むらくも

四国の山歩き

次郎笈・剣山…徳島県

2013-07-05 | 剣山系

次郎笈、剣山       じろうぎゅう、つるぎさん



山行日          2013年6月30日~7月1日
標高           1929m、1954.7m
登山口          つるぎ町葛籠
駐車場          なし
トイレ          夫婦池、見ノ越、西島駅、剣山山頂ヒュッテ
水場           葛籠ルート標高おおよそ1080m沢、同じく標高おおよそ1290m沢
             見ノ越、大剣神社下二ヶ所、次郎笈巻道
メンバー         単独




昔、葛籠堂から登って、剣山から三嶺まで縦走しようと試みたことがある。
まだキスリングの時代だったが、ザック、テント、キャラバンシューズなど一通り揃えたものの、お金がなくなりニッカボッカには手が届かなかった。
当時はまだぺーぺーの安月給で、下宿代と食事代で汲々としていた頃だ。
自分でボロズボンを裾上で切って、パンツのゴム紐を通して、ニッカボッカらしく仕立てた。
長い靴下を履いて、折り返しておけばわかりゃしない。

自分では鼻高々で、これで山男だなどと勝手にポーズを決め込んでいたが、鏡を見たことはないので、どんな姿だったか確かめてはいない。
どうせ野暮ったい変なにいちゃんだったと思ってる。
国鉄のガソリンカーに乗って、貞光まで出かけ、そこからバスで葛籠堂まで。
葛籠堂から登って夫婦池に着いたときはすでに夕方だった。
キャンプ場で一泊し、翌日見ノ越から剣山、次郎笈までは順調だったが、丸石辺りでへばってしまった。
ホーホーの態で二重かずら橋へ下山し、名頃まで車道を歩いて、バスに乗り、大歩危から国鉄で帰った。

もうかれこれ40年にもなるが、つい最近まで葛籠堂から登ったものと信じ込んでいたが、思い返してみるとどうも様子が違う。
記憶に残っている登山口や登山道の様子からも、そして夫婦池に着いた地点からも、桑平コースを歩いたようだ。
いい加減なもんだ。
いまも信じられないような道迷いをやらかしてしまうが、どうやら若いときから相当なおっちょこちょいだったようで生涯治らない。
小学校の先生にも、通信簿にいつも書かれていたのを思い出す。
カナクギのような字体で、この子は授業中もしょっちゅう落ち着きがない…と。
あの先生、元気にしてるだろうか。

三嶺まで行く根性はさらさらないが、とりあえず、葛籠道コースだけは歩いてみよう。
次郎笈辺りでテント(正確にはツェルト)張って、星空を眺めるのもいいかもしれない。
天気予報は二日とも「曇り時々晴れ」、この日を外すと、あとはまたしばらく梅雨空が続く。




4時に眼を覚まして、自宅の窓から空を見上げる。
どんよりしている。
テレビで天気予報を確かめた。
いつの間にか、時々晴れの字句が無くなっていた。
山は雨かな~、とりあえず出かけよう。

5:10自宅出発、貞光川では鮎釣りをしている方が長い竿を出していた。
川釣りのことはよくは分からないが、友釣りだろうか。
コロコロ釣りというのもあるそうだ。
川沿いのマタタビの葉がこの季節白っぽい。

7:10に標高おおよそ620mの位置にある葛籠堂に到着。
お堂にお参りして、登山口の階段へ。
ところが、その道標には「登山道崩落のため、進入禁止」と赤書してあった。
一瞬目が点になった。
どうしよう、見ノ越からに変更して、三嶺へ縦走しようか。
名頃から見ノ越へのバスの時刻表はメモ帳に控えてはいるのだが…。

登れるところまで行ってみて、先へ進めないようだったら引き返そう。
気を引き締めて歩き出した。




ユキノシタの花咲く小さな橋を右に渡って、イノシシ避けの柵が施してある畑の道を縫うようにして登っていく。
すぐに杉植林帯へ入る。
枝打ち、間伐がこまめに行われ、天に向かって真っ直ぐに伸びている。




小さな道標が迷い易いところに適切に立てられてる。
丁石もところどころに残っていて、踏み跡もはっきりしていた。
やがて四つ辻に差し掛かるが、上、直進方向の踏み跡には一本の間伐材が横たわっており、この道は違うぞという意思表示が読み取れた。
道標は右方向に案内している。
左への踏み跡は川又への踏み跡(国土地理院地図、破線の道)らしかった。




四つ辻を右に折れて、しばらく歩くと自然林に替わる。
右下方からザワザワと沢水の流れる音が聞こえてきて、その沢に突き当たったところで渡渉することになるが、ピンクのテープが着いた丸太棒のところで、足を滑らし、沢水へドボン。
仰向けにひっくり返って、もがいたが立ち上がれない。
テント、水、食糧、シュラフなどで、お泊まりザックはいつもより重量がある。
情けない、亀の気持にさせられた。

下半身ずぶ濡れ。
あ~、さい先悪いな~。




立ち上がったものの、対岸に続く踏み跡が見当たらない。
岩伝いに沢を少し登って行くと、古い道標が右対岸にあった。
これだ。

再び杉の植林地帯。
73番(善通寺・出釈迦寺)と刻まれたお地蔵さんが出迎えてくれた。




いつの間にか辺りはガスに蔽われ、細い雨になった。
カメラにビニール袋を被せ、ザックカバーをつけたが、カッパを着るのは止めた。
どうせ沢水で濡れているので着ても着なくても同じこと。

天然ミストシャワー。
熱中症対策100%だわ、冷たくて気持ちいい~。




俯いて歩く斜面には落ちたばかりの白い花がふんだんにばらまかれている。
サザンカのように花びら一枚一枚ではなく、花まるごと一個そのまんまの姿が保たれている。
なるほどね、ナツツバキだわ。
傍にある木の梢を見上げたが、すでに花はなく、なにもない。
空はどんよりと暗く、霧が漂うばかり。

左斜面の上に小屋が二つ、一つは小さくてトイレのようだ。
トイレじゃないな、ぽっちゃん厠だべ。
大きい方の小屋は入口には小さな庇が付いて、窓ガラスが三ヶ所ほど填められていた。
作業小屋にしては立派なもの、寝泊まり用として使われていたものかもしれない。




樹林越しに少し開けたが、霞んで見えるのは西にあるすぐ隣の尾根、おそらく桑平道のある尾根だろう。




再び沢に突き当たった。
最初の沢ほどには水量はない。
渡るのによろけながらも安心感がある。

渡り終えたところで
斜面は苔だらけの岩がごろごろ転がっている。
綺麗だ、しばらく見惚れた。

ほんの少し上の斜面に四角い道標が立っている。
しかし、道には見えなかった。
むしろ直進方向にうっすらと踏み跡があるように感じたので、上には上がらずそのまま前進。




ところがギッチョンチョン、やがて、踏み跡は消え、急斜面になり前進できなくなった。
急斜面の先には踏み跡らしきものが、ある?ない?どうなの?
無理矢理横切ろうとしたが、斜面は足下から崩れる。
ダメだ。
ここまでか。

いやいや、諦めてはいかん、迂回しよう。
少し引き返し、斜面をよじ登る。

まだしっかりした、ロープがあった。
助かった。
どうやら道を間違え登山道を外してしまったらしい。
先ほどの苔蒸したところにあった道標根元から、斜め左上へと登山道は続いていたようだ。(復路の折に確認した)




やれやれ、ほっとしながら歩いていると、三つ目の沢にぶつかるが、小さい。
何物かに道がおがされてくぼんでいる。
いましがたまで、居たのだろう、堀上げられた土は真新しい。
イノシシではないようだ。

オヨヨ、沢を渡って7分ほどで、落石注意の看板。
へたくそな絵が描かれている。
エッセイスト、沢野ひとしのような絵だ。




崩れた斜面を恐る恐る横切るが、石には苔が生えたりしていて、古そうだった。
いまはやや落ち着いて見えるが、またいつか豪雨などの際には崩れるのだろう。




空からしとしとと舞うようにして落ちてくる雨は止みそうにない。
今夜はテントの中でラジオを聞くしかないな~。




お地蔵さんがあって、深くほれ込んだ登山道に変わった。
そこからほどなく夫婦池湖畔に建つラ・フオーレつるぎ山の駐車場に飛び出た。

大型バスが数台駐まっている。




トイレ休憩後、出発。
時刻は11時を少し回ったとこ、お昼ご飯は見ノ越だな。
車道歩きは退屈だ。
丸笹山へ登って見ノ越に下るルートもあるにはあるが、実際しんどいので止めにした。
40年前の若い頃にここを歩いたことを思い出しながら、とぼとぼとときおり車が往来する438号線を歩く。
あの頃はどんな青年だったのだろう。
まだ独身だったが、寡黙でオツムテンテンな青年だったことには間違いない。

30分弱で見ノ越に。




閉じてしまった店舗の軒下を借りて、お昼ごはんとした。
当時のこの辺りのお店は賑わっていて、軒先には剣山に棲息する動物の剥製や、熊の写真を看板にしてあった。
今日はお天気の所為もあるが、その雰囲気はガラリと変わってしまって、静かだ。




リフトの下のトンネルを潜って、慣れ親しんだ登山道を歩く。
カッパを着たたくさんの若者たちとすれ違った。




意外と多くの登山者たち、どなたも前日までの天気予報を疑うことなく登ってきたようだが、当てが外れた。
もう少し山頂で頑張れば、晴れるような気がするという黄色くしゃがれた未練がましい声も聞こえてくる。
風も強い。
ポンチョを着た方がおられたが、裾が強風でまくれ上がっていた。

次郎笈でテントをと考えていたが、予定変更、弱い雨だがこの風ではね~。
山頂は相当に吹いていることだろう。

駅のちょい下の野営場(無料)をお借りすることにした。
時刻は13時を回ったとこ。
早いな~、早すぎる。
困ったが、仕方がない。

テント(ツェルト)を張って、濡れたシャツなどを着替え、テント内に吊す。
こんなことをしても気休めに過ぎなくて、乾かないのだが、濡れたのをぐしゃぐしゃにして置くのもなんとなく気持ち悪い。




風はますます強くなってきた。
散歩に出るのも億劫で、テント内に留まった。
そうだラジオがある。
スィッチを入れてもウンともスンとも言わない。
滑って沢水に浸かったときに、ラジオも濡れたらしい。

壊れかけのラジオ…じゃない。壊れたラジオ。
することがなく、シュラフに潜ってボケーッ、ひたすらボケーッ!
時刻はまだ14時だ。

どうする。
ここでテント張らずに三嶺方面へ行けば良かったのか?
この風では丸石小屋…かな。
もう一泊分の食糧を積んどけばよかった。
というのは頭で思うだけで、実際に歩くとなるとしんどいことだわ。
アゴが上がるんじゃないかな。

やがて瀬戸内方面が少しだけ夕焼けとんび。
もそっと起きて、夕食にした後、眠りについた。
目が覚めて、テントから首突きだして空を見た。
風はまだ吹いていたが雨は止んで雲の間から星がチラホラ、空全体がボーッと明るい。
月夜らしい。
時計はまだ10時過ぎ。
寝た。
背中が痛くて何度か目が覚め、寝返りを打った。





7月1日
グッモ~
時刻は4時半、晴れている。
しまった、日の出は済んでいる。
遠くでツツドリがボーッボーッ!

駅でトイレを借りて、朝ご飯にしよう。
若者が一人、早くも降りてきた。
う~ん、感心感心、ちゃんと朝陽を山頂から眺めてきたんだ。
わたしゃとは心構えが違うね。




とりあえず、テントはそのままにして、次郎笈と剣山を周回してこよう。
6:05、ペットボトル一本、空身で出発。




次郎へ向かう巻き道にはシコクブシの葉っぱが茂り、ややぬかるんだ道にはカモシカの足跡が残されている。




昨日の強い風は止み、雨も上がった。
早朝の青空がそのまま広がってくれるものと期待していたが、再び山全体をガスが覆う。




山頂は見えない。




空気はそれほど湿ってはいないので、雨が降ることはないようだ。




月曜日の早朝はまだ誰一人歩いていなかった。
先ほどすれ違った青年一人が一瞬のガスの晴れ間を楽しんだようだ。




6:58、次郎笈山頂。
展望なし。
すぐに下山。

ナナカマドに花の蕾が着いている。




一瞬、ガスが退いたが、景色はここまで。




ウグィスが手が届きそうな位置で頻りと鳴くが、姿は見えない。




荷物を背負ってないので、汗をかくこともなく、やがて剣山山頂に。
時刻は7:39。




山頂ライブカメラは左の鉄塔。




木道が浮かんで見える。




ヒュッテで三代目ご主人(たぶん)と朝のご挨拶。

バイケイソウの花




西島のお花畑に咲く一輪のニッコウキスゲ。




テン場に戻って、後片付け、コーヒーを沸かして飲んだりしながら、まったり1時間。
立ち去るときはなんだか胸にキュッと来て寂しくなる。
年のせいだろう、また来るときがあるのかなとつい頭の隅で考えてしまう。




リフトも動き出した。
下山開始。
ぽつりぽつりと登山者が登ってくるが、生憎山頂はガスっぽくて、一瞬の晴れ間に望みを掛けるしかない様子。
外国のご夫婦が元気よく登ってきた。
ご主人は「こんにちは」、うしろの奥さんは「おはよう」
挨拶を返すわたし、一瞬戸惑ったが、同じように「こんちは」と「おはよう」を使い分けた。
どうでもいいことだが…。




剣神社の登山口傍にはおいしそうな山水が蛇口から流れている。
一度ピロリ菌に侵されたわたしはもう二度と飲めない。
飲むと折角退治した菌がたちまち胃の中で繁殖して、元の木阿弥。
自動販売機で水を買った。

夫婦池へ向かう間に、桑平道から帰るべきか、それとも来た道をピストンするべきか、迷った。




桑平道は廃道になっていると聞いていたので、杭を打ち、ロープを張っている葛籠道への入口だったが、再び歩くことにした。
(後日に、昨年歩いたアンジーパパさんの話によると、桑平道は残っているとのことでした)




崩れた斜面を横切り、苔蒸した日本風庭園を歩き、沢を渡り、ロープを伝う。




古い道標と二基並んだお地蔵さん。




斜面に張ったロープ。
そしてひっくり返った沢に、しかし、雨が止んで見ると滑ることのない、なんでもない沢だ。
しゃくに障るので、岩にどっかり腰を降ろし、じっくりとコーヒータイムとした。
あらためて沢を見渡し、パンとバナナを口にねじ込む。

熱く湧かした苦いコーヒーが胃に流れ込む。
目が覚め、落ち着くな~。
小鳥以外には誰もいない。




沢を渡った。
あとは危険なところはもうない。

昨日気がつかなかった、炭焼き窯、周りの土は黒っぽい。
そして作業小屋。




川又との分岐に着いた。
杉林、旅の終わりが近づいてきた。




やがて、民家へと続くモノレール。




畑の道から見おろす民家。




テン場から3時間強、見ノ越から2時間40分ほど、そして夫婦池から2時間ほどで登山口に帰り着いた。
終わった。
意外とあっけなかった。

今回の歩きでラジオが壊れたが、それだけではなかった。
帰宅して、携帯電話の電源を入れたところ、画面は暗いまま、テン場で妻にメールをしたときは動いてたのにな?
防水だのに、水が浸透し壊れてしまった。

買い換えに行って、店員さんに確かめたところ、水道水は大丈夫ですが、泥水汚れ水だとか、水道水でも長く浸かるとダメですね、と言われた。
ありゃりゃ、そういうことなんだ、防水といっても、弱いんだね。
バシャバシャッと水をぶっかけて、大丈夫ですよみたいな宣伝を鵜呑みにしちゃいけないわ。

痛い!今回の山旅は高くつきました。




イシダテクサタチバナ




ショウキラン




一日目
葛籠登山口7:40-11:05夫婦池11:21-11:49見ノ越12:18-西島駅13:06-13:20野営場テント泊
二日目
野営場6:05-次郎笈6:58-剣山7:39-西島駅8:08-8:13野営場9:18-9:49見ノ越-10:32夫婦池-12:30葛籠


※地図上左クリック→グーグルマップへ移動

コメント (26)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする