Sightsong

自縄自縛日記

『世界』の「韓国併合100年」特集

2010-01-02 00:54:02 | 韓国・朝鮮

『世界』2010年1月号(岩波書店)で、「韓国併合100年 現代への問い」と題した特集を組んでいる。言うまでもなく、今年は1910年の韓国併合から100年目にあたる。

重要な年ではあるが、ある週刊誌で韓国でのイベントを揶揄する記事が掲載されるなど、意識レベルは極めて低い。北朝鮮への感情的なバッシングや竹島問題ばかりに偏り、かつて北朝鮮を含む朝鮮を植民地として軍事支配したこと、南北分断の直接的な原因となった朝鮮戦争に基地貸しという加担を行った挙句に特需だけ享受したことなどに対する視線と比べると、アンバランスという他はないのではないか。

あまりにも非対称な意識のあり方、政治のあり方に関して、姜尚中は、和田春樹・藤原帰一との対談において、次のように発言している。

このような歴史をくぐり抜けてきた韓国・朝鮮人と、沖縄など一部を除いて、「平和憲法」と日米安保のもとで、「冷戦」というある種の「城内平和」の戦後史を歩んできた日本国民との間に、60年にわたり「隣人(となりびと)」としての同時代的な共通の体験が分かち持たれてきたか、甚だ疑問です。そのギャップが、植民地支配という過去の歴史をどうみるのかについて、双方に著しいすれ違いを生み出しているのではないでしょうか。

朝鮮で、沖縄で、中国で発生する裂け目を隠蔽し、すり替えているのは、日本という総体ということである(私が総体と言いたいのは、国家は単一の人格ではなく、政治、記憶、個人などさまざまなフェーズでの意識を孕むものであるから)。それにしても、「城内平和」という言葉にはハッとさせられる。

過去の<責任>にどう向き合うかについて、以前より、哲学者の高橋哲哉は、<応答>することを軸にその考えを提示している。ここでも、日本の保守政権は、被害者からの責任を問う声に応答することに失敗してしまったのだと評価している。そんな潮流の中での2010年は、あらためて重要だと発言している。興味深いのは、東アジア共同体構想についての指摘だ。この点では随分と理想主義的のようにも感じられるが(ただの経済共同体だという現実的な評価はない)、さて、新政権にどれほど期待できるだろうか。

東アジア共同体構想を自民党政権の首相が言い出せば、大東亜共栄権の再来かという反応を即座に呼び起こしたことでしょう。韓国も中国も前向きに受け止めているとするなら、新政権が「歴史を直視する」可能性に期待を持っているからではないか。
 戦後補償問題と東アジア共同体構想は隣り合う問題として考えるべきです。EU統合を可能にしたのは、さまざまな要素はあるにしても、その核心はやはり独仏の和解です。鳩山首相がそれを「原形」にするという以上、日本は少なくとも「過去の克服」に関してドイツと同じような姿勢を見せなければならないことになります。

さらには、尹健次は、日本が原因をつくった朝鮮分断のままでの日韓・日朝和解は現実的にあり得ないとしている。そして池明観(かつてのT・K生)は、金大中の太陽政策を高く評価している。北・南・日本という視線は同じものである。

●参照
高橋哲哉『戦後責任論』
尹健次『思想体験の交錯』
尹健次『思想体験の交錯』特集(2008年12月号)


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2 コメント

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Unknown (Bemsha)
2010-01-09 23:35:28
高橋哲哉氏も言及しているように,韓国併合100年のこの年に「国営放送」が『坂の上の雲』をドラマ化している状況は,あまりに意識レベルが低く,アンバランスさに目の眩む思いがします。(ドラマ化には高度な政治的意図があるのでしょうが,そのことさえ国民は意識していないでしょう。昨年の琉球処分130年を,「本土」の人間はまったく意識しなかったように。)
天皇制に言及しているのが,「在日朝鮮人2世」の尹健次氏のみで,「日本人」による言及がほとんどなかったのも気になりました。
天皇制への深刻な反省がなければ,「和解」も「東アジア共同体」も,商売をうまくやるための単なる方便として表面的なものになってしまうのではないでしょうか。日経新聞が靖国参拝に反対したように。
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Unknown (Sightsong)
2010-01-10 08:28:44
Bemshaさん
尹健次氏のみ問題を顕在化させていることについては、曖昧さの温存が影響しているのだと考えます。その意味で、私たちは天皇制を客観視できていない。
「方便」、そうですね。日本側の「謝り続けているのにまた謝罪を要求するのか」というよくある言説と、外側の「日本は面従腹背だ」という言説との間にある距離を縮めるのは、日本側の意識に他ならないと思うわけです。
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