新聞テレビ欄に、芸能人の常識チェックの1つにお茶があったので、「何やるのかな~」と見てみました。
その結果は……、うーん、大きな誤解を招きそうな構成で、複雑な思いを抱きました。
番組的に面白くしようという意図は理解できますが、こむずかしいマナーを並べて、お茶を知らない人をどんどん
茶の湯から隔離していくような内容に思えたから。
お茶は、お客様が美味しく一服の茶を召し上がってくだされば、それでよいのです。
だから、客側もあまり緊張せずに作法を知らなければ、普通どおりに飲んでいいのです。
番組ではお濃茶と呼ばれるお茶が供されていましたが、通常、お茶の経験のない人に濃茶をふるまうことはありません。
作法はもとより、お味もその名のとおり濃いので不慣れな人にとっては、結構キツイから。
お茶を習っている人でも濃茶は苦手、飲むと夜、眠れなくなるから、と形だけにして三口半飲まない人もいるほどです。
普通はお薄といわれる、喫茶店などでも出されるサラッとした抹茶が一人1椀飲みきりで出され、回し飲みもないため、
作法もご自由にということ。
こういう番組をご覧になって、「だから、お茶は難しい」「堅苦しくて嫌」と思われたとしたら残念でなりません。
正客を務めた噺家(?)の方が間違って貴人畳に座ったり、3人分のお茶を一人で全部召し上がったりしていましたが、
私はそれもアリだと思います。
正客が間違っていても、他の人はそれに倣うのが茶席のマナーです。
これは一般社会でも同じではないでしょうか。
目上の方が誤ったマナーで動いていても、周囲に迷惑をかけるわけでなければ、目下の人はそれをいちいち正さないでしょう。
その意味で、お詰(末客)の梅沢富男が次客を正客の隣に移動するよう、勧めたのは作法に叶っています。
貴人畳に座っても点前の邪魔になるわけではないし、人数が多い場合は正客と次客が貴人畳に座るのは珍しくありません。
半東(お茶を運ぶ人)が「三名様でどうぞ」と言っているのに、正客が全部飲み干したのは確かに困ったことですが、
濃茶3人分を一人で飲むのは大変なこと。
「よほど、美味しかったんですね」と、亭主は少し嬉しいかもしれません。
そのため、半東は常に注意深く茶室内の様子を窺い、こんなことが起きたら「あら、お次客さんのお茶がないわ」と
すぐさま新しい茶碗を持って出て、亭主に残り二人分のお茶を練ってもらわなくてはなりません。
こうした対処がスマートにできることが、招いた側の修行にもなるわけです。
現実には、濃茶席の正客を初心者や門外漢に任せることは絶対にないし、茶道の心得があるかどうかは見ればわかります。
恥をかかせたり、当惑させることがあってはならないので、できない人に無理強いなどしないので安心してください。
唯一、気になって、ここだけは正したいと思ったことがお軸の拝見の仕方。
床の間の掛け軸やお花は無言で拝見します。
他流派を全て知っているわけではありませんが、これはどの流派も同じだと思います。
軸の意味を考えると、お軸に向かって声に出して語りかけることはありえません。
お軸やお花に対する感想は、正客が飲み終わってから頃合いを見て、正客だけが亭主に述べます。
茶席では、特に濃茶の場合は無言が基本。
話すのは正客だけというマナーさえ押さえておけば、これから秋の茶会シーズン、どんな茶席でも楽しめることを保証します!