世界の詩最新事情

毎月1回原則として第3土曜日に世界の最新の詩を紹介いたします。アジア、ラテンアメリカ、中国語圏、欧米の4つに分け紹介。

第9回 エルビラ・クジョビック(ELVIRA KUJOVIĆ)―シリア・アラブ共和国― 森井 香衣

2017-12-05 01:18:21 | 日記
セルビア、ノビ・パザール生れ。現在ドイツ在住。詩集『私の胸から詩が叫びだす』2016年ベルリン刊、『愛と懼れ』ベオグラード、セルビア刊。


慟哭のシリア
         エルビラ・クジョビック
     

もしも、私が鷲であったら
広く、広がる翼で
自分をそこに運ぶだろう
誰もが行きたくない、そこは、
夕暮のような朝の暗闇
人間が人間を、人を殺戮するところ!
河のように涙が流れ
血は、より鮮やかに紅い。
父に向かって子が泣き叫び
息子に向かって母が泣き叫ぶ
賢者は真実に向かって叫び
誰も平和に、あるいは、気持ちよく
その地を去ることはない
ダマスカスの薔薇は、もう、匂わない。
恋人たちは、愛のため息をつくこともない。
ひっそりと
破壊されたバブ・ツマの門*
かつて、人々が出会い、
愛し合ったのに
もう、誰もいない、人の気配さえも…
人々は消え
全て去ってしまったのだ
どこでも誰にも会うことはない
祈りの場のモスクでも
教会でも。
そこは、人間が尊厳をもって歩むところで
誰かを傷つけるところではない。
土のなかに埋まった
きれいな灰色の目。
でも、私は、
空っぽの街の通りを
行きたくはない。
愛の歌を唄いながら、
祈りながら、歩きたい。
どうか、互いに殺し合わないでください。
もう、これ以上、私たちを殺さないでください。
家にこどもを帰してください。
あなたがいないので
母の心は
すでに死んでいます。

薔薇には、
必ず棘があることを
あなたは知っておくべきだった。
自分の家の玄関で
あなたは愛する手を握って
死ぬほうが良かった
異国の地で
死んでしまうよりは。
シリアが泣き叫び、ずたずたになっている
どうか、家に戻してください。
子どもがいないのは、
とても辛い。

        * シリアの首都ダマスカスにある古代の街の門。初期キリスト教の地理的版図を示すもので、⒓使徒の聖トーマスに由来する。
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