「詩客」自由詩エッセー

「私の好きな詩人」など詩人のエッセーを掲載します。

スカシカシパン草子 第16回 冬が来ること 最終回に寄せて 暁方ミセイ

2013-12-01 11:41:57 | 詩客

 季節のなかで、冬が一番嫌いだ。春と秋は過ごしやすくて何だか気分がいいし、夏の暑さはかなり鬱陶しいが、自分の誕生日と親しい友人知人の誕生日が集中しているから許せる。不思議だが、いままで自分にとって大切な人の多くはかに座かしし座かおとめ座で、初夏から晩夏生まれが極めて多いのだ。冬生まれにも好きな人はたくさんいるが、それを差し引いても冬は嫌だ。寒風と日照時間の短さなどひっくるめ、冬はあらかじめ殺意を持っている、というか殺意の塊。あれは殺意の権現で、弱い生き物を繁殖期の前に淘汰するために用意されているに違いない。わたしの肉体は丈夫すぎるほど丈夫だが、メンタルは情けないほど貧弱なので、冬の「起きたまま越冬できないやつは仮死状態にでもなりな!その能力もなければくたばりな」的な意地の悪さにあてられると、悔しいと思いつつもがっつり凹む。何をしていても凹んでいる。危うく淘汰されかける。とにかく冬は苦手である。
 それにも関わらず(このエッセイの趣旨は、わたしの好きなものを一回ごと語るということなのに)、なぜ冬がくることを、しかも最終回に語るかというと、身の回りに嫌なことがあればあるほど、好きなものは輝きを増し、特別に何かを語りかけてくると思うからだ。
 いま思えば、よく学校なんか行っていたと思う。とにかくクラスメートが怖くて、毎朝、今日も一日何事もないように、通学路の角々でお祈りをしていた。そういうジンクスを自分でつくってしまって、そうしなければとてもじゃないけど教室に入る勇気がでなかった。会社も、けして悪い環境ではなかったのに、今思い出すと身震いしてしまう。まるで演劇をしていたようだ。セリフを覚えきっていないのに本番を迎えてしまった演劇の舞台。
 しかしそんな時に出あったものが、いまの自分のほとんどすべてになっている。詩を書くことも、小説を読むことも、遠い土地や人に思いを馳せることも。
 冬が来る。すると、走ったときに、喉の奥で血の味がする。枝木と土が乾き、空気がいい匂いがする。動物の毛がふさふさになる。寒そうな色の風景を、暖かすぎてぼーっとする電車のなかから見る。いつも受験や、期末テストのことを思い出す。高校生の女の子がイヤホンを耳に入れたまま眠っている。僅かに音洩れしている。鼻が赤くて、少し泣いたらしい。わたしは携帯の履歴から、今日も怪談話を探して読む。本当は、できれば、幽霊が救われる話が読みたい。鉄塔が今日も、白っぽい空を押し上げるように、くっきりと尖った姿で地平線に留まっている。
 ストーブの出す音が好きだ。寒い日曜日の朝が好きだ。暗い気分のときに書きあがる一編の詩に救われてきた。たいてい未来は辛いことと良いことが半分くらいで、どうせこれからもそうに決まっていて、わたしには、まだまだ味わっていない苦しみも、喜びも、無限にある。ずっと先まで。
冬が来る。

 スカシカシパン草子はこれにて連載終了です。気まぐれでくだらない、しかし純粋な楽しみと愛情で書いていたこのエッセイに、一年と四ヶ月もの間お付き合いいただき、どうもありがとうございました。みなさまの冬が、すばらしいものになりますように。

暁方ミセイ

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