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三峡ダムは20年後に重慶を埋めてしまう

2006-06-22 11:19:03 | 中国異論派選訳
(台湾の新聞記事なので中国異論派ではないが便宜上ここに分類)

 先月20日ダムの工事が完成し、技術者たちは堰堤の上で喜んで祝ったが、中国工程院の院士、長江水利委員会チーフエンジニアの鄭守仁(ジェン・ショウレン)は心配そうな様子だった。「いま、私が一番心配するのはダム湖地区の汚水処理問題だ」と彼は言った。

 汚水、堆砂、地震、土石流は三峡(サンシア)ダム建設工事が始まって以来、最も多く議論されてきた生態環境問題である。俗に、「流れる水は腐らない」というが、長江の急流がダムでせき止められ、深い渓谷がダム湖となり、水の流れがゆるくなると、泥砂と汚染物質は下流に流れにくくなり、ダム湖に蓄積されるので、水質悪化とごみの浮遊を招く。三峡工程総公司は多くの水夫を雇って水上に漂流するごみを処理しているが、堆積する泥砂と処理されずに長江に流れ込む汚水はいまだに解決されていない。

 三峡工事着工の前、北京の中央政府は汚水問題を考慮し、ダム湖地区に汚水処理場を建設する予算を配分した。現在、重慶(チョンチン)の中心市街地では30億元を投資した2箇所の汚水処理場が完成し、中心市街地以外のダム湖地区でも21億元を投資して、県級の都市と大きな鎮であわせて18箇所の汚水処理場を建設している。このように汚水処理場が建設されても、ダム湖地区の汚水の現在の処理量は60%にとどまる。重慶大学資源環境学院の王里奥(ワン・リーアオ)教授は、主な問題は地方の資金不足で、2級・3級の下水管をなかなか敷設できないため、市街地の汚水をすべて汚水処理場に集めて処理することができないためだと分析する。

 万州(ワンジョウ)はその具体例だ。万州ではすでに明鏡灘(ミンジンタン)汚水処理場が稼動しているが、動いているのは半分だけである。なぜなら、3級下水管の敷設は地方予算で行われるので、地方は資金がはなはだしく不足しているため、万州のほかの二つの汚水処理場も含めて建設できないのだ。巫山(フーシャン)では、まだ完成していない汚水処理場付近に、巨大な都市下水管が恐竜のように大きな口をあけて、未処理の生活廃水を直接長江に注いでおり、岸辺には茶褐色の汚水の帯ができていた。

 排水口、はげ山と土石流はダム湖地区のお決まりの風景である。黄土斜面のところどころに潅木が点在し、その脇には細い土石流の跡がある。ダム湖地区は移民の入植のために過剰に開発され、地質の不安定なところにも建物が立っている。地盤が崩れないように、新しい建築郡の下は各種の法面保護工で覆われている。あたかも骨粗しょう症患者が、骨折を避けるためにギプスで保護されているように見える。

 「ギプス」工事で山腹を保護する対策は、予想されたことであるが、ダムの貯水が始まると、沿岸の山腹に30メートルに渡って不毛の「水位変動域」が生ずることは、予想外のことであった。

 三峡ダム湖の正常貯水水位は175メートルであり、低水位は145メートルである。水位が下がった時、川沿いの険しい峡谷には岩石の露出した不毛の岸壁が出現する。傾斜のゆるい岸辺では、水が引いたあとは広い人工湿地となり、ごみ、汚水、堆砂などが滞留しやすく、深刻な環境問題をもたらすであろう。

 重慶大学持続的発展研究院の雷享順(レイ・シャンシュン)教授は「水位変動域」について、両岸の傾斜が非常にゆるく、土質が泥土の湖岸では、夏に水位が下がった後、ダム湖に沈んだ各種の汚染物質は水位変動域にとどまるので、汚染物質にごみと雑草を伴って、景観を破壊するのみならず、高温の下で異臭を発し、病原菌や寄生虫、蚊やハエを発生させ、伝染病を流行させるだろうと分析する。

 調査によると、ダム湖地区の大きな「水位変動域」は開(カイ)県、巫山県大昌(ダーチャン)鎮、雲陽(ユンヤン)県高陽(ガオヤン)鎮および万州区苧渓(ジュシー)河などの地域に生ずるとされる。

 泥砂の堆積は、三峡ダムを建設すべきか否かという論争の核心であった。反対者は水工学の専門家黄万里(フアン・ワンリ)を代表とし、長江上流の流れは粒の大きな玉石を含みダムができれば排出が困難になり、堆積するだけでなく、それが上流へと伸び重慶港を埋めてしまうという結論を出した。三峡工事の実現可能性調査では、堆砂試験をおこない、20年後には重慶港は埋まってしまうという結論が出た。そのため、現在重慶市は15億元を投資して新たに寸灘港の建設を進めており、2010年に完成する予定である。

 堆砂以外にも、専門家は重慶が「水没」するかもしれないと予測している。ダムの貯水が135メートルを超えると、ある研究によると、ダムの部分とダム湖末端の水位差は34メートルとなったので、将来貯水量が175メートルに達すると、重慶は水面下の都市になるのではないかというのである。当局はもちろん否定しているが、実際はどうなるのか?

 葛洲壩(ゴォジョウバ)水力発電所の経験によると、三峡ダムは周囲の生態に深刻な打撃を与える。例えば、ダムによる遮断で魚類は通行できなくなり、その習性と遺伝に変異をもたらすであろう。三峡の貯水は、ダム湖地区の500種あまりの稀少植物を水没させる。

 「三峡観光大使」巫山県の教師周亜玲(ジョウ・ヤーリン)は三峡とふるさとを愛し、「三峡民俗旅行ネット」を開設し、外界に三峡地区の人文様式を紹介してきた。ダムの建設について彼女はブログの中で「この土地に移民住宅を建てるために、樹木は伐採し尽くされており、私が目にしているのは破壊である」と書いている。この「破壊」は、ダム湖地域に住んでいない人にとっては、もちろん痛くも痒くもない。

 長江を遡上すると、両岸の景色は「傷ついた顔(破砕的臉=歌の文句)」のようだ。歴史的に有名な土砂災害地区である秭帰新灘(ズーグイシンタン)の地すべり、秭帰樹坪(ズーグイ・シューピン)の地すべり、巴東黄蝋石(バードン・フアンラーシー)の地すべり、雲陽鶏扒子(ユンヤン・ジーバーズ)の地すべりなど、ひどい光景に心が痛む。なかでも、黄蝋石の地すべりと樹坪の地すべりはダムの水位が135メートルに達した時から始まったものである。現在ダム湖地区では両岸の山崩れ、地すべりは2490箇所に上っている。

 2003年7月、秭帰県沙鎮渓(シャージェンシー)千将坪(チエンジアンピン)で大規模な地すべりが発生し、一部の住民は避難が間に合わず生き埋めとなり、少なくとも30数名が死亡するという惨劇となった。千将坪の地質はもともと安定しており、地すべりが起きるとは専門家は予想していなかった。「千将坪地すべりの重要な啓示は、ダム湖地区の地質が変化しているということであり、一部の重点的にモニタリングしている災害地区では、より大きな地質災害が起きる可能性がある」と、大陸の地質専門家範暁は三峡の地質状況について警告を発した。

 範暁(ファン・シャオ)は四川地質探査隊の隊長であり、生態環境保全に打ち込んでいる。今年はじめ彼は三峡ダム湖地区を歩き、現地の地質の変化と多くの生態問題を心配している。

 範暁が記者に語ったところによると、ダム湖地区はもともと地すべり、山崩れを中心とする地質災害の頻発地区であり、ダム建設後、水位が上がったことにより浸漬や、水位の急激な変動が地質を変化させ、加えて移民受入のための町の移転工事が大量に行われ、もともと危険が潜伏している地質環境がその負担に堪えられず、事故が頻発している。

 巴東(バードン)県の県城(県役場所在の町)が何度も移転しているのはその典型である。県城の最初の移転は、もとの県城のすぐ後方上部の黄土坡(フアントゥポ)に新しい県城が作られた。黄土坡は多くの「古い地すべり」によって形成された大きな地滑り面であり、新しい県城が建設されたことにより、地滑りが起こり建物が壊れ人が亡くなった。のちに、県政府はさらに黄土坡の上流の白土坡(バイトゥポ)を主な移転地とした。しかし、白土坡も同様に地すべりがあり、しかも場所が狭いので、要求に合わなかった。現在、しかたなく岸に沿って更に上流の、西壌坡(シーランポ)に移転先を定めた。

 範暁によると、巴東県の黄土坡における最初に移転した県政府ビルはすでに廃棄され、政府機関は西壌坡に移った。しかし、商売がしやすいので、大部分の住民は黄土坡に住み続けている。現在、各戸に警報スピーカーが取り付けられ、いったん地質災害の危険が生じたら、警報を出して、住民は白土坡に避難することになっている。

 「ダム湖地区の貯水後の地震活動状況は、現地の業界が最も注目するところだ」、範暁は地震問題は無視できないと考える。彼によると、ダム湖地区には2本の断層があり、1本は九湾渓(ジウワンシー)断層で北東に伸びて西陵峡のなかの牛肝馬肺(ニウガンマーフェイ)峡谷を跨ぎ、ダムから17キロのところまで伸びている。いったん比較的強い地震を誘発すれば、ダムへの影響は大きい。

 「もう一本の断層は高橋(ガオチャオ)断層で、もっと活発だ」、範暁はこの断層には特別注意しなければならないと考える。高橋断層は巴東付近から北東に伸び、長江を横切る。歴史上、この断層はマグニチュード5~6の地震を起こしている。「高橋断層は135メートルの貯水をして以来、ダムが誘発する地震の最も集中しているところであり、最高はマグニチュード3.4に達している」。三峡工事の議論の過程で、多くの研究機関と学者がダム誘発地震の大きさについて予測を行っている。九湾渓断層と高橋断層の通るダム湖では、予測は最高マグニチュード6に達するとしている。

 ダムの貯水は、より大きな地震を誘発しないだろうか?範暁は、大陸の専門家の多数派の認識は、ダム湖誘発地震は背景地震よりマグニチュードは1~2大きくなる。しかし、違った意見もあり、ダム湖誘発地震は背景地震の範囲を越えないという。いまのところ、貯水が誘発する地震の問題はまだ本格的には起こっておらず、貯水水位が上がっていった時に、さらに誘発地震発生可能性が高くなっていく。現在はまだ135メートルだから、より厳しい試練はこれから来るのだ。
(聯合報・王莉娟)
原文はこちら:
http://blog.goo.ne.jp/sinpenzakki/e/0edb89bf7a74d2d526c976a91dc8f93b

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