鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

北前船を追う-松前と江差 番外編その1

2017-06-16 07:05:52 | Weblog

  

 (※写真は『松前屏風』の一部) 

 宮本常一さんの『菅江真澄』を読んでみると、古川古松軒(こしょうけん・1726~1807)が松前について記している部分が出て来ます。

 古川古松軒が幕府の巡見使に従って蝦夷地を巡視したのは天明8年(1788年)のこと。

 宮本さんは、菅江真澄の場合は松前の町の様子についての記述はないが、古松軒の場合は町の様子をそのまま記述しているとしています。

 その部分(『東遊雑記』)を現代文に意訳(文責鮎川)してみると以下のようになります。

 「さて松前に上陸したところ、案外なことにその人家はとても綺麗で都風であった。通り左右に建ち並ぶ商家は、通り側の戸を全部開いて中が見えるようしてあり、中を覗いてみると床には花を活け、金銀の豪華な屏風を立て、毛氈(もうせん)を敷き並べている。幕府巡見使を迎えるための「おもてなし」であるよう(「御馳走の体」)に思われる。貴賤の男女がまるで「千体仏」のように多数見物に出て来たが、その風俗や姿かたち、衣服に至るまで上方(かみがた)あたりの人々と較べても少しも遜色ない。」

 商家や人家はとてもきれいで都風であり、幕府巡見使を迎えるためか道筋の戸をすべて開いて、床に花を活け、豪華な屏風を立て、毛氈(もうせん)を敷き並べているというのです。

 人々の風俗や姿かたちも、上方あたりの人々とほとんど同じ。

 それらを古松軒は「案外なる事」としています。

 はるばる蝦夷地にやって来たところが、そこにはまるで都のような世界(松前城下)があったという驚きです。

 この場合の「都」とは、「上方筋の人物に少しも劣らぬ」という書き方から考えれば、江戸ではなく文字通り京都を指すものと思われます。

 蝦夷地にまるで京都のような世界があったという古松軒の驚き。

 宮本さんは、「左右の商家が通り側の戸を全部開いて…」の部分について次のように記しています。

 「これは御承知のように祇園祭りとか西日本の方の祭りだとたいていおみこしの通る道筋は表を開いて、金屏風を建てて花を活けたりいろんなことをしてお祭りを迎えるという習俗がありますね、あれがやっぱり松前辺りにあったようで、こういうのは西日本的習俗であったんじゃないかとそう思います。」

 また古松軒は三の家老である蠣崎(かきざき)という家に泊めてもらうのですが、その屋敷について次のように記しています。

 「門は唐破風(からはふ)造りの開き門で、左側には馬を三頭入れることができる馬屋がある。玄関の幅は三間余(6m近く)もあり、その玄関から屋敷の中に入ってみると間数(まかず)がいくつもある相当な広さの屋敷で、台所・料理場・土蔵に至るまで念の入った立派な普請(ぶしん)である。それを見た人々が、江戸では五千石以上の旗本でないとこのような屋敷は構えがたいと評判するほどの立派な屋敷であった。」

 「三の家老」の蠣崎氏の屋敷が、江戸ならば五千石以上の旗本でなければ構えられないような立派な屋敷であったというのです。

 ここは江戸ではなく蝦夷地。

 しかも人口から言っても江戸の百分の一ほどでしかない小城下町の松前。

 城下町の周囲にほとんど畑はなく、田んぼなぞは全くない。目に入るのは日本海と山。

 なのに家老の屋敷はこれほどに規模が大きく立派である。

 通りに並ぶ商家も上方(かみがた)風のきれいなものであり、人々の風俗や姿かたちも上方筋の者たちとなんら遜色はない。

 古川古松軒は全国を旅していろんな城下町を知っているわけですが、その古松軒であってもびっくりするほどの城下町であったわけです。

 しかもその城下町は、東北地方のさらに北、つまり「陸奥」(みちのく)のさらに向こうの津軽海峡を渡った先(蝦夷地)にあった。

 全国を旅して京都や江戸、各地の城下町を知っている古川古松軒にしてそうであったということは、日本海沿岸の各地から松前にやって来た人々は、初めて蝦夷地の松前城下に至っていったいどういう感慨を抱いたか。

 通り沿いに建ち並ぶ立派な商家やその賑わい、そこに住む人々の都風の雅(みやび)さ、台地上にある松前城や家臣たちの屋敷の立派な普請などを見るにつけ、それを支える財力はいったいどこから来るのか、といったことを当然に考えたのではないかと思われます。

 

 続く

 

〇参考文献

・『菅江真澄』宮本常一(未來社)

『本』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 北前船を追う-松前と江差 ... | トップ | 北前船を追う-松前と江差 ... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL