思考の部屋

日々の思いを綴る小部屋

NHKスペシャル東日本大震災「東北夏祭り〜鎮魂と絆〜」・魂に対する態度

2011年08月14日 | 宗教

[思考] ブログ村キーワード

 万葉集巻20−4346の歌に、

 父母が
 頭かき撫で
 幸(さ)くあれて
 いひし言葉(けとば)ぜ
 忘れかねつる

という防人の歌があります。
 東国の各地から召集された防人が九州、対馬の防備に当たるために兵士と出征する際に父母がその防人の行く我が子の頭をなでながら「無事でいろよ」と言ってくれた歌が忘れないと詠った歌です。

 「なでる」、古くは「なづ」と言い、「和(なご)やかにする」ことで、海が凪(な)ぐとか、神様と心をなごやかにするために、神官の禰宜がお祈りをするとかと、同じような状態を期待するものであり、柔(にき)(熟)なども同じものだそうです(『古代日本人・心の宇宙 中西進著 NHKブックスp124))。

 「なでる」という行為により「なでられた」という感覚が記憶されます。そこにはいったい何が生ずるのでしょうか。

 信濃を代表する万葉集歌(同巻3400)に、

 信濃なる
 ちくまの川の小石(さざれし)も
 君し踏みてば
 玉と拾(ひろ)はむ

という歌があり、「あなたが踏んだ石ならば、(あなただと思って)宝のように大切にしまう。」という思いを詠った歌です。恋人の彼が防人に行ってしまうのでしょうか、それとも恋人間の民謡でしょうか、どちらにしてもこの歌は「上代の人々の霊魂分割の信仰を見ることができる歌」と言われています。

 万葉学者の犬養孝先生が解説すれば「太平洋戦争で特攻隊の隊員として出陣し、帰らぬ人となった我が子が踏んだ滑走路跡地の小石を大事にする老夫婦」の感涙の話になるところです。

 霊魂とはそもそも何であるかという話になりますが、古代人はみな、自分の身体に霊魂を持っていると考えていました。感覚も、判断も、思考も、喜怒哀楽も、ことごとく霊魂の働きで、それは人の心理現象を惹き起こす主体のようなものであり、霊魂はまた、神と全く同じ属性をもっていたようです(『本質と諸相』松平斉光著 朝日新聞社 p24〜p25参照))。

 神(上記の神も含め、日本の神です)の特性の中に「接触物に拡充する性質」があります。神は自己(神を人格的に表す)の宿っている物体に接触する他の物体の上にたやすく拡充する性質があります。また「可分性」といって神は自由にその依代(よりしろ)を代えることができます。物から他の物へ移ることができ、しかも同時に一物を去ることなくして他の物へ乗り遷ることができ、言いかえれば自己を無限に分割できるという、分身をつくることができる性質があるといいます(上記書『本質と諸相』p11参照)。

 この性質が、霊魂の霊魂分割につながり、人の魂が他の物に乗る遷るということにもつながるのです。

 小石を踏むことで小石に魂が分割されることになるわけで、これを考えを踏まえて思うのですが、中西先生は言及していませんが最初の万葉歌の中の「親が子の頭をなでる」の内には接触による親の魂の分割、思いの心がいつまでも思い出の中に残る、ということのように思います。

 他人には一切入り込めないという<私>との関係における哲学的問題がありますが、「こころは他者とともにあるような存在者に対してのみ存在する」のごとく、親の心は歌の作者である子<私>の中にある、他者(親)から遷りある他者(親)の感覚的思い出であり親の魂の分割であるのではないでしょうか。

 再度書き出しますと

 父母が
 頭かき撫で
 幸(さ)くあれて
 いひし言葉(けとば)ぜ
 忘れかねつる

訳(『私のお万葉集 五 』大岡信著 講談社現代新書p169から)

 お父さんお母さんがおれの頭を撫でまわし、達者でな、と言った言葉が、忘れられない。

この訳にもある「忘れない」の<私>の魂の訴えは、他者の魂に対する態度は「こころは他者とともにあるような存在者に対してのみ存在するという態度そのものと書くことができるのではないでしょうか。

 表現を変えれば、私の魂の鎮魂であるとともに、遠にある父母の魂の鎮魂、父母の魂においては繋がり、返して<私>においては触れの感覚的な繋がりが今の心境の鎮魂になるのではないでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

8月6日の東北日本の被災地で行われた「祭り」が中継で放送されました。NHKスペシャル「東北夏祭り〜鎮魂と絆〜」という番組です。

 まさに、「鎮魂と絆」という内容の放送でした。

サイト解説では、

 ねぶたや七夕祭りなど、華やかで情熱的なことで有名な東北の夏祭り。しかし東日本大震災によって多くの町が被災し、数百年続いてきた夏祭りが開催できないという地域も現れている。

そんな中、「震災で亡くなった家族や友人の霊を弔いたい」「祭りを通してもう一度地域の絆を取り戻したい」と、あえて開催に踏み切った地域も多い。

岩手・陸前高田市もその一つ。ここでは伝統の「うごく七夕祭り」が行われてきた。当初「こんな時に祭りなんて」という声もあったが、こんな時だからこそ祭りが必要だと開催が決定した。しかし住民の多くが被災し、山車の引き手がいない。山車を引く場所さえもない。メンバーは津波で傷ついた山車や太鼓を修復し、散り散りになった住民に参加を呼び掛けている。

番組では、岩手・陸前高田市の「うごく七夕」開催までの日々に密着するとともに、宮城・石巻市の「川開き祭り」、福島・相馬市、南相馬市の「相馬野馬追」、青森・八戸市の「三社大祭」など被災地の夏祭りを取材。人々はどんな思いで夏祭りに臨もうとしているのか。そして夏祭りに何を託そうとしているのか。仙台市の七夕祭り会場から生中継でお伝えする。

<以上>

 今回の仙台七夕は特別な意味が込められ今年のテーマは「復興と鎮魂」と名称で、七夕飾りの一枚の短冊には「祈 鎮魂」と記されていました。

 お盆でもあるこの時期、お盆は日本人にとってどのような存在なのか、今朝引用している『本質と諸相』から次の文章を紹介します。

<引用>

 どこの盆にも、前年の盆以後に死んだ、いわゆる新仏は特別の取扱いを受けている。門口や、附近の山上に火を焚いて祖霊を呼び迎える時にも、新仏のためには例外なく、とくに大型の火を起す。また門口に竹や棒を立てて燈寵をつるし、新盆の標識とすることも随所に行われている。

また盆踊りの時にも、新仏だけは位牌を駒場に並べてとくにこの夏の夜の歓楽を満喫させる。そして、こうした特別扱いは第二回目の盆からは全然行わず、仏壇や寺院において、祖霊一般を対象とする行事がそのまま新しい死霊にも献ぜられることとなるのである。

・・・・・略・・・・・

・・・・・日本古代の観念にしたがえば、二種の対立する社会生活が考えられていることとなる。地上における現世の社会生活と、天上における来世の社会生活と。霊魂はこの両者の、内において生成発育し、上へ上へと登ろうとし、天上の霊がさらに発展すると満ち溢れ、片一片地上に降下し、新しい肉体に宿り、地上の社会生活を再開する。

だから、霊魂が完全な個的存在として取扱われるのは一つの社会を去って他の社会に移る過渡の時期だけである。すなあち誕生と死亡の時だけなのである。・・・・

<以上上記書p34から>

 上記に「門口に竹や棒を立てて燈寵をつるし、新盆の標識とする」という民俗的な伝統があります。

 番組では陸前高田市高田町の動く七夕祭りが紹介されました。


(大震災前の祭風景)


(大震災前の祭風景)


お盆に戻ってくるといわれる祖先の例を迎えるための標識である山車が曳航されていきます。


(今年の祭風景)


(今年の祭風景)

 そういう祭りで、夜間いは提灯の明りが灯りとてもきれいなものでした。


(今年の祭風景)

 番組では、津波に流されずに残った山車を、また残害の中に残された友が打ち鳴らしていた大太鼓を、みつめながら生きて今ある人々が協力してこの動く七夕祭りをする姿が映しだされていました。


(今年の祭風景)

 海に向かっての「黙とう」です。

 沖のかなたにある魂に呼びかけます。

 もうすぐお盆です。
 この高田へ、この明りをもとに帰って来てください。



 みなさん 
 見えていますか。
 見えてますよね。
 聞こえてますか。
 この高田の太鼓が、囃子が・・・・・

魂があるのか無いのか、そんな次元の話ではありません。

 番組ではこんな場面がありました。津波で亡くなったおじいさんお位牌をもって一人のおばあさんが山車を訪ねます。

 今日持ってきた(位牌)のは、七夕を見せに連れてきた。
 引っ張って歩いていたの91歳になって。
 よく見ろしゃ!・・・きれいだね。

 ここにはお位牌にある(存在する)魂との会話がありました。改宗の名のもとこのようなお位牌を焼却するという宗教団体がありますが、・・・・何と愚かな話でしょう。

 魂に対する態度、民俗的な継承の中に鎮魂の姿と復興に再起する姿が映し出されていました。

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