「ご隠居。こんにちは」
「ああ、与太か。来たか」
「はい、来ました」
「で、何の用かね」
「いつだって、何も用事などありませんけれど」
「じゃ、どうして来るのかね」
「足がこっちに向いてしまって」
「わしだって忙しい時がある。そうしたら、与太にかまっていられないぞ」
「そういう時は気にしないでください」
「ほう」
「勝手に上がりこんでお茶を自分で淹れて、、、という具合に出来るといいですね」
「そんなことが、いいわけないだろう」
「ご隠居にもお茶を入れてあげます」
「忙しくても、自分で淹れるよ」
「上がってはいけませんか」
「駄目だ」
「どうしてですか」
「人さまの家に用もないのに上がりこむものではない。泥棒でもあるまいし」
「泥棒は酷い」
「だから上がるな!」
「ご隠居んちの畳は立派ですね」
「畳を褒めてくれたのかい?」
「褒めたわけではないけれど………この上で大の字になって寝たら気持ちがいいだろうな、と思ってね」
「自分ちでやんな」
「おれんちは、大の字になれる場所はない」
「片付ければあるさ」
「面倒くさいや」
「家の掃除は面倒がらずに、こまめにやるもんだ」
「面倒くさいや」
「やってみるとそうでもないよ。終わった後の気持ちよさに取りつかれたら、しめたもんだ」
「ふ~ん。その気になってきた。だけど、その手には乗らないよ」
「その手?」
「うん、その手」
「この手に乗られたら重いだろうな~」
「ご隠居。このバヤイ、手は「策」とでも言うべきかな。「ハンド」のことではないですよ」
「(じろ~。この野郎)」
「ご隠居。『寠し(やつし)』は読めましたか?」
「(この野郎)」
「『就中』が読めなかった。というより、『しゅうちゅう』でも良いんではないかと思ったのだが、やはり『なかんずく』でなければならないようですね」
「(………)」
「ご隠居!ご隠居!寝たふりはいけません。己を叱咤激励して起きていてください。でないと『愚弄』され『揶揄』されますよ」
「(この~)」
「