鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

『東京市電名所図絵』に見る明治40年前後の東京 その最終回

2010-06-07 06:59:11 | Weblog
 その後、啄木は千駄ヶ谷の与謝野家への往復にも、その他の移動にも、甲武鉄道の電車や東京鉄道の路面電車をひんぱんに利用していると思われます。

 明治41年(1908年)の5月4日、啄木は金田一京助の世話で、千駄ヶ谷の与謝野家を辞して、雨の中、本郷菊坂町八十二番地の「赤心館」に引っ越すことに。

 彼の路面電車の最寄り駅(停留所)は、「本郷三丁目」となります。

 次に電車の記述が出てくるのは5月7日。この日の朝、啄木は古本屋へ行って本を売り、電車賃をこしらえると、午後9時に千駄ヶ谷へ出かけます。おそらく本郷三丁目から路面電車に乗りお茶の水まで行き、そこから甲武鉄道の電車に乗り換えて千駄ヶ谷まで。与謝野家で家から届いている葉書と小包を受け取った啄木は、午後2時に与謝野鉄幹とともに千駄ヶ谷から電車(甲武鉄道)に乗ってお茶の水に戻ります。

 5月16日、下宿を飛び出した啄木は、砲兵工廠前まで歩き、初めてそこから路面電車に乗ります。砲兵工廠を間近に見たのはこの時が最初であったでしょう。路面電車の停留場は「小石川橋」。そこから外濠線に乗った啄木は、おそらく四谷見附まで乗って、そこから甲武鉄道に乗り換えて千駄ヶ谷の与謝野宅を訪問しています。そして午後3時頃帰宅。

 翌17日の日曜日には、午後に電車に乗って植木てい子の家を訪ねる。てい子の家は、「中橋広小路」(京橋と日本橋の間)で下車して一町ばかり左に折れて右に入った小路にあり、住所は「大鋸町三番地」。母が出て来てお寿司をご馳走になった後、午後3時10分前に辞去して小路に出ると、てい子が贈り物を包んだ風呂敷を手に持って、「石川さーん」と呼びながら追いかけてくる。

 「中橋広小路」から「四谷見附」まで電車に乗り、そこで甲武鉄道へと乗り換えると、平野久保・吉井勇・北原白秋と一緒になる。みんな千駄ヶ谷の与謝野宅の歌会に向かおうとしているのだ。帰宅したのは午後10時。

 それからしばらく「電車」の文字は、日誌に出てこない。

 久し振りに出てくるのは、6月30日。この日啄木は、「芝公園五号地の三」の吉井勇宅へ、吉井・北原・並木武雄とともに電車に乗って出かける。「本郷三丁目」から「増上寺前」あたりまで乗ったのだろうか。「吉井事務所」の2階の六畳部屋からは、松の木を通して通りとそこを走る電車が見えました。夕食後、芝公園の中を通って「中門前町」より乗車。銀座・松住町経由で本郷三丁目で下車し、雨の中、吉井勇と二人で1本の傘をさして赤心館に帰着しています。

 このように啄木と電車のことを書いていくときりがない。

 それだけひんぱんに電車を利用しているということですが、電車でどこへ行っているのか、いくつか列挙してみたい。

 7月3日の夜、「電車の旅」、京橋まで。

 7月27日、自分の「最後の財産」である「英和辞書」を売って、江戸川の終点まで。戸塚村など見知らぬところを歩いて、北山伏町三三に、初めて北原白秋の下宿を訪問。

 7月28日、神田橋外から電車に乗って芝の吉井勇宅まで。それから千駄ヶ谷まで甲武鉄道経由で行き、与謝野晶子と会話。帰りは甲武鉄道の電車がなく、千駄ヶ谷から四谷までテクテク歩き、四谷見附から路面電車に乗って帰宅したのは深夜12時半過ぎ。

 8月20日の夜には、金田一京助とともに浅草へ。これも電車で出かけているはず。「キネオラマ」なるものを観て、凌雲閣の北の、「塔下苑」と名付けた「広大なる迷宮」を初めて歩いたのはこの夜のこと。

 9月9日。新橋ステーションまで。途中、電車内で喧嘩がある。

 10月4日。夕間暮れ、金田一と「電車旅行をやらうぢやないか」となって、「築地浅草行」という電車に乗り込み、浅草の「塔下苑」を歩き回る。大勝館で「活動写真」を観て、電車で帰る。

 11月1日。人の大勢いる所へ行きたくなり、本郷四丁目から浅草に。電車の中に、目と鼻が妻節子に似た女を見かける。

 12月1日。訪ねて来た小奴と、本郷三丁目から不忍池のほとりを、手を携えて上野まで歩き、ステーション前から電車に乗って浅草まで。上野から日本橋二丁目の宿まで小奴を送り、そこから電車で帰宅。

 明治42年(1909年)になると、滝山町の「東京朝日新聞社」への毎日の通勤に、路面電車を利用することが加わります。

 それぞれの啄木が出かけたところ(上野・浅草・日本橋・芝・新橋・小石川・お茶の水など)の明治40年代初頭の雰囲気は、『東京市電名所図絵』から探ることが出来るはずです。


○参考文献
・『石川啄木全集 第五巻』(筑摩書房)
・『東京市電名所図絵』林順信(JTB)
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