世界の詩最新事情

毎月1回原則として第3土曜日に世界の最新の詩を紹介いたします。アジア、ラテンアメリカ、中国語圏、欧米の4つに分け紹介。

第8回 海子(ハイツウ/Hai Zi) ―中国― 竹内 新編訳

2017-11-04 00:35:23 | 日記
海子(ハイツウ/Hai Zi)  本名査海生。1964年安徽省懐寧県高河査湾に生まれ、農村で成長。1979年の入試で北京大学法律系に合格し、1983年卒業後、北京の中国法政大学哲学教研室に配属されて勤務するが、1989年3月26日、河北省の山海関付近で鉄道自殺。海子は、7年に満たない時間のうちに、大量の文学作品を創作した。彼は言う。「僕の詩歌の理想は、中国において、偉大な、集団の詩を完成させることだ。僕は抒情詩人になろうとは思わない。詩劇詩人になろうとは思わない。ましてや叙事詩人になろうとは思わない。僕はただ、中国の行動を融合して、民族と人類が結合しポエジーと真理が一体化した、長大な詩を完成させたい。」
(『海子詩全集』の紹介文を引用。海子は二度の飛び級をしている。)

海子詩3篇

アジアの銅

アジアの銅 アジアの銅
祖父はここで死に 父はここで死に 僕もここで死ぬだろう
おまえは人を埋葬するたった一つの場所だ

アジアの銅 アジアの銅
懐疑を愛しそして飛翔を愛するのは鳥 一切を水浸しにするのは海
おまえの主は何と緑の草だ 自身の細身の腰に住んで野の花の掌と秘密を守りきる

アジアの銅 アジアの銅
見たかいあの二羽の白鳩を?あれは屈原が砂州に落としていった靴だよ
僕らを――僕らを川といっしょにして それを履かせてくれ

アジアの銅 アジアの銅
太鼓を叩いたあと 僕らは暗闇に舞う心臓を月と呼ぶことにする
その月はおもにおまえによって構成されているのだよ



アルルの太陽(注⓵)--僕の痩せの兄さんへ
         「私が自然に向き合って創作するところの一切は、栗だ。火の中から取り
         出したものだ。ああ、太陽を信頼しない人は神に背いている人だ」(注⓶)
南へ行った
南へ行った
あなたの血のなかに恋人と春はなかった
月はなく
パンさえ充分ではなかった
友だちはもっと少なく
苦しむ子供の群だけが 一切をそのままに呑み込んだ
痩せの兄さんヴァン・ゴッホ ヴァン・ゴッホよ
地中から力強く噴出した
火山さながらにその後の事は計算しなかった
それは糸杉と麦畑だったか
それともあなた自身だったか
残された命の時間を迸らせた
あなたの眼は本当は世界を明るく照らすことができたのだ
だがあなたは第三の眼も使おうとした アルルの太陽は
星空を燃やして荒々しい川にした
土地を燃やしてぐるぐる回した
黄色の痙攣する手を 向日葵を高々と差し上げた
火の中から栗を取り出す全ての人を招請して
もうキリストのオリーブ園を描かないよう求め
描くならオリーブの収穫を描くよう求めた
狂暴な火の群が
空のお天道様に代わって
命を浄化するよう求めた
赤毛の兄さん アブサンを飲み干したら
すぐさまこの火を
燃やし始めましょう
                 1984年4月

注⓵ アルルはフランス南部の小都市である。ヴァン・ゴッホはこの地で70~80作品を創作し、それは彼の黄金期であった。
   ――海子自注。
注⓶ 引用文は、ヴァン・ゴッホが弟テオに寄せた手紙から。



麦畑

麦を食べて育つ者は
月の下でどんぶりを手にのせている
どんぶりのなかの月と
麦から
声はいつまでも生まれない

僕はおまえたち二人と同じではない
詩歌で麦畑を讃えるなら
僕は月を讃えたい

月の下
夜通し麦をまく父は
身に黄金が流れているようだ

月の下
十二羽の鳥が
麦畑を渡ってゆく
あるものは麦粒を一粒くわえ上げ
あるものは風を受けて舞い上がり 頑としてそれを認めない

麦の世話をするとき僕は畑で眠り
月は井戸を照らすように僕を照らす
故郷の風は
故郷の雲は
翼を集め収めて
僕の肩で眠る

風に揺れる麦穂の波―――
それは天上のテーブルが
田野の麦畑に
並べられたのだ

刈り入れの季節
麦穂の波と月の光が
切れ味鋭い鎌を洗っている

月は知っている 時に僕が
泥よりもひどく疲れてくると
恥じらう恋人が麦わらを
目の前で揺らしているのを
知っている

僕たちは麦畑の意中の人
麦を収穫するその日 僕と仇敵は
握手して和解する
僕たちはいっしょに仕事を終えて
目を閉じる このとき 運命によって決まっている一切を
満ち足りた気持ちで受け入れる

妻や子供たちは感激して
白いエプロンで
しきりに手を拭う

ちょうどそのとき 月の光は大地に照り渡り
僕たちはそれぞれに ナイル川、バビロン川
もしくは黄河の子供を引き連れている 川の両岸で
峰の連なり漂う島々もしくは平原で
手を洗い
御飯の準備をする

僕に是非こんな風におまえたちをまとめて招き入れさせてくれ
僕にこんな風に言わせてくれ
月は一向に悲しんではいないよ
月の下には
合わせて二人
貧乏人と金持ち
ニューヨークとエルサレム
そして僕
僕たち三人は
いっしょに都市の外にある麦畑のことを夢に見る
ハコヤナギの木にしっかり囲まれた
健康な麦畑
健康な麦
僕の命を養う麦!
                       1985年6月
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