Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

香月泰男のシベリア・シリーズ(9)

2010年07月31日 13時54分09秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等
雲(1968)

 「山口県西部第四部隊の錬兵場は、雪舟が住んだ常栄寺の側にある。画人雪舟が愛した自然の中で、今の画家は人殺しの訓練を強いられる。人間性を奪われる姿は、錬兵場におかれた被甲(ガスマスク)のごとく、無機物化されたものと見えた。しかしガラスの月にも、昔雪舟が仰いだと同じ青空や白雲がそのまま映っている。」

 画面下の黒い部分に言われなければわからないながら、ガスマスクの眼のような丸いガラス様のものが二つ描かれており、月ないし雲が映っているように見える。
 恥ずかしながら私は、最初見たときに兵舎のガラス越しの空の雲と月のことだと思いこんでいた。ガスマスク云々は、文章修辞上の言葉ではないかと…。
 しかし眼を凝らすと不気味なガスマスクが浮かび上がってくる。画面の大半を占める青い色の空と対比するように無機質で人殺し専用のロボットの象徴のような不気味な顔がのぞいている。
 しかしこの青は美しい。雲の向こうに映る月のようでもあり、静寂で心に透き通ってくる青である。

 幾度も指摘してきたが、シベリア抑留だけが非人間的な体験ではないのである。人殺しの機械となることを強いられる軍隊そのものが、作者にとって許されることのない強制なのである。しかも人殺しの機械となることを強制される人間は、雪舟という稀有の画家を生んだ地域の末裔であり、同じように空の色や空に浮かぶ月に感動する人間である。

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