Sightsong

自縄自縛日記

『セロニアス・モンク ストレート、ノー・チェイサー』

2010-03-16 00:41:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

クリント・イーストウッドが監修したドキュメンタリー、『セロニアス・モンク ストレート、ノー・チェイサー』(シャーロット・ズウェリン、1988年)。これを観たのはもう15年前くらいではないだろうか。

演奏シーンはやはり奇妙だ。指を固い棒のように伸ばし、巨大な指輪は鍵盤に当たらんばかり。「'Round Midnight」では、汗を拭いた布を掴んだ手でそのまま弾き、合間に(ソロの合間ではなく、鍵盤を叩く合間に)吸った煙草を、そのまま左横の鍵盤の上に直接置いている(!)。『真夏の夜のジャズ』における「Blue Monk」もヒップだったが、これに収められたハンチング帽の「Blue Monk」もヒップだ。そして、ステージ上で巨体でグルグル回転する凄さ。

ホテルの部屋でのプライヴェート・フィルムだろうか、妻のネリーに心を許した笑顔の映像が素晴らしい。この依存の一方、狂気が彼をがんじがらめにしていた。スタジオ内や空港での奇矯な言動は、ユーモアだけではなかった。息子のT.S.モンクが、悲しそうに父親の思い出を語る。目の前の息子が誰なのかわからなかった。小さかった自分はそれを認めることができず、無視したのだ、と。

モンクは、ツアーに出てもメンバーに譜面を渡さず、妙な指示ばかり出していた。フィル・ウッズが生真面目に対応し、ジョニー・グリフィンが笑いながらそれに付き合っている。そんな共演者泣かせのモンクだったが、偉大な存在であったがゆえに、後の音楽家たちが取り組む曲にもなっているということを感じることができる。トミー・フラナガンとバリー・ハリスが向かい合った連弾で「Well, You Needn't」を弾きにやりと笑う。また、その2人がピアノの前であれこれモンクの曲について悩み、後ろでアート・ファーマーとミルト・ジャクソンが楽しそうに覗き込んでいる。印象に残る場面である。

プロデューサーのテオ・マセロが、モンクの丸い眼鏡を見てげらげら笑う場面がある。カメラは、その眼鏡をかけて内省的な表情を浮かべ、動きを止めるモンクをとらえている。良いフィルムだ。

●参照
ローラン・ド・ウィルド『セロニアス・モンク』
セロニアス・モンクの切手
ジョニー・グリフィンへのあこがれ
『失望』のモンク集


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