思考の部屋

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トマス・モアと老子のユートピア

2010年01月10日 | 東洋思想

        (トマス・モア 世界の名著17 中央公論社から) 

 トマス・モアの『ユートピア』の第二巻「一ユートピア島の地勢について」は、次の文からはじまります。(上記『世界の名著』トマス・モアから)

 ユートピア人の島はその中央部〔一番幅の広いところ〕で二百マイルにわたり、島の大部分を通じてこれよりもずっと狭くなることはありませんが、両端は、長さ五百マイルにわたる円を描いたようになっており、この島全体を新月のような形にしています。・・・・

ではじまります。自然の地形による外敵からの防備などを語った後、ユートピア島の起源について、

ところで、この島の平定者で島名の起原となったユートプス〔それまで島はアプラクサと呼ばれていたのです〕というひとがいました。このひとは、荒っぽく粗野だった民衆を教養と人間的洗練という点で今日ほかのほとんどすべての人間に勝るというところまでに導いたひとですが、上陸するやいなやたちまち島を平定し、それと同時に、大陸とつながっていた半島部分の十五マイル掘り起こさせ、海が島を囲むようにしてしまったのです。・・・・

と語りながら、ユートピア島について語ってゆきます。
 ユートピア、理想郷、桃源郷とも呼ばれる夢みる平和な世界です。

 多分こころ描くことがない人はいないと思います。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

老子の第80章は、次のように書かれています。

小国寡民。使有什佰之器而不用、使う民重い死而不遠征。雖有舟輿、無所乗之、雖有甲兵、無所陳之。使人復結縄而用之。
甘其食、美其服、安其居、楽其俗。隣国相望、鶏犬之聲相聞、民至老死、不相往来。

という漢文、これを一般的な解説書を次のとおりに読み解きます。
 
 国は小さくし、住民は少なくする。人力の十倍百倍の機能を持つ道具があっても用いないようにさせ、住民には生命を大切にさせ、移住しないようにさせる。船や車があっても乗ることはなく、甲や武器があってもつらねて使うことはない。住民には、むかしのように縄を結んで記号として使わせる。
 自分たちの食べ物をうまいとし、自分たちの衣服をいいものとし、自分たちの住居に安んじ、自分たちの習俗を楽しいとする。隣国が見えるところにあり、鶏や犬の鳴き声が聞えてきても、住民は老いて死ぬまで、お互いに行き来することがない。(『老子』蜂屋邦夫訳 岩波文庫)

小さくて人口の少ない国がある。
数多くの道具があったとしても、誰もそれを使わない。
人々は生命を大事にし、誰も遠くに移住することを望まない。
船や車は役に立つが、誰れもそれらに乗らない。
すばらしい武器を所有していても、誰れもそれを使わない。
人々にもう一度、縄を結んで約束のしるしとしたような時代に戻らせ、
すばらしいごちそうで楽しませ、立派な服装を着させる。
自分の住居でおちつかせ、慣習を楽しませる。
隣の国はすぐ見えるところにあり、鶏の鳴き声や犬の吠えるのが聞えるけれども、人々は互いに往き来することもなく、その人生を送るのである。
(『老子の思想』張鍾元著 上野浩道訳 講談社学術文庫-理想の社会-)

 小さな国で人民も少ないところ、いろいろたくさんの便利な道具はあってもそれを使わないようにさせ、人民が自分の命をたいせつにして、遠方の土地に移動することのないようにさせたなら、船や車があったところでそれに乗るときがなく、よろいや武器があったところでそれを見せびらかすときがなかろう。
 人びとがむかしにかえってまた縄を結んでそれを文字の代わりにし、自分の食べものをうまいと思い、自分の着物をりっぱだと思い、自分の住まいに落ちついて、自分の慣習を楽しむようにさせたなら、隣の国は向こうに見えていて、その鶏や犬のなき声も聞こえてくるような、状況でありながら、人民は老いて死ぬまでたがいに行来(ゆきき)することもないであろう。(『老子』金谷治著 講談社学術文庫-小国寡民・ユートピア-)

それぞれの先生の持味が出ています。
 これが伊那谷の老子加島祥造先生ですと次のように表現されています

私は国境のない世界を願っているが
まだ無理なようだから、まあ
自分の理想とする国を、描いてみよう。
私の大切にしたいのは
大きな国でも強い国でもないよ。
ほんの小さな、まあ
村落の集まりのようなものだ。
人口もごく少ない。
住民たちは、
いろいろの道具を持ってはいるが
ろくに使おうとしない。みんな
命をとても大事にするから
危険な旅なんかに出ない。
船や車は持っているんだが、ほとんど
乗らないってわけだ。同じように
武器もちっとは備えているけれども
誰も使わないし
商取引をするには、ただ
ごく単純な数え方ですます。

それでいて
食事はゆったりと、おいしい物を食べ
着るものは美しい上等な服、
日々は安楽であり、
習慣を乱そうともしない。
隣りの国は近くて、
犬の吠える声や鶏の鳴く声が聞こえるほどだが、
そんな隣国とも往来しない、
そして、ずいぶん歳をとってから
静かに死んでゆく。(『タオ・老子』加島祥造著 筑摩書房-理想の国-)

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 トマス・モアはきっと老子を読んだのかもしれません。

 トマス・モアも老子も、隣国との往来をしない小さな国、島国を前提にユートピアは語られています。そう言えば日本は島国でした。
 
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