世界の詩最新事情

毎月1回原則として第3土曜日に世界の最新の詩を紹介いたします。アジア、ラテンアメリカ、中国語圏、欧米の4つに分け紹介。

第6回 ジェイク・アダム・ヨーク(Jake Adam York)―アメリカ合衆国― 佐峰 存

2017-09-13 14:49:01 | 日記
 ジェイク・アダム・ヨーク(Jake Adam York)は先見の明がある詩人だった。今、米国南部は再び燃えている。詩人のサンドラ・ビーズリー(Sandra Beasley)のインタビュー記事で、その名前に行き当たって以来、ヨークの作品を通じ、詩のあり方につき多くを感じ、多くを学んだ。
 ヨークは1972年にフロリダ州で製鉄工の父親と教師の母親の間に生まれた。その後、アラバマ州に引っ越し、大学卒業まで同州内で過ごした。修士号と博士号をニューヨーク州のコーネル大学で取得し、コロラド大学で教鞭を執った。2012年に脳卒中により40歳の若さで他界した。自身のウェブサイトや数多くのSNS媒体で近況や自身の撮影した写真を発信しており、今も詩作品と共に彼が目にした光景を訪れることが出来る。
 アラバマで育った彼は南部の土地に根差した詩を書いた。自身と自身の育った地は切り離すことが出来ない。そのような“文脈”の尊重が彼の言葉の根底にある。アラバマ州やミシシッピ州をはじめとする南部は周知の通り、1960年代に多くの痛ましい人種抑圧の事件が相次ぎ、公民権運動の中心となった土地だ。ヨークはその時代には勿論まだ生まれていなかったが、その後のアラバマに育った者として、土地の史実を引き継いだ。彼の多くの詩作品は公民権運動やそれに繋がる事件を描いている。
 まずはヨークの言葉の特徴を見てみたい。彼の代表作の一つである「The Second Person」はミシシッピ州のナチェズ市(Natschez)について書かれた詩だ。ナチェズ市は公民権運動の時代に白人至上主義団体が拠点を置き人々を抑圧した土地で、ヨークはその史実を直視しようとする。

Then afternoon is a conspiracy of color,
        an echo the heat or the history

in our voices draws us into—
        someone else’s version of ourselves—

and the inevitable, painful quiet
        in which an answer must arrive.

What can you say? And how long do you have to wait
        before you can leave, before you can walk

out of yourself and down the cotton-trading streets
        into the smother of trees

on some more recent lane? ...

(“The Second Person”, Persons Unknown, 2010, Southern Illinois University Press)


それならば 午後は色彩の謀略だ
        それは木霊 熱か史実か

私たちの声に引き込まれて—
        誰かが空想した私たちの姿—

そして避けられない、痛い静けさ
        答えを待ち受けながら。

どうしろというのだい。そしていつまで待てばよいのか
        あなたが去れる前に、あなたが歩き出る

前に あなた自身から そして綿取引の通りから
        木々の霧の中へ

近頃出来た通りの上の…


(同上、引用者訳)



 ヨークは言葉のリズムを重要視し、この作品にも独特の詩形を与えている。それぞれの連が二行で纏められ、二行目が一行目の途中の位置から始まる。二行目の言葉は一行目の言葉を受け止め、囁くように後を追う。語り手は自身の言葉を省みながら、新しい言葉を発している。この詩形からは語り手の生々しい呼吸が直接的に伝わってくる。
 ヨークははっきりとした言葉を使う。「答えを待ち受けながら(in which an answer must arrive)」の表現からも分かる通り、この作品の語り手が志しているのは明瞭さで、“問い”ではなく“答え”だ。何かに答えを出そうとする姿勢は、多くの場合、詩の可能性を狭めてしまうものではあるが、ヨークの詩においては寧ろこちらの姿勢が作品に力を与えている。米国南部の土地と向き合うとき、既に余りある問いが彼の目の前に広がっているのだ。彼が自身に課した役割は、詩の力を借りながら、その問いを少しでも解いていくことだった。平易な言葉に交じり時折「色彩の謀略(conspiracy of color)」のような非常に強い表現も登場する。語り手は警鐘を鳴らす。「誰かが空想した私たちの姿 (someone else's version of ourselves)」に引き込まれてはならないと。ヨークは公民権運動を人種の抑圧からの解放であると同時に、私達一人ひとりの個人が個人として立ち上がるための運動としても位置付けている。「綿取引の通り(cotton-trading streets)」は私達全員を抑え付けてきたのだ。
 同じく公民権運動の場となったミシシッピ州のジャクソン市(愛称はCity of Grace)を題材とした詩作品もヨークならではの言葉に満ちている。

There is nowhere else to stand.
A city is a kind of memory,
and if you stay too long
the shape of someone else
will hold you there
until day repeats its failure
and the streetlights wake
and yawn all color from the dusk
and the house becomes a photograph
of itself and the small wings
unfold from the fabric of night …

(“City of Grace”, Persons Unknown, 2010, Southern Illinois University Press)


他に立ち続けるところはない。
街は記憶のようなもの
長く居続けると
別の誰かの形状が
あなたをそこに留めるのだ、
また失敗が繰り返され
通りの明かりが目を覚まし
夕暮れに全ての色を欠伸して
家はそれ自体の写真
となり小さな翼が
夜の繊維からひろげられる …

(同上、引用者訳)



 「街は記憶のようなもの(A city is a kind of memory)」という表現は抽象的でありつつも、同時に具体的でもある。神経細胞の配列のように街の建築は記憶を史実の場に留める。そのようなイメージが浮かんでくる。ヨークの言葉は“精密”で、相反するものを共存させる力を持っている。前出の作品と同様に、この作品でも“他者”によって飲み込まれる“自身”が現れる。同時に視覚的な情景が豊かに描かれる。「小さな翼が/夜の繊維からひろげられる(the small wings/unfold from the fabric of night)」、美しい姿を持つ街が抱える重たい過去。精緻に描写されたものは大概美しい。街もそうだし一人ひとりの人間もそうだ。個人を一括りにする人種の思想はそのような視点から人の心を遠ざけてしまう。
 ヨークは公民権運動家である以前に詩人だ。彼にとって詩とは精確に人々やその文脈を照らし出す手段であったと言えるだろう。詩が到達出来る精確性。読み手の意識の奥底の、新聞記事などの規則正しい文章で触れることの出来ない窪みに光と影を届けること。その手段を以て彼は自身の土地と向き合った。詩を書く行為を通じ、直接“文脈の肌”に触れる。そこから導き出される解放への欲求について、極めて自覚的な作品を書いた詩人として、ヨークの名を記憶しておきたい。

… City of Ghosts,
you can’t abandon your history,
and it won’t abandon you.
You watch each other,
you call each other’s names.
The sidewalks, the driveways
gleam like quarried moon,
and each open hand repeats
the ambient light as the crickets
fill with heat and raise again
the street's last breath:
Turn me loose.

(“City of Grace”, Persons Unknown, 2010, Southern Illinois University Press)


…死者の街よ
史実は置き去りに出来ず
それはあなたを離さない。
互いに見合いながら
互いに名前を呼びあう。
舗道、ドライブウェイが
掘り起こされた月のように浮き上がり
それぞれの開かれた手が繰り返す
周辺の光 コオロギが
熱と共に満たし 通りの
最後の呼吸を放つのだ、
私の縛りを解け。

(同上、引用者訳)

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