読書日和

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「水族館ガール」木宮条太郎

2015-04-26 18:33:08 | 小説
今回ご紹介するのは「水族館ガール」(著:木宮条太郎)です。

-----内容-----
市役所に務めて三年、突然水族館「アクアパーク」への出向を命じられた由香。
イルカ課に配属になるが、そこには人間とのコミュニケーションは苦手な男・梶と、イタズラ好きのバンドウイルカがいた。
数々の失敗や挫折を繰り返しながらも、へこたれず、動物たちと格闘する女子飼育員の姿を描く青春お仕事ノベル。
ペンギン、ラッコら水族館の人気者たちも多数登場!

-----感想-----
物語の主人公は嶋由香。
市役所の観光事業課に務めていて、この3月で務め始めてちょうど丸三年になるところです。
冒頭、由香は課長に呼び出されます。
そこで告げられたのは、「市立水族館 アクアパーク」への出向。
アクアパークは千葉県の湾岸開発区の南端にあります。

突然の異動、それも今までとは全く違う業務になることに戸惑う由香。
たしかに観光の事務仕事から水族館で動物相手の仕事では根本的に違っていて大変だと思います。

水族館に出向した由香は梶良平という由香より四つ年上の男に付くことになるのですが、この男が物凄く無愛想で口調もぶっきらぼうで、由香は大苦戦していました。
他には館長、現場の総責任者的な岩田チーフ、梶と同い年の同期で魚類展示グループの今田修太、獣医の磯川さん、マゼランペンギン担当の吉崎さんなどが登場します。
梶の無愛想さは相当なもので、「イルカショー」という言葉を使った由香に対し、
「イルカショーなんて仕事は、アクアパークには無い。ショーがやりたいと思ってるなら、帰ってくれ。そんな人間はいらない」
と言っていました。
アクアパークではイルカショーに相当するものを「イルカライブ」と呼んでいるためこう言ったようなのですが、それなら
「うちではイルカショーのことをイルカライブと呼んでいる」
と言えばいいのにと思います(^_^;)

読み始めてからしばらく、由香の言葉の「でも」の多さが目につきました。
梶にあれこれ言われるたび、「でも」「でも」と何度も「でも」を使って反論しています。
私はこの「でも」の多さが気になって、あまり「でも」ばかり使って反論するのもいかがなものかと思いました。

アクアパークには四頭のバンドウイルカがいます。
オスのC1(シーワン)、B2(ビーツー)、メスのF3(エフスリー)、水族館生まれでオスの子イルカのX0(エックスゼロ)です。
なぜ愛称を付けずにこんな記号で呼んでいるのか、磯川先生が語っていました。

「水族館の飼育生物に愛称は必要か。アクアパークでも、この議論は常に出る。だけど、そのたびに見送ってきた。まあ、こだわりだな。僕達は飼育技術者であって、仕事として生物を飼育している」
愛称をつけるとペット感覚になり感情移入してしまい、客観的な判断ができなくなるため、それをしないという決意を込めて、記号で呼んでいるとのことです。
これはなるほどなと思いました。
後に由香は一頭のイルカを巡り「感情移入してしまい、客観的な判断ができなくなる」を身をもって体験することになります。

由香は水族館のことは何も知らないものの、イルカに好かれる天性のものを持っているようで、C1が「C1ジャンプ」という、梶や先生、チーフにはやってくれない大技を、由香にはやってくれていました。
ちなみにゴールデンウィーク明け、アクアパークにとある噂が流れ、特に梶がピリピリすることになります。

イルカの愛称については磯川先生が「アクアパークでも、この議論は常に出る」と言っていただけあって、実際に会議の場で「イルカの愛称の公募」について議論している場面がありました。
そこで繰り広げられた総務の倉野課長と現場の岩田チーフの激論は印象的でした。
「愛称をつけるとペット感覚になり感情移入してしまい、客観的な判断ができなくなるため、それをしないという決意を込めて記号で呼ぶ」というのが現場側の意見ですが、それに対する倉野課長の意見は以下のものでした。

「ここは水族館であって、大学の研究室じゃない。来場者から入館料を取って、運営を維持してる。来場者はお客さんでもあるんだ。そのお客さんに見てもらって、いくらの場所なんだ」
お客さんに見てもらい楽しんでもらうためにも、お客さんから愛称を公募すべき、親しみやすい愛称を付けるべきだというのが倉野課長の主張で、これもたしかにそうだなと思いました。

イルカは群れで生活するものの互いの関係は対等で、群れにボスイルカはいないとのです。
トレーナーとイルカの関係も対等で、強引に演技を覚えさせようとすると、イルカは嫌になって相手にしてくれなくなります。
どちらかというと演技を覚えさせるというより、上手くイルカに遊んでもらいながら結果として演技の形にするのがイルカショーのようです。

「ベニクラゲ」も印象的でした。
今田修太によるとこのクラゲは寿命近くになるとエイヤっと若い頃の体に戻るとのことです。
そのため「不老不死のクラゲ」と言われていて、そんなクラゲがいるのかと驚きました。

「ラッコは極めて神経質な動物」というのは意外でした。
のんびりとした見た目とは裏腹に他の動物なら何でもない刺激でも餌を食べなくなることがあったり、驚くとショック死することもあるようです。
倉野課長が
「ラッコとは人懐っこい愛玩動物だ―そんな勘違いのまま、大半の観客は帰っていく」
と言っていたのが印象的です。
さらに「水族館は矛盾の塊」「水族館はイメージと現実の乖離が大きな場所」とも言っていました。
見に来るお客さんはその動物のイメージどおりの姿を見に来るのですが、現場で働く飼育員はイメージとは違うその動物の実際の姿を知っています。

そこを舞台に、由香自身も時には矛盾について考えたりしながら、日々奮闘していきます。
お仕事小説だけあって水族館のこと、イルカのことが詳しく分かりました。
青春物語でもあるので作品には躍動感があり、読んでいて面白かったです。
読むと水族館やイルカショーを見る目が少し変わる一冊だと思います。


※「水族館ガール2」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール3」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール4」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

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