Sightsong

自縄自縛日記

レニ・リーフェンシュタール『ヌバ』

2016-07-14 07:25:50 | 中東・アフリカ

レニ・リーフェンシュタール『ヌバ』(新潮文庫、原著1982年)を読む。

レニ・リーフェンシュタールは、『オリンピア』(『民族の祭典』『美の祭典』)を撮り、ナチスのプロパガンダとなるものを提供したとしてずっと批判の対象であり続けた。それらのフィルムは、確かに観る者を大きな錯覚に導く力を持っているものであり、いかにレニが直接的に何も手を下すどころかナチの政策に同調もしていないと言ったところで、凶悪な権力の下でうまく生きてきたという批判は免れ得ない。

それはそれとして、『ヌバ』の文章は実に活き活きとしている。1960年代、スーダンに住むヌバ族の存在に気付いたレニは、たいへんな労苦とともに、かれらの居住域へと入っていった。現地の政府筋さえ、もうみんな文明化していてそのような人はいないと助言した。そのような、視えない存在であった。そして、逆にかれらも視たことがない「白人」として歓迎された。

このときレニは60代。信じられないパワーである。文庫に先立ちパルコ出版から出された大判の写真文集には、さらに虫明亜呂無の良いレニ評伝が含まれているが、それを読んでも、若いときから超人的に己の興味のみに従い表現を行ってきた人なのだなと実感する。しかし、それは犯罪的な純真さでもあったのだろうね。

それにしても素晴らしい写真群である。針で自分の身体をデコレートし、ときに白い灰を塗りたくり、至上の活動としてレスリングを行うヌバ族の姿がなまなましくとらえられている。レニは「白人」の客人として大事にもてなされるアウトサイダーでもあり、またかれらに良い笑顔を向けられるほど溶け込んだ存在でもあった。

パルコ出版の写真文集の口絵には、ヌバ族の男にカメラバッグを持たせ付き従わせて、カメラを下げて歩くレニの写真が収められている。どうもライカが初めて作った一眼レフである、初代ライカフレックス(ブラック)に見えるのだがどうだろう。