読書日和

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「マンガでやさしくわかるアドラー心理学 人間関係編」岩井俊憲

2016-06-01 23:30:09 | 心理学・実用書


今回ご紹介するのは「マンガでやさしくわかるアドラー心理学 人間関係編」(著:岩井俊憲)です。

-----内容-----
小笠原つぐみ(28)のひそかな悩みは、つい他人に合わせてしまってホンネをなかなか口に出して言えないこと。
ある日、ひょんなことから謎の少女ヒナコと一緒に暮らし始めることになり……。
゛いい人゛をやめて自分の人生を生きる!
職場のいざこざ、友人・恋愛・夫婦関係のモヤモヤ、親とのしがらみ…。
あなたの苦しみを解く勇気の教え。

-----感想-----
心理学には「心理学の三大巨頭」と呼ばれる偉人がいて、ジークムント・フロイト、カール・グスタフ・ユング、そしてアルフレッド・アドラーです。
フロイトが「精神分析学」を創始しユングとアドラーも一緒に研究をしていましたが、後に考え方の違いからユングとアドラーは分派します。
ユングは「分析心理学」を創始し日本では「ユング心理学」と呼ばれるようになり、アドラーは「個人心理学」を創始し日本では「アドラー心理学」と呼ばれるようになります。

この本自体は昨年の秋に「ユング心理学」の本を二冊読んだ流れで買っていました。
※「ユング名言集」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「面白くてよくわかる!ユング心理学」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
ただその時はパラパラと読んでみて「ガツガツした心理学」という印象を持ったため通しで読むまではしませんでした。
昨年秋の時点でも結構名前を聞くようになっていた「アドラー心理学」ですが、最近は益々名前を聞くようになり、書店でも「嫌われる勇気」に代表されるアドラー心理学の本が大々的に売り出されるようになっています。
そこで今回、この本を読んでアドラー心理学がどういったものなのか、ユング心理学とはどう違うのか触れてみることにしました。

サイバーバードの広報部に勤める小笠原つぐみは悩み多き女性です。
彼女の悩みを中心に話が進んでいきます。
ある日仕事を終えたつぐみがアパートに帰ってくると同じ階の部屋の前に女の子が座って寝ているのに遭遇します。
女の子は大空ヒナコ(20)と言い、部屋の人を訪ねて来ていました。
しかし部屋の人はしばらく海外に行って不在のため、「それなら公園で野宿でもしながら待つ」と言うヒナコを見かねたつぐみは「何か食べる?身体冷えてるでしょ」と声を掛け、そのまま成り行きで部屋に泊めてあげることになりました。
心の中で「どうして私って無駄にいい人なんだろう」と思うつぐみに対し、ヒナコが
「お姉さん、自分のことええ人やと思うてるでしょ?」と言います。

「けど息苦しいんとちゃうそんな生き方。アドラー心理学やったらもっと自分らしく生きられるんやで。」
「人間のすべての悩みは対人関係って知っとった?一宿一飯のお礼なんで色々教えたげるね」

このヒナコの語りかけからアドラー心理学についての話が始まっていきました。
アドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と語っています。
それだけに対人関係をうまくこなせば悩み・苦しみとは縁遠くなり、充実した日々を送ることが可能になるとありました。
私は人間の悩みが全て対人関係の悩みなのかは分からないですが、かなりの比重を占めているとは思いました。

アドラーは私達が人生で直面しなければならないさまざまな課題のことを「ライフタスク」と呼び、このライフタスクを仕事・交友・愛の3つのタスクに分類しています。

(1)仕事のタスク……役割・義務・責任が問われる生産活動への取り組み
(2)交友のタスク……身近な他者とのつき合い
(3)愛のタスク……カップルを基本とし、親子も含めた関係

この3つはそれぞれ対人関係を免れることができず、ライフタスクへの取り組みの中で私達の心の健康度が試されるとありました。
アドラーは次の言葉を残しています。

「心理学的な見地からも、正常な人は、人生の課題と困難がやってきたときに、それに対応するに十分なエネルギーと勇気を持っている」

この本では「逆に言えば、不健康な人は、人生の課題と困難がやってきた時に、それらに対処するための十分なエネルギーと勇気を持ち合わせていないため、ためらいの態度を示したり、回避的になったりしがちです」ともありました。
不健康な人を「勇気がない」で片付けていますが、この決め付けには疑問を持ちました。
そしてアドラー心理学はもしかすると体育会系的なものがあるのかなという印象を持ちました。

「欧米での職場の人間関係は仕事のタスクだが、日本の職場での人間関係は交友のタスク」というのは興味深かったです。
たしかに日本の職場では飲み会や社員旅行などがあります。

人間関係の4つの要素「自分、相手、関係、環境」について、変えやすい順番はどうでしょうか?という問いがありました。
私は「自分、環境、関係、相手」の順にしました。
この本では「自分、関係、環境、相手」となっていて、私は結構近い考え方でした。
「多くの人は、相手を変えようとして空しい努力をしています」とあり、これについて私の場合は「相手の性格などそうそう変わるものではない」と考えているため、「相手」については迷わず一番後ろに回しました。

「人間関係面で健康な人は、自己受容している」とありました。
自己受容とは「自分を満点に評価するのとは違い、自分の短所・欠点も知りながら、自分自身を受け入れ、自分を自分の協力者にすること」とありました。
この考え方はユング心理学と似ていると思いました。
人は完全ではないのが当たり前で、短所もあります。
その短所がありながらも現在の自分が形作られていて、何とか歩いてこれているじゃないかと自分自身を受け止めてあげるということであり、私はこの考え方は好きです。

つぐみは彼氏との旅行に行く予定を立てていたのですが同じ日に開催されることになった会社の同期会の誘いを断れず、同期会に行くことにしてしまいます。
そのことをヒナコに非難されます。
ヒナコはアドラー心理学を語ります。

「どんなにつらいことにぶち当たっても人はそれに立ち向かうだけのエネルギーと勇気を持っている」

「本当の人間関係は…嫌われることを受け入れる勇気が必要なんよ!」

「本当の人間関係は嫌われることを受け入れる勇気が必要」についてはたしかにそう思います。
「関わりのある人全員」に好かれようと思ってもそれは無理です。
ただしもう一つの「どんなにつらいことにぶち当たっても人はそれに立ち向かうだけのエネルギーと勇気を持っている」については、解釈の仕方に注意が必要だと思います。
これは元々は持っていたとしても、現在強い精神的ストレスで学校や職場に行けなくなっている人はそのエネルギーと勇気が出せなくなっています。
そんな精神的にまいっている人に対し「人はみんな困難に立ち向かうエネルギーと勇気を持っているのだからそれを出せ」と言うのは「あなたが学校(会社)に行けないのはあなたにエネルギーと勇気が足りないからだ」と責めているのと同じで明らかに逆効果であり、やってはいけないことです。
長い時間をかければ元々持っているエネルギーと勇気が回復する可能性はあるので、「人はみんな困難に立ち向かうエネルギーと勇気を持っているのだからそれを出せ」とするのではなく、自然にエネルギーと勇気が回復されるように注力するべきだと思います。
この辺り、考え方の押し付けを感じるものがあり、やはり体育会系的な面のある心理学という気がしました。
私はアドラー心理学の本を読んで解釈を勘違いした人が身の回りの精神的にまいっている人に対し、「人はみんな困難に立ち向かうエネルギーと勇気を持っているのだからそれを出せ」と言って事態を悪化させる場合があるのではという懸念を持ちました。

「日本人の根底の心理」は興味深かったです。
日本人は外国人に比べて「嫌われたくない」「周りに合わせよう」という心理が強いとありました。
これはユング心理学にあった「日本人は女性性の高い民族」の部分が似ていると思いました。
ユング心理学ではその女性性の高さを認めつつ欧米的なリーダーシップも取り入れて両方のバランスを取ると良いと説いていましたが、アドラー心理学の場合は欧米化したほうが言いと説いています。
私の心にはユング心理学のほうが合っていると思いました。
女性性の高さは日本人の元々の民族性なのですから、それを否定するのではなく自分達の民族の特徴として受け止めてあげて、それをベースにして欧米的なリーダーシップも取り入れて両者のバランスを取るという考え方のほうがストンと心に入ってきます。

「みんなに好かれたいと思うのは、幻想にすぎない」
「みんなに嫌われていると思うのは、妄想にすぎない」
これは興味深かったです。
相性の法則というものがあり、2:7:1か2:6:2の割合で相性の良い、普通、悪いの分布があるとのことです。
人が10人居たとしてその中で相性が良いのは2人くらいで6~7人は普通、さらには相性の悪い人が1~2人は居るということです。
この数字を見るとヒナコの「本当の人間関係は…嫌われることを受け入れる勇気が必要なんよ!」の言葉のところで触れたようにやはり「全員に好かれる」というのは無理であり、そして余程酷いことでもしない限り全員に嫌われることもないようです。
考えすぎないのが一番良いのだと思います。

アドラー心理学は全体的に「勇気を持て」と言っていて体育会的なものを感じました。
私はユング心理学での「人の性格には思考、感情、感覚、直観という4系統があり、人によってそれぞれの系統に対して向き不向きがある」という概念を重視しています。
なので人による向き不向きをアドラー心理学では一括で「勇気を持て」で片付けているところに強引さを感じました。
ただしユング心理学でも「最終的には苦手な系統の力も伸ばしていくことが望ましい」としていて、目指す方向はユングもアドラーも「自分自身を生きやすくする」で同じだと思います。
その方法がユング心理学ではしなやかに、アドラー心理学では力技でという印象を持ちました。
そして私の感性にはユング心理学のほうが合っているので、ユング心理学を基準としつつ、アドラー心理学についても参考として本を読んでみて、良いものは取り入れるというやり方が良いかなと思いました。
次はぜひベストセラーとなっている「嫌われる勇気」を読んでみようと思います。


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