鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

甲州街道を歩く-番外編 海老名市勝瀬 その3

2017-05-19 06:15:36 | Weblog

 

 勝瀬文化センターで『湖底への追憶』をざっと閲覧しました。

 「橋沢より望む勝瀬の全景」などの掲載されている写真を見ると、勝瀬が「十八町歩の美田」を持ち、「銀輪おどる相模川の清流」があり、営々と「数百年続いた人々の生活」があった集落であったことがよくわかります。

 興味深かったのは昭和15年(1940年)当時の「勝瀬部落略図」。

 昭和15年といえば、この年の9月13日に勝瀬部落の移転の正式な調印が終わっています。

 上野原方面から流れてきた相模川は、吉野のある河岸段丘の下で左側(北側)に大きくカーブして河岸段丘の真下を段丘に沿って流れ、今度は右側(南側)に大きくカーブしてから与瀬のある河岸段丘の下へと流れています。

 与瀬から勝瀬に至るには、与瀬の町並みの途中で左(南側)に折れて坂道を下り、下りきったところで目の前に現れた相模川を二瀬越橋(かつて「勝瀬の渡し」があったところ)で渡り、左に水車を見てから右折します。

 通り突き当りを左折して、すぐに右折した通り沿いには駐在所や信用組合(旧紺屋・岡部政右衛門旧宅)や北相自動車が左手(通り南側)に並び、右手(北側)には魚屋・菓子屋・床屋などが並びます。

 この通りが勝瀬の中心。

 その通りを進むとやがて道が分岐し、左の道を進むと日連(ひづれ)村役場へ至り、直進すれば「反田前の渡船場」(丹田前の渡し)に至ります。

 かつて「勝瀬の渡し」があったところには橋(二瀬越橋)が架けられていますが、「丹田前の渡し」は「渡船場」となっていて、橋は架けられていないことがわかります。

 ということは「北相自動車」の車は、当時「二瀬越橋」を渡って坂道を上り国鉄中央本線の与瀬駅(現在の相模湖駅)や国道20号に至っていたことがわかります。

 勝瀬の集落には、酒屋・籠や・煙草屋・お針や・絹問屋・旅館・魚屋・菓子屋・床屋・醤油屋・オサ屋・まんじゅう屋・信用組合(旧紺屋)・北相自動車・左官や・船大工などがあり、それらの商店は集落の人たちの生活を支えていたばかりか、通りを往来する旅人や商人たち、相模川で生活を営む人々を相手にする商売でもあったでしょう。

 田んぼや畑を所有しないで、商売一本の家もあったはず。

 集落の鎮守である八坂神社や菩提寺である曹洞宗鳳勝寺は、集落の南側の山の斜面にあり隣り合っていました。

 集落から坂道や石段のある参道があって、それを上がって行けば八坂神社と鳳勝寺が現れたのです。

 八坂神社と鳳勝寺は北面し、集落や田んぼ、河岸段丘に沿って蛇行する相模川を眼下に眺めるように建っていました。

 またこの略図をよく見てみると、通りの各所に延命地蔵・道祖神・サイノ神・子育地蔵などが点在しています。

 これらは移転時にまとめられ、木炭自動車(トラック)に乗せられて海老名町の移住地に運ばれたのでしょう。

 田んぼや畑を所有していない(所有していてもごくわずかの)人々は、田んぼや畑にこだわらず、県側が用意した海老名町の移転地を選ばなかったであろうことは容易に推測されます。

 それらの人々は新しく商売ができるところを移転先として希望したことにより、勝瀬の人々は「分散移転」の道をたどることになったものと思われます。

 与瀬町や八王子、日野などへ移転していった人たちは、集落の中でもそういった商い中心の人たちであったでしょう。

 ということは県側が用意した海老名町の移転先に移住した人々は、集落の中でも田んぼ(十八町余歩)や畑(二十五町余歩)を比較的多く所有していた人たち(しかし商いと兼業の場合が多かったと思われる)であったと推測することができます。

 勝瀬の人々が移転にあたって出した三つの要望のうち、一つは「水田耕作の可能な土地であること」でした。

 海老名町に移住した勝瀬の人々は、水田を代替地として希望したのであり、そして代替地として県から提供された水田は、現在海老名市の市役所が建っているあたりの水田であり、海老名市勝瀬から見ると西側に広がる水田一帯でした。

 現在の地図を見ると、海老名市役所がある一帯は「勝瀬」となっていて、海老名市勝瀬は住宅街のある地区と市役所がある地区に分離した形となっています。

 戦後間もなくと異なり、小田急線海老名駅の南側は大きく変貌していますが、かつては水田が見渡す限り広がっていて、その一部がダム建設により移転させられた勝瀬の人々が耕作する田んぼであったことになります。

 

 続く

 

〇参考文献

・『湖底への追憶』

・『海老名市史 通史編 近代・現代』

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