「詩客」自由詩時評

隔週で自由詩の時評を掲載します。

自由詩時評第206回 「赤いものはどこにある?」 瀬崎 祐 

2017年02月06日 | 詩客
 「現代詩手帖」の1月号の特集は「現代日本詩集2017」だった。55人の作品が載っているが、その中から小池昌代「赤」を読んでみる。

 連分けなしの70行の作品で、その冒頭は、

廃村へと至る小径に
ひとすじ
なすりつけられたように塗られた赤


 こうして、この作品は”赤いもの” にまつわりつきながら動いていく。話者は、「ブラマンクは/赤の画家だと」思っていて、その赤は土と血がまざりあった色だというのだ。”土”は生きていく場であり、”血”はその場で生きていく肉体の代名詞ということなのだろう。肉体があり、それが存在する場所が与えられることが、生きることの最低不可欠の条件ではある。だから、

思えば赤 赤だけに
引きずられて生きてきたのだ


ということになる。
 赤色の地は印度ベンガルであり、赤!と呼べばその名の犬が来る。そして、

あかだ・くつわ と書かれた看板の
津島のお菓子は怖いのである
食べているうちに食べられてしまって
誰もいなくなる午後四時半

 こうして赤いものをつぎつぎに検証していく。
 このような作品のひろがり方をみていると、作品の材料になるものは作者の持ち物を越えることはないのだということをあらためて思わされる。すべての作品世界の広がりは、作者が手を広げることのできる範囲でしかない。当然のことではあるが、知らないものは描きようがない。だから、その範囲の中で作品としてどのようなものを構築できるかということになる

 それはさておき。求める”赤いもの”はどこにあるのかと思ってしまう。母の家は赤く塗られた被災予測図の中にあり、赤い袋に銭はたまらない。ついには赤壁の町に逃げていくのだ。
 作者がベンガラ格子の町並みで有名な岡山・吹屋で実際に暮らしたことがあるのか否かはどうでもよいことであるが、その町の小学校で話者(あくまでも作品の話者である)はいじめられたりもしている。そこでは”さるぼぼ”という赤い人形が吊り下げられていた。

すべてを見た その後に
押し黙って過ぎた年月がある
年月がああして赤になるまで
目も口も鼻も失ったんだ


 この”さるぼぼ”は猿の赤ん坊であり、目口鼻は描かれていない。悪霊祓いのために全身は赤い。
 作品の材料は作者の持ち物に拠っていることを上述した。赤いさるぼぼの人形は作者以前からあったわけだが、しかし作品としては、作者の持ち物になってからその赤い人形は存在しはじめる。
 引用部分のように、作者によって初めて過ぎた年月が形づくられる。そしてその年月によって初めて人形は赤くなり、初めて目口鼻も失われるのだ。このようにしてその人形は、作者によって作品に取りこまれた瞬間から初めて存在しはじめるわけだ。

まだ死なねえよ」と言いながら阪急デパートの地下で赤いお椀からの湯気を眺め、一番の悪党を祝うために赤飯も炊いている。作者の中に在るものが渦を巻いている。渦を巻きながら流れ出している。その流れはどこへ向かうのか、いや、その流れに意味はあるのだろうか。
 そしてついに最終部分、

してやったり 七里ヶ浜
じりじりと落ちる太陽
海もひとも赤くただれて
放置自転車が 長い影をひく
クラクションは鳴りっぱなしだ


探し求めて目の前の光景に戻ってきている。わたしはどこを彷徨ってきたのかと訝しくなっているに違いない。これは何のための彷徨いだったのかと訝しくなっているに違いない。
 求めていたもの、それは”赤いもの”だったのではなく、タイトル通りにこれらの赤いものが具有していた”赤”という、言葉では説明できない観念そのものだったのだろう。赤色が持つ禍々しさ、赤色が持つ不気味な生命力。そんなものと通じようという希求が作者にはあったのかもしれない。
 そう考えれば、この作品の彷徨いそのものがそんな”赤”だったかもしれないではないか。言葉では説明できないものだから、言葉を使うしかなかったのだなと思う。それが詩なのだと思う。
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