詩人 自由エッセー

月1回原則として第3土曜日に、隔月で二人の詩人に各6回、全12回の年間連載です。

第8回 ほそいひかりの三々五々(第4回) 夏野 雨

2017-11-06 14:28:58 | 日記


 秋。さまざまなものが実る。そのなかでも稲穂の特別感は半端ではない。思えば5、6月に植えて、9月か10月には刈り取られてしまうわけだけれど、その間、5ヶ月(苗床期間を入れたら約6ヶ月)でこれほどの・・・パワー、有無を言わさぬ力、圧倒的黄金感を示すとは、他のどんな農作物の追随をも許さない。そういえば映画「となりのトトロ」にも、稲田が出てくる。水が張られたばかりの稲田を引越しトラックがゆく場面からはじまって、田植えがあり、物語が進むに従って稲の背がだんだん高くなっていく。その高さを見れば、いっしゅんで、時間の経過がわかるようになっている。計算されつくしている。その計算と、トトロや猫バスの圧倒的パワー、有無を言わさぬ魅力があいまって、見ているこちらも気がつけばさつきやメイと一緒に空を飛んでいる。夏の映画である。お米は夏に育つのだ。逆に言えば、夏にしか育たない。稲穂の、あのまるみ、風に揺れる夥しい量の籾を見たとき、ああ、夏だった、と思う。夏が過ぎてしまった。その俯瞰。実りのなかに、過ぎた夏があって、だからあんなにも、稲穂はまぶしいのかもしれない。


一粒を噛み砕きてはあらわるる夏を燃やして我は生きたり



 葡萄のような実をよく見かける。ちいさいとき、やまぶどう、呼んでいたが、それは間違いで、正しくは洋種山牛蒡というらしい。ヨウシュヤマゴボウ。毒がある。つぶすと紫色の汁が出る。どこにでも生える。なんだか恐ろしいようなのに、身近にあり、気になる。よく遊んだ気もするし、毒がある、と教わったのを憶えていて、たまに手にとって、つぶして遊ぶ、ぐらいだったかもしれない。


笹の葉のあおきうつわに盛り付けた山のいきもの里のいきもの



秋のはじめ。別府へ。



 詩の会のため、別府へ行く。別府は非常におもしろい町で、そのおもしろさについては一言で語ることはできない。ただいえるのは、訪れるたび印象が違う。ということ。古い建物が多く残っている。どの道筋、どの人を訪ねるかによって、町の顔がガラっと変わる。別府在住の人が言うには、温泉があるから戦火を免れたのであろう、とのこと。入り組んでいるのだ。商店街も長く、とても活気があった。そしてなにかユッタリしている。なぜだろう。温泉、市場、山の上の遊園地、ケーブルカー、長い長い商店街、そして若者が多い。観光地でもあり、移住者が住みやすいのかもしれない。詩も盛り上がっているし、またぜひ行ってみたい町である。



板塀の隙間から出た三毛猫にお湯の在り処を教えてもらった



不老泉二階の集会室沸いて詩は溢れたり生のみぎわに



串刺しの熱を宿したそれぞれに火があり掬うチーズ・フォンデュを



 よく通る道に、誰にも実を取られない柿の木がある。小川の土手とだれかの私有地のあいだ、じつに微妙なところにある。周辺の建物の2階部分をゆうに越える、大きな木である。柿が実り、だれもとりにこない。たぶん鳥はじゅうぶん食べにきている(はずである)が、それにしても鈴なりになっている。摘果もされてないのだろう。みるたび、もったいないような気もしていたが、さいきんはなんだかたのもしく、とられないぐらいなんだ、という気持ちになっている。柿の実はすこしさみしく、日本的で、夕日に似ている。


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