Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。体力作り、俳句、山行、美術館・博物館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。

「雪解川名山けづる響きかな」(前田普羅)

2017年06月17日 11時56分59秒 | 俳句関連
 大岡信の「百人百句」に前田普羅を取り上げている。最初に
★奥白根かの世の雪をかがやかす
を取り上げている。「かの世」がこの句の特異なことばであり、このわずか3音によってこの句が南アルプスの主峰のように抜きんでて生きている。この3文字のことば以外はごくありふれた日常のことばである。このことばによって雪をいただき輝く日本第2の高峰を前にした感動が伝わってくる。私の好きな作品である。

 そして
★雪解川名山けづる響かな
の解説が最後にある。
 「「響きかな」がどっしり腰をすえているので、誇張が上っ調子にならず、かえって作者の心の張りを伝える」と大岡信のことば。「「響きかな」がどっしりと腰をすえている」という評価を発するほどの自信ある断定が私にはとてもできないが、間違いのない指摘なのであろう。このような断定ができるほど、私も俳句を鑑賞し続けたいものである。
 私はこの句をいつ知ったか覚えていないのだが、「名山けづる」という表現がとても好きである。誇張ではあるが、削られていることは紛れもない事実。滝は少しずつその形を変えていく。摩耗も崩落もある。滝の音も本当は微妙に変化はあるだろうが、人を圧する滝の力は、流れの強さと連続する音の大きさによる。まるで音が巌を削るかのような錯覚をもたらす。
 水煙と音が螺旋状に滝から立ち上る龍のように捩れ昇って行く姿を彷彿とさせるこの俳句が、私が感動した最初の前田普羅の作品であった。ただしどの書物で知ったかは覚えていない。

 高校生の頃の国語の教科書には前田普羅の作品は、
★寒雀身を細うして闘へり
であったと思う。実はこの時の教科書解説本だったか、参考書に「身を細くするような寒さの中でも雀同士の諍いの激しさに着目」という解釈が載っていた。私はこの解説が理解できなかった。身を細くする、と仲間内で闘う、というふたつの動作が結びつかなかった。闘っているのならば、突進するために身を細くしたり、威嚇するために膨らませたり、というのは雀の生態とは違うように思えた。ただしいろいろとたくさんのことを教わった国語の教師にこの疑問をぶつけることもなく、卒業してしまった。
この解説で初めて、「厳寒の雀が、吹きつける風に対して、身をぐっと細め、必死に闘っている」という大岡信の評を見てやっと得心がいった。寒さに耐えている雀の姿がこの句の眼目であった。だから「戦う」ではなく「闘う」の字が採用されていたのか、ということも分かった。それこそ50年ぶりの得心であった。
 大岡信は前田普羅の項の最後に「現代俳句は日常的なものになりすぎている。激しさもなく、柄の大きさも足りない句が多い。前田普羅は、日常よりも非日常の世界に住むことを常に心がけていて、その眼で日常の世界を見ている。そこに一種の大きな空間が生まれ、意表をつく表現が生まれる。‥いまいる自分の現実だけでなく、遠いところに視線をおいて、そこからいまの現実を見直すという生き方が求められている」と結んでいる。敬重したいことばである。

 大岡信がこの「百人百句」の前田普羅の項で取り上げている句は、
★霜つよし蓮華とひらく八ケ嶽
★駒ケ岳凍てゝ巌を落しけり
★雪晴れて蒼天落つるしづくかな
★奥能登や浦々かけて梅雨の滝
★春尽きて山みな甲斐に走りけり
★潮蒼く人流れじと泳ぎけり
★羽抜鶏高き巌に上りけり
★如月の日向(ひなた)をありく教師哉
★眠る山佐渡見ゆるまで径のあり
★牝鶏(めんどり)はねむり牡鶏(おんどり)雪をかむ
★紺青の乗鞍の上に囀れり
★茅枯れてみづがき山は蒼天(そら)に入る

 どの句も自然の中の孤高の営みに対する敬意、尊敬の念を強く感じる。
 「奥能登や‥」の句、「うらうらかけて」が「いくつもの浦にわたって」、「梅雨の滝」は「滝のように降る梅雨の雨」であるとのこと。最初は理解できないくであった。
 「潮蒼く‥」の句と、「紺青の‥」の句も気に入った。特に「紺青の‥」の句は具体的な鳥の名をあげずに「囀れり」と表現したところにとても惹かれた。

 実は学生時代、
★人殺す我かも知らず飛ぶ蛍
という句を知り、とても感動した。これについてはいつかまた書きたい。
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