読書日和

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「書店ガール6 遅れて来た客」碧野圭

2017-08-13 23:51:38 | 小説


今回ご紹介するのは「書店ガール6 遅れて来た客」(著:碧野圭)です。

-----内容-----
彩加が取手の駅中書店の店長になってから一年半、ようやく仕事が軌道に乗り始めたと感じていたところ、本社から突然の閉店を告げられる。
一方、編集者の伸光は担当作品『鋼と銀の雨が降る』のアニメ化が決定して喜ぶものの、思わぬトラブル続きとなり……。
逆境の中で、自分が働く意味、進むべき道について、悩む二人が見出した答えとは。
書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第六弾。

-----感想-----
夏至がもうすぐの6月頃から物語が始まります。
今作は宮崎彩加と小幡伸光の話が交互に進んでいきます。
冒頭、彩加は「本の森」本部の三田村慶信部長に「フェアに凝りすぎ」と言われたことを思い出します。
三田村部長は「駅中書店は売れ筋商品ベスト100のリストに載るようなものだけ並べておけばいい」と言いますが彩加は「それではうちの店としての個性が出ない」と考えています。
駅中書店はスペースも狭く移動中の人が時間がない中で買うことが多いため、たしかに扱う本は売れ筋の本以外はあまり充実していない気がします。

彩加が考え事をしているとアルバイトの田中幹(つよし)がやってきます。
田中は作家の原滉一でもあり、彩加が店長を務める「本の森取手店」でアルバイトをしながら「鋼と銀の雨がふる」という小説を書き、ライトノベルの疾風文庫の新人賞で大賞を獲りました。
「鋼と銀の雨がふる」は既にシリーズ累計30万部を突破するヒットになっています。
この後さらに人気が出ると近いうちに田中は辞めないといけない日が来ると彩加は見ています。

本の森取手店に安部真理恵と妹のかのんの姉妹がやってきます。
二人は藝大の学生で、手作りの冊子を店頭に置いて売らせてほしいと彩加に頼みます。
彩加は二人のために三田村部長を説得して許可を得ようと思います。

中学生たちが伸光の職場の見学に来ます。
職場見学は彩加が依頼してきたもので、元々は中学校で司書をしている高梨愛奈が彩加に職場見学のことを相談していました。
伸光が自身も務める編集長の業務内容について中学生達に語っていました。
「どういう作品を載せると雑誌が面白くなるか、売り上げが上がるかを考えて実行するのが編集長」とありました。
また「各編集者は作家と作品のことだけを考える。それをまとめた雑誌をどうするかを考えるのが編集長の仕事」とありました。

愛奈から彩加に電話がきます。
再来週の日曜日に愛奈と待ち合わせて国分寺で行われる本のイベントに行くことになります。
そして再来週の日曜日は夕方に静岡県の沼津市でパン屋を経営している大田英司にも会うことになり、彩加はウキウキします。

「ジェッツ!」という漫画のノベライズ化について、ジェッツの担当編集の上田、編集長の篠原、疾風文庫側担当編集の松江、そして編集長の伸光で話し合いが行われます。
上田が原作至上主義で原作にはない展開が少しでも小説に登場するのを一切許さないため、話し合いは難航します。
伸光は「コミックは絵の魅力だけで5ページでも10ページでも持たせることができるが、小説ではわずか半ページで終わるかも知れない。だからコミックをそのまま小説にするのは不可能」と言っていて、これはそのとおりだと思います。

彩加が相談すると三田村部長は藝大の学生の本を本の森取手店に置くのを認めてくれます。
しかし喜んだのも束の間、三田村部長から本の森取手店が4ヶ月後に閉店になると告げられ彩加は衝撃を受けます。

伸光は部長の相馬大輔から「鋼と銀の雨がふる」が来年4月からNHKでアニメ化されると告げられます。
アニメ化は出版社にとってはビジネスチャンスとのことです。
最初は予想外のことに戸惑う伸光でしたが伸光にとってもアニメ化は夢見ていたことだったので喜びます。
田中もとても喜んでいました。

ただ伸光が田中にアルバイトを辞めるように言っていたのには違和感を持ちました。
デビューしたての売れない時はバイトを辞めるなと言い、売れてきたら今度は辞めろと言い作家を振り回していて、編集者は勝手だと思います。
田中自身が売れてきたらアルバイトを辞めたいと考えているなら話は分かりますが、田中の場合は今のアルバイトを気に入っていて続けたいと考えています。
この場合、編集側の都合でアルバイトを辞めさせるのなら、もし辞めた後に田中の小説が売れなくなった時は編集側がアルバイトの斡旋をするのが筋だと思います。
ところが実際にはそんなことはしない編集がかなりいるのではと思います。
この辺りの「利用できる時(会社の利益になる時)はアルバイトを辞めさせてでも利用して、利用できなくなったら冷たくする」というような対応はかなり酷いと思います。

彩加と愛奈は国分寺のブックイベントに行きます。
そこで彩加は「ビブリオマンシー」という書物占いをやります。
本を手にして、ぱっと開いたページの言葉がその時、その人に必要な言葉だとされます。
彩加は『読書で見つけた こころに効く「名言・名セリフ」』(著:岡崎武志)という本を選んでページを開きます。
すると「世界はあなたのためにはない」という言葉が出てきて、その言葉が理不尽に店を閉店しないといけない自身の境遇と重なって彩加は涙を流します。
この本は他にどんな言葉があるのか少し読んでみたいと思いました。

二人はブックイベントの帰りに「ねじまき雲」というカフェに行きます。
そこで彩加が飲んでいたカフェオレが「ミルクと珈琲が戦っているみたいにそれぞれ主張している」とあって美味しそうで飲んでみたいと思いました。
愛奈は甘水(あまうず)という珈琲を飲んでいて、これも美味しそうで興味を持ちました。
そして甘水という名前が具体的なのでもしやと思い調べてみたら、「ねじまき雲」は国分寺に実在するカフェのようです。

最近の子どもは本を読まないという話題になり、愛奈が興味深いことを言っていました。
「だけど、ネットをいくら見ても、知性が身につくわけじゃない。ネットで手に入るのは、しょせん情報だけ。ほんものの知性は、自分の頭で考えて、本を読んだり、調べたりしてはじめて構築されるものだというのに」
自分の頭で考えて、本を読んだり、調べたりしてはじめて構築されるというのはまさにそのとおりだと思います。
ただ前半の部分は「ネット」を「テレビ」に置き換えたほうがしっくりくると思います。
テレビの場合は一方的に情報が送られてくるだけなのに対し、ネットの場合はある情報に疑問を持った時は調べて別の情報を見つけることもでき、それぞれの情報を見比べて自分の頭で考えることができます。

愛奈が読書の役割についても語っていました。
「読書って楽しいし、その楽しみを知ってる方が幸せだもの。こころの偏差値はほかの人には見えないけど、読書ってそういうものを育てる役割があるんだし」
こころの偏差値という言葉が印象的でした。
読書は感性を豊かにすることができるので、他の人の気持ちを考えることができるようになったりすると思います。

彩加は大田と丸の内で会います。
大田は30歳で、まだ二人は付き合ってはいないですが彩加は大田のことが気になっています。
大田のパン屋が入っているビルが建て直すことになり、大田は近いうちにビルを出ることになります。
そして彩加の伯母が大田に「自分の本屋のスペースを使ってパン屋をやったらどうか」と言ってきたとのことです。

伸光は「鋼と銀の雨がふる」のアニメを制作する「スタジオGIG(ギグ)」に挨拶に行きます。
スタジオGIGは郷田一弥が代表取締役社長で、石破宏信が「鋼と銀の雨がふる」の監督をします。
打ち合わせが始まると石破がずっと喧嘩腰で話してきて伸光は戸惑います。
かなり嫌な話し方をしていて、最悪な人物だなと思いました。

ある日、彩加にアルバイトの幸崎郁歩が話しかけてきます。
郁歩は就活に本腰を入れるために今月いっぱいでアルバイトを辞めるとのことで、彩加はお店が閉店するためもう新しいアルバイトを採れないことに気づきます。
また、郁歩から原滉一(田中)目当ての不審な客が現れるようになったと聞きます。
小説が売れるようになったので、ファンが田中のアルバイト先を突き止めて押し掛けてきたのではと二人は警戒します。

伸光と亜紀の息子の光洋は今年で4歳になるとありました。
第一巻では結婚したばかりだった二人に子どもが生まれ4歳になり、かなり月日が流れたなと思います。
二人の会話の中で、書店で棚を確保しないと新規読者が入ってこれないとありました。
売り上げを伸ばしていくためにも多くの書店に疾風文庫のコーナーを持ってもらうことは大事とあり、既存の文庫に割って入っていくのは大変だと思います。

「鋼と銀の雨がふる」はコミック化もされることになり、コミックは佐倉飛鳥という人が描くことになったのですが、担当は「ジェッツ!」のノベライズ化で揉めた上田です。
伸光はアニメの現場との折衝だけでも大変なのに社内でも上田と揉めそうな展開になっていてかなり大変そうです。
アニメの制作では打ち合わせが進むごとに監督の石破もシナリオの河原市朗も伸光に敵意を剥き出しにして真っ向から対立するようになります。

書店の閉店を内外に告知するのは閉店の1ヶ月前で、告知できるようになるまでは彩加一人で抱え込むことになります。
また、彩加の伯母が伯母の本屋のスペースを使って大田と一緒に本屋兼パン屋をやったらどうかと言ってきます。
突然のことに彩加は戸惑います。

「鋼と銀の雨がふる」の漫画に原作とは相当違うことが描かれていて伸光は唖然とします。
これは上田の嫌がらせで、石破と同じく最悪な人だと思いました。

伸光が亜紀にアニメ業界の人の傾向について語っていました。
「アニメの世界は金を儲けようと思って入ってくる人はほとんどいない。その分、好きな仕事かどうかとか、やりがいがあるかってことにこだわる人が多い気がする」
伸光は「アニメの制作費は本人が負担するわけではないのだから、もう少し好きか嫌いかなどの気持ちに折り合いをつけて制作してほしい」と思っています。
これはそのとおりで、制作を依頼しても「嫌いだから」という理由で完成度の低いアニメにされたら愕然とすると思います。
田中が小説が売れるようになってもアルバイトを辞めない理由について、亜紀が全く違った見方の意見を言っていて、もしかしたらそうかも知れないと思いました。

やがて石破と河原が「もうやってられない」と言い伸光と決裂してしまいます。
伸光は心労でかなり胃が痛くなっていました。
編集の仕事でも珍しくミスをしてしまい精神的に追い詰められていました。

西岡理子が彩加の店にやってきます。
閉店にやりきれない思いを抱いていた彩加を気遣う理子の言葉に彩加は目頭を熱くします。

アニメ制作の打ち合わせで心身ともに疲弊してしまった伸光のために田中がスタジオGIG社長の郷田に凄いことを言ってくれます。
今までの田中ではまず言えなかったことで、心境の変化を実感しました。

彩加は大田がなぜ彩加との距離を縮めないかの理由を知ります。
そんな大田に彩加は今の自身の気持ちを伝えます。
名古屋にあるNSKという「名古屋書店員関係者の集い」も興味深かったです。
全国にはそういった書店員関係者の集いがいくつもあるのではと思います。

「多様性」という意味合いの言葉は印象的でした。
私は多様性という言葉をやけに強調する人ほど、他の価値観を認めようとしない傾向があるなと思います。
ある意見に対して「多様性を認めなさい」と言うのであれば、その相手の意見も「多様な意見の中の一つの意見」だということを忘れないほうが良いです。
これを忘れると、単に自身の意見を押し通したいがために「多様性」という言葉を都合よく使っていることになってしまいます。


今作は彩加が大きな転機を迎えることになりました。
大田との関係がどうなるのかも気になります。
どんな新たな活躍を見せてくるのか、「書店ガール7」を楽しみにしています


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