思考の部屋

日々、思考の世界を追求して思うところを綴る小部屋

リスク社会化と個人化・レアアース・原子力開発

2010年11月13日 | つれづれ記

 家電メーカーで、電気自動車の販売がなされるような時代が間もなくくるようです。化石燃料の消費がもたらす、地球温暖化の問題が、日常の生活になくてはならない車を電気自動車化に走らせました。地球温暖化は燃焼という現象から発生する二酸化炭素が影響するというのが、大方の意見でそれを信じるならば、異常気象がもたらす災害を考えると、化石燃料から電気へという一連の流れは是認されていいものと思われます。

 リスクをなるべく下げるそれは人類が生き残るための一つの道筋でもあると思います。すなわちリスクセンスを如何に持ち合わせているかが、人類という広い意味だけではなく、個人のレベルでも当然自覚すべきことでことです。そのような考え方が近年叫ばれてきています。

 アメリカのジョン・F・ロスは『リスクセンス』(集英社新書)で身の回りの危険にどう対処するかということについて書いています。

>現代人の生活は様々なリスクと隣り合わせだ。環境汚染、事故、病気や災害はもちろん、ごく日常的な行動にも、常に何らかのリスクがついてまわる。社会が複雑化する今日、リスクの昨日も複雑化し、それに対応する必要性も増してきている。しかし、その一方で、現実には身の回りのリスクに関して驚くほど無意識に行動したり、誤った判断をしている人が多い、本当はリスクというレンズを通して見ると、常にリスク判断にさらされている自分に気づき、自らの日常が変わって見えてくる。<

と本の紹介の中に述べられています。実に端的な、そのリスクの具体的なものが分からなくとも、経験的な知識によって推測はできるものと思います。最近朝日新聞に社会学者ベック氏来日の記事が掲載されていました。

 「リスク社会」などのユニークな分析概念を提示したことで知られるドイツの社会学者ウルリッツヒ・ベック(66歳)で、リスク問題は、1986年のチェルノブイリ原発事故を機に、産業化が「成功」した結果として、原発事故に象徴されるような、予測することも保障することも不可能な世界的なリスクが登場してきた、とするのがその主張の当初であったようです。

 しかし常に流動する社会において、今現在の注目すべきリスクは何かとの問いに対して、ベック氏は、

 環境問題・経済変動・テロの三種

だと記者の質問に答えたそうです。文化欄の記事(2010.11.12付朝日新聞23面)で塩倉裕さんという記者が書かれた文章ですが、ベック氏の言葉として、続いて次のように書いています。

>「世界的リスクはチャンスにも遭を開く。防止のため『国境を越え』動き始めた人々がすでに存在するだろう」とも。

 ただし氏が今回自ら力説したのは、リスク社会論ではなく「個人化」だった。男女平等化などが進んだ結果、家族や階級といった「集合的カテゴリー」から個人が解放されると同時に、個々人が裸の個人として自らの人生を運営するよう迫られもする。近代後期の、そんな新現象だ。
 
 「たとえば日本では企業が個人に保障を与えてきた。個人化とはそうした保障の外へ出て自由になることだが、新たな不安定も発生する」 個人化という概念自体は、西ドイツ(当時)の観察を磨まえて『危険社会』ですでに提起されていた。だがいま日本で聞くと、言説に、より切迫性が宿るように響く。
 
 「昔、(近代の核)家族は、寒い資本主義社会での心のよりどころだった。だが個人化により、家族はリスクの場に変わりつつある」
 
 失業や雇用の臨時化が個人に直撲打撃を与え、女性が家庭にいるという核家族の前提も崩れる中で、「対策」が個々人に強いられる。今世紀初頭以来、そうした傾向が多くの国々で認識されているというのが氏の見立てだった。
 
 「リスク社会化と個人化が同時に起きていることに着目してほしい。グローバル化のもとで、保護されることなく責任の持ちようもない状況が、広がっているのだ」<

という主張には非常に参考になる時代認識があると思います。

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 今朝の話はこれで終わりません。リスクの話で今注目されている問題にレアアースの問題があります。レアアースと言うと中国がすぐに思い浮かびます。97%のシェアをもっていた中国が急に輸出制限をすることを言明したからです。

 レアアースはご承知のとおり、今では電気自動車・パソコン・携帯電話・風力発電等大型の危機から家庭の電化製品まで使われていない製品がないと言うほど広く使用されている化学物質です。

 上記の朝日新聞見た前の日(10日)のNHK総合のクローズアップ現代で「放射性物質“トリウム”最前線」という番組が放送されました。

 ここにもリスクという言葉が登場します。レアアースという物質の入った鉱石にはトリウムという放射線を出す危険な物質も含まれていて、その物質を安い人件費と公害問題を先送りにする中国は経済発展を第一に考え推し進めた結果ようやくそのリスクに気がついたようです。

 リスクを承知していないわけはないのですが、唯物史観のなせる業でようやく尖閣列島の問題と時を同じくして浮上してきたようです。NHKのこの番組ではそのような話は出てきませんが、私の個人的な考えです。

 番組では、レアアースの獲得の舞台裏の話が語られ、このレアアースは全世界で産出されること、しかし他の国はコストを考えると中国には勝てないためその生産を抑えています。何と言っても問題なのは「トリウム」、この物質は他の放射性物質で原子力発電の燃料に使用されるウランやプルトニウムと同じようにその燃料として使用できるものなのかそれとも厄介な危険な化学物質として厳重な管理のもとに保管処分されるものなのかが今現在の世界の注目するところなのだそうです。

 今現在は、ウランにこのトリウムを加えて核燃料とする方法とプロトニウムに加える原子力発電の研究が盛んに行われていて、番組では、欧米を中心に進められているウランに加えて原子力発電所の燃料として使う動きが加速している状況が放送されていました。

                     

 実用化はできないことはないという科学者の弁ですし、レアアースの生産業者は大いに注目しています。

 ガイガーカウンターと言ったと思いますが、鉱山の山に入ると鳴りはじめ、鉱石に近づけると当然音は高まります。

                    

人体には影響のない量なのだそうですが、レアアースが抽出された後に残されるトリウムを含んだ物質の集積されたものの危険度は計り知れないものがあるようです。

 ですからそのトリウムの原子力発電への利用を盛んに進めているのですが、結局は最終的には危険な放射線を出す物質は残り続けます。自然界の中で存在すれば何らリスクが発生することはないものが、利便性という名のもとに限りなき欲の世界が重なりさらなるリスクを重ねているようです。

 ベック氏は、

>「リスク社会化と個人化が同時に起きていることに着目してほしい。グローバル化のもとで、保護されることなく責任の持ちようもない状況が、広がっているのだ」<

と言って入る意味が非常によくわかりました。

(写真は文中にもありますが、クローズアップ現代で「放射性物質“トリウム”最前線」から使用させてもらいました。とても分かりやすい番組でした)

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