのか、一般的に男は浮気性だが、最近は女性の浮気が原因での男からの人生相談や離婚相談などが増えているとか。
なんのこっちゃ、話が逸れたがこれはいつものパタ-ンです。
要するに人間も動物もいっちょもかわらんの-ということであります。




11:39、林道と交差した。
地図に載っている1167mPのちょい手前に描かれてい南北に延びる破線の道だろう。
チ-ッ…チ-ッ…チ-ッ…
初めて耳にする鳥と思われる鳴き声が聞こえてきた。
書くとなんともないどこにもある鳴き声に受け止められるが、実際に耳にする声はなんとも薄気味の悪い人の後を追いかけてくるような鳴き声だった。
痩せたシャクナゲ尾根に入った。




痩せ尾根を証明するかのようにすぐに岩場が現れ、その岩の根本のちょっとした穴蔵には古い一升瓶が2本横たわっていた。
チェ-ンソ-などのガソリンを入れて運んだものなのか、それとも本当の一升酒だったのか、一升瓶の横たわる岩場は深閑としていた。




シロモジや楓の茂る明るい尾根を抜けると、そこは山頂だった。
時刻は12:37、歩き出しから5時間余りかかった、長かった。




西には歩いてきた尾根が開けている。
真ん中奥の頂きのその左ピ-ク奥から歩いてきたが、復路はそのピ-クから左への尾根を下ることになる。




左側奥に小さく尖った天狗塚と牛ノ背、その左に西熊や三嶺。
手前には三方山の頂。
右側には土佐矢筈山と綱付森もみえているようです。




南には梶ヶ森と山頂に立つアンテナが小さく見えています。




西南西に見える一段と高い山は野鹿池山かと思ったのですが、違うようで、その南にある1219m峰のようでした。




陽の差す山頂は暑いので、日陰に入って昼食とした。
食事の前に、暑い日はやつぱりサッポロホワイトベルクとお馴染みバタピ-。




もう一度山頂に戻って、シャクナゲと高知方面の山並み。
この写真を撮っていると、西縦走路からグル-プの方たちの賑やかな声がしてきました。
時刻は13時、とって返してすぐに下山です。




苔蒸した岩場を過ぎ、なにやらキノコが足元に。




稜線は南側高知県が自然林で、北側島県が杉植林地、見事に別れていました。




歩いた尾根を戻ることアップダウンを5回繰り返して標高おおよそ1200mの分岐の頂へ。
初めて歩く下り尾根は慎重にも慎重を重ねて、地図にコンパスを押し当て、方向を定める。
南日浦の尾根筋はほぼ一直線だ。
歩き出すとピンクのテ-プがたくさん出てくる。
尾根筋に括りつけてあるし、方向も同じなので、信用は高そうだが、やみくもについていかないように、ところどころで地図を取りだし、方向を確認する。




キツツキのドラミング音が木霊する。
足元には女性も羨むような真っ白な肌のギンリョウソウ、木漏れ日に透けて輝いていた。




下りは速い。
15:25、標高909.4m三等三角点・下名に到着。
三角点は現在地を確認するための確実な人工物、山歩きには重みのある存在感を示す。




やがて畑地の道に出て、民家の屋根が現れる。
対面は有瀬とその北にある谷間だろうか。




16:07、南日浦の車道に降り立った。
大きなカ-ブの所にベンチがあったので、そこで休憩しながら車道を歩くか、それともショ-トカットをしながら尾根を下るか思案した。




車道歩きは大砂子へと続いているが地図を見るとその道は気が遠くなるほど遠くて長い。
ショ-トカットをしながら尾根を下ることにした。
丁度田植えの準備をしていた田のあぜ道を辿って下り出すが、すぐにヤブへ突入し、荒れた林道に出る。
それを二度繰り返した。
斜面はだんだんときつくなり鬱陶暗く、嫌気が差してきた。




斜面は荒れた杉植林、これ以上はもうダメと思った矢先にアスファルト車道に飛び出す。
ガ-ドレ-ルの下斜面に破線の道がないか探したが、見当たらない。
諦めて、車道歩きに切り替える。




長い車道だったが、谷川にあるいくつかの小さな滝周りの空気が冷たくて、疲れた足に心地よかった。
16:57、国道32号線に降り立つ。
17:24、駐車地点に帰り着きクタクタッとなる。

一応分水嶺とされている尾根を歩いてはみたが、どう考えてもこの尾根から流れる雨水は稜線を分けるものの両方とも吉野川に注ぎこむ。
ということは分水嶺ではない。
なんだかな~、今日汗水流して歩いたことが一体なんだったのか、意味もなくむなしい気がする。
人生を一歩一歩歩き頂上に達する、その意義を山に例えて表現することが多いが、山歩きそのものは汗を掻く爽快感と、山頂に立って景色を眺めるときの達成感、下山後の冷たいビ-ルを飲んでウッヒャ-と叫び倒す満足感でしかない。
そんなものかな、深く考えること自体がナンセンス、山を歩いて、楽しければそれでいいじゃないか、四国の山をもっと見せつけてやろうじゃないか。
なんのこっちゃ、わけわからん。




駐車地点7:24-大久保取りつき地点7:32-488mp8:11-804mp9:10-<途中15分休息>-1196.3m三角点・大砂子10:43-県境合流11:07-12:37黒滝山13:03-分岐14:28-909.4m三角点・下名15:25-15:57南日浦車道16:07-南日浦下車道16:33-国道32号線下名下山16:57-17:24駐車地点


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