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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 5-1(諒視点)

2016年11月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 彼のことを『好き』だと気がついたのは、小学校6年生の夏休みのことだった。

 1年生からずっと一緒にいて、いつもオレのこと守ってくれていた彼。一緒にいるのが当然で、一緒にいるのが楽しくて嬉しくて。彼の隣にいることがオレの幸せだった。彼がオレのすべてだった。


***


 小6の6月。水泳の着替えの時間。
 
「うわっ。高瀬、大人~~っ」
「!」

 クラスの男子達に囲まれ、冷やかしの言葉を投げられた。

 自分でも嫌になるほど自覚している体の変化………
 6年生になってすぐに声変わりがはじまり、うっすら喉仏もでてきたのと同時に、下の毛も産毛だったのが濃くなりはじめ、そしてモノ自体も……

「すっげーなー。見せろよー」
「や……っ」

 腰巻のタオルで隠しながら着替えていたのに、そのタオルを捲られそうになり、慌ててしゃがみこんだ。すると、

「お前ら何やってんだよ!」
「………っ」

 いつものように彼が飛んできてくれた。

「そういうこと言っちゃダメだって先生も言ってただろ! えーと、成長には個人差があるから……とかなんとか!」
「だって、高瀬すげーチン……」
「うっせー! そんなに人のもんみたいんなら、オレの見せてやろうか~?」

 ほれほれ、と惜しげもなく前をさらけ出した彼。みんながゲラゲラ笑いだす。

「いらねーっサルのなんか見たくねーっ」
「うわ~~お前そこまでサルっぽい」
「サルっぽいって、サルの見たことあんのかよ!?」

 その場がわっと明るくなる。いつもそうだ。彼のいる場所には笑いが溢れてる。

「男子!騒いでないでさっさと着替えろ!」

 先生も来てくれて、ホッとする。みんなが席で着替えはじめると、彼がいつものように横にきてくれて、

「諒……大丈夫か?」
「うん……ありがと」

 いい子いい子と頭を撫でてくれた。彼に頭を撫でられるのはとても気持ちいい。幸せで胸が温かくなる。彼には仲良しの友達がたくさんいるけれど、でも、オレは特別なんだって実感できて嬉しくなる。


 その日の帰り、いつものように侑奈の家に寄って3人でダラダラしたあと、彼と二人で近くの公園に行った。

 侑奈は5年生の時に近くの団地に引っ越してきたハーフの女の子。登下校を一緒にしているうちに自然に仲良くなった。
 それ以来、放課後は侑奈の家に行くことが多くなったけれど、その帰りには、それまでのように、二人で公園に寄っていた。

「あのさ、昨日言ってたこと、兄ちゃんに聞いてみたんだけど……」
「うん」

 ジャングルジムの一番上で並んで座りながら、彼がこそっと言った。昨日彼にだけ打ち明けた相談事の答えを、高校生のお兄さんに聞いてきてくれたのだ。

「でかくなっちゃって、すぐ元に戻したかったら水かけるといいって。あとは時間かけて落ち着かせるか、それか出しちゃうしかないって」
「出すってどうやって……?」

 保健の本も読んだし、図書館でも調べたけれど、具体的な方法は書かれていなかった。たぶん『自慰行為』で『刺激を与え』て『射精』するんだろうけど、その方法がわからない……

「なんかな、兄ちゃんが言ってたんだけど」
「うん」
「こう……つかんで、擦るんだって」

 彼が手で筒型を作って上下させる動きをしてみせてくれた。でもイマイチぴんとこない。
 彼も同様なようで、首を傾げてから、ちょっと笑って付け足した。

「それでな。好きな子のこと思い浮かべながらするとすぐ出るって言ってた」
「好きな子?」
「うん」

 クラスでは、誰と誰が両想いだとか付き合ってるだとか、特に女子が騒いでいるけれど、オレはそういうことも疎くて、まったくついていけてなかった。

「でも、諒は好きな子いないもんなあ?」
「うん………」

 好きな子……どう思ったら『好き』なんだろう。一番好きな友達と言われたら間違いなく彼なんだけど、男だから違うんだよな……

「オレは絶対ユーナだ。オレも早くお前みたいになりてえなあ。そしたらユーナのこと考えながらするのになあ」
「……………」

 彼は侑奈のことが『好き』。顔がかわいいからだそうだ。だからオレも侑奈のことを『好き』になろうとは思っている。

 だからとりあえず、翌朝起きたらまた大きくなっていたので、トイレにいって侑奈のことを考えながら、言われた通りに擦ってみた。でもムズムズするだけで……、結局いつものように、落ち着いてくれるまで、ジーッとしているしかなかった。
 


**


 夏休みになり、彼が毎日のようにうちに泊まりにきてくれた。彼と一緒に過ごす幸せな時間。ほとんど帰ってこない両親に代わって、一人きりのシーンとした時間を全部全部彼が埋めてくれた。


 夏休みももうすぐ終わり、というある日の夜。いつものように、ベッドに並んで横になった時点で、彼が言いにくそうに切り出してきた。

「なあ……あれから、出た?」
「…………」

 結局あれからも、勝手に大きくはなるものの、精通はまだだった。
 首を横に降ると、彼は安心したように息をついた。

「そっかー良かった」
「? なんで?」
「だってさー」

 くるっとこちらを向いて、コツンとオデコを当ててくる彼。

「お前、この何ヵ月かでドンドン背も大きくなっちゃってさ……。オレ、これ以上置いていかれたくない」
「…………」

「だから、オレにセーツーくるまで待ってて」
「…………うん」

 待ってて、と言われて待てるものかも分からないけれど、うなずくと、彼は安心したように寝息をたてはじめた。

 それからしばらく、彼の寝息を幸せな気持ちになりながら聞いていたんだけど、

(…………あれ?)

 その規則的な寝息に呼応するように、下半身が大きくなってきたのが分かった。しかもムズムズして身じろぎをしたときに、布に擦られたところが、ちょっと気持ちよくて……

(……もしかして)

 もしかして、今ならできる……?

(待っててって言われたけど……でも、ごめん)

 修学旅行までになんとかしたいんだ。お風呂でからかわれるの嫌だから……。

 パジャマのズボンの中に手を入れて、パンツの上からつかんでみる。固くなっている自分のもの……

(えーと、それで、侑奈のことを思い出す……)

 目をつむって侑奈の顔を思い出す。

(…………うーん)

 眉間にシワが寄ってしまう。触っているのは気持ちいい気がする。でも、侑奈の外国人みたいな白皙と整った顔を思いだすと、逆に萎えてくるというか……

(……やっぱり無理か)

 諦めて、触るのをやめようとした、その時。


「!」

 ビクーッと跳ね上がってしまった。寝ぼけた彼の左手がオレの頭にバサッと落ちてきたのだ。
 いつも撫でてくれる優しい手……

「んんん……」
「………」

 彼は寝相が悪い。この夏休みも何度蹴られたり殴られたりしたか分からない。人をそんな目にあわせておきながら本人は朝まで熟睡しているんだから呑気なものだ。

 ……と、思ったら。

「んー……」
「……っ」

 彼はおもむろに右手をオレの首の下に差し入れて……ぎゅうっと頭をかき抱いてきた。

「………っ」

 息が、止まるかと思った。

 彼の匂い、彼の息遣い、彼の鼓動……すごく近くに感じられる。同時に、オレの手の中にあるオレのものも、ドクンっと大きく波打った。ドッドッドッと心臓の音が大きく聞こえてくる。


(……擦りたい)

 初めて本能的に手に力を入れた。

(……擦りたい。擦りたい)

 彼に気が付かれないよう腰をなるべく遠くに離して、でも彼の胸に顔を埋めながら、擦り続ける。

(き……気持ちいい)

 なんだこれ、なんだ……頭が真っ白になっていく。
 彼の匂いに包まれて、彼のぬくもりを感じる幸せ……

 本能のまま手を上下に動かし続け……

「ん……諒」
「!」

 寝ぼけた彼の声が耳元で聞こえた途端、

(で……出ちゃった)

 おしっこではない何かが出た気配がした。これが、射精……? パンツの上から擦っていたので、手は汚れなかったけれど、おそらくパンツについてしまったに違いない。

 途端に冷静になり、気マズイ気持ちになりながら、そっとベッドを抜け出す。
 トイレでパンツを履き替えてから、ぬるぬるがついたパンツをざっと洗って、明日の洗濯物の山の中に紛れさせ、そーっと部屋に戻ってくると、

「…………」
 彼の寝顔が目に飛び込んできた。いつもは仰向けで寝ることが多いのに、今日は隅っこで横向きに丸くなっている。少し開いた口元から聞こえる寝息の音……

「……っ」
 その瞬間、ズクリと再び股間が熱くなってきた。

(なんで……っ)
 体中にも熱が回ってくる。彼のその唇にキスしたい。抱きしめたい。抱きしめられたい。彼の腕の中でこの熱くなったものを触りたい……


『好きな子のこと思い浮かべながらするとすぐ出るって言ってた』

 二か月ほど前、彼が教えてくれた言葉を思いだす。

(好きな子……)

 ああ、そっか……

 自分でも驚くほど、それは素直に自分の中で受け入れられた。


 オレ、彼のことが『好き』なんだ。





-----


お読みくださりありがとうございました!
小学校6年生。進んでる子は進んでますが、幼い子は本当に幼い、という時期。
諒たちは幼いチームに属していたため、そういうエッチな話の情報が全然なかったのでした。

こんなに可愛らしかった諒君が、なぜ女喰いまくりのタラシになってしまったのか、という話を明後日お送りします。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 4-2(浩介視点)

2016年11月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

***

 そのまま電車を乗り継ぎ、慶の勤務する病院を訪れた。
 日曜は外来診察はないけれど、面会はできるため、一般の人も多く出入りしている。でも、病棟に入るには受付で面会先の記入をする必要があるので、面会に訪れた人でなければ病棟には入ることはできない。

(慶、偶然いたりしないかな……)

 門から病棟に向かう途中にいくつかベンチがあるスペースがあり、その中の一つに、行き止まりと見間違う茂みの奥にベンチがあるスペースがある。慶はおれに電話するときはたいていここを利用しているそうで、おれとも何回かここで荷物の受け渡し等で待ち合わせたことがある。

(さっきから電話してるけど、電源切れてるし……)

 仕事中ということだ。仕事中は院内用の携帯を身につけ、個人携帯は電源を切っているため繋がらないのだ。

(あそこのベンチにいたら、そのうち会えるかな……)

 って。

(おれ、ストーカーっぽいな……)

 自覚はある。
 苦笑しながらそのベンチのスペースに行こうとしたところ………

(話し声………慶?)

 ドキッと胸が高鳴る。慶の声!
 でも喜ぶ間もなく、慶ではない男の人の声も聞こえてきて………

(………………)

 慶………笑ってる………

 茂みの陰に隠れながら中を覗き込んだところ、ベンチに慶ともう一人……白衣の男性が座っていた。

(……島袋先生?)

 あの眼鏡の横顔、寝癖の頭……たぶん島袋先生だ……

(変わってない……)

 最後にあったのは、慶と一緒に高校卒業の挨拶に行った時だから、もう何年前になるだろう。

 島袋先生は、慶のお姉さんの赤ちゃんの主治医だった。高校時代、お姉さんから頼まれて病院でボランティアをすることになった慶は、そこで出会った島袋先生に憧れて、将来医師になることを決意した。

 慶の大学時代に、島袋先生は当時勤めていた横浜の病院から、今の病院にうつったため、慶は迷いなくこの病院の研修生になることを望んだ。そして現在、念願かなって2年目……


「うわ、本当ですか!? そこは絶対外せない!」

 慶のはしゃいだ声に、島袋先生も笑っている。

(何の話してるんだろう……)

 海とか星とか岩とか船とかいう言葉が聞こえるけど……

(仕事の話じゃないことは確かだな……)

 じゃあ、仕事中じゃないってことだ。慶、白衣も着てないし。それなのに携帯電源入れてくれてないんだ……

(…………)

 慶の中で、おれの存在って何パーセントくらいを占めてるんだろう。おれに比べたらすごく少ないんだろうな。……なんて卑屈なことを考えはじめてしまう……。


「本当は1週間くらいいられればいいんだけど」
「2泊3日が限度ですよね」
「そうだねえ。まあ、その日程でも慶君が満足できるルート組むようにするから」
「ありがとうございます!」

 ……旅行の話? 慶、旅行に行くの? ただでさえ今でも会えてないのに、そのまとまった休み、おれを置いてどこかに行っちゃうの?


(…………)

 帰ろう。もう、帰ろう。ここにいてもしょうがない。おれは慶の邪魔になるだけだ。

 静かに来た道を戻る。でも……

(帰るって……どこに?)

 誰もいない、あの小さなアパートに。
 慶が大学生の時は、慶はしょっちゅう泊まりに来てくれていた。ほとんど一緒に住んでいたといってもいい。

(あの頃に戻りたい)
 一緒のベッドで眠って、一緒に朝を迎えて、慶のために食事を作って……なんて幸せな日々だったんだろう。

(そんなこと言ってもしょうがないんだけど……、あ)
 ポケットの振動に立ち止まる。メールだ。開いてみると、慶のいつもの、要件だけのメールの文章があった。

『終わったのか?今電話しても大丈夫か?』
 終ったのか……って、ああ、そうか……今日は祖母の告別式だった。

「…………」
 おれは本当に薄情な人間だ。あまり関わりがなかったとはいえ、かなり近い血縁関係にある人の死になんの感慨も持つことができないなんて……

 駅に向かってゆっくり歩きながら電話をかける。すぐに出てくれた慶。

『電話してて大丈夫なのか?』
「うん……もう帰る途中」

 優しい声にホッとする。
 会いたい。すごく会いたい。けれど、会ったら、きっと冷静でいられない……

『そうか……でもいいのか? お父さん気落ちされてるだろ? そばにいなくて大丈夫なのか?』
「…………」

 は……

 慶の言葉に乾いた笑いが出てしまう。

(やっぱり慶には、わからない……)

 今回、父とは一度も話していない。はじめに挨拶はしたけれど、無視された。通夜の席でも葬儀場の人に案内された席に座ろうとしたら、『もっと末席にいけ』と手振りで追い払われた。父にとっておれは目障りな存在でしかないのだ。

 でも、そんなこと慶には言いたくない。

「うん……大丈夫。ほらうち、家族関係希薄だからさ」
『…………』

 気マズイ沈黙の後、慶は「それじゃ」と口調を変えた。

『今晩はおれ当直だから……明日の夜とか会えるか?』
「………うん」

 そんなこと言ってもどうせ仕事が長引いて会えないのだろう。いつもそうだ。でも、そんなこと言って慶を困らせてはいけない。
 喜んでいる声を作って慶に答える。

「じゃ、明日の夜、泊まりにいくね?」
『おお。今日見てきた練習試合の話もしたいし、それに……』
「うん」
『島袋先生が旅行に誘ってくれてて。その話もしたいし』
「…………」

 心臓がグッと押されたように痛くなる……

「島袋先生と、旅行……?」

 知っているくせに、知らないふりをして聞き返す。心臓の音がうるさくて慶の声が遠くに聞こえる。

『おお。島袋先生、夏前にはここ辞めて実家に戻るんだよ』
「え……」

 そういえば、ご実家は小児科医院だと言っていた……

『それで、向こうのおすすめスポット連れて行ってくれるっていうから』
「そう……なんだ」

 おすすめスポット……それが海とか星とかの話……。そこに行くんだ慶……

 頭がガンガンと痛くて我慢できなくて、こめかみをおさえる。
 さっきの慶の笑い声……おれなんかいなくても笑ってる慶……

 ああ、もう無理だ。これ以上話はできない。

「慶、あの……」

 話を遮ろうとする、と、慶がけろりと言った。

『だから、今年の夏の旅行、そこでいいよな? お前、毎年夏休みって八月中旬に一週間くらいだよな?』
「え?」

 慶の声が頭の上の方を通り過ぎる。……夏の、旅行?

「う……うん……」
『去年は箱根に一泊二日だけだったもんな。今年は二泊三日なんとか取るから。すっげー流れ星が見えるところがあるんだって!絶対見たいよな?天気良いといいなあ』
「……………」

 それ……それって……

「あの……その旅行って……」
『え、もしかしてお前、海外とか行きたかった? 国内いやか?』
「………っ」

 慶……っ

 そんなの………どこでもいい。
 慶と一緒なら、どこでもいい。

 こらえられなくて、走り出す。電話の向こうからおれを呼ぶ声が聞こえる。でも走って走って……

 その声と、肉声が重なり……

「慶!」
「わ!」

 一人でベンチに座っている慶に勢いよく抱きついた。おれと違って、突然でも引っくり返ったりしないのがさすが。ガッシリと抱き止めてくれた慶。

「なんだお前、こっちに来てくれてたんだ。よくおれがここにいるって分かったな」
「…………うん。救急車の音、聞こえたから……」

 肩口に顔を埋めると、片方の手で頭を、もう片方の手で背中を撫でてくれる。

「ああ、そっか。じゃ、うち移動しようぜー?」
「え」

 うちって……慶のマンション? 仕事は?

「なんか、吉村が腹痛いっていうから代わるつもりで来たんだけど、とりあえず今落ち着いたらしくて」
「え、それじゃ……」

 吉村、というのは慶と同じ研修医の女の子だ。何度か会ったことがある。

「朝まで一緒にいられる?」
「あ、いや、当直まではやる自信ないっていうから、当直から代わることにしたんだ」
「…………」

 だよね……。さっき当直って言ってたもんね……

 つい、あからさまにため息をついてしまったら、慶が真面目な顔をしてのぞきこんできた。

「ごめんな。でも、5時までに戻ればいいから、あと2時間は一緒にいられる」
「………………」

 2時間……。短いような長いような……いや、短いよ。

 ぎゅうっと抱きつくと、そのまま立ちあがられた。パンっとおれの頬をその温かい手で囲ってくれる。

「こないだは10分だったからな。今日は一時間やるぞ」
「え」

 いたずらそうに目を輝かせた慶。そんなこと言われたら、色々期待してしまうじゃないか。
 こっちの気も知らないで、慶は「いくぞ」と歩き出した。慌てて後をついていく。

「で、残りの一時間で話ししような」
「話かあ……」

 言うと、振り返られた。

「なんだよ。やなのか?」
「ううん」

 嫌ではないけど……

「ベッドの中でくっついてるまま話したい」
「なんだそりゃ」

 慶、ぷっと吹き出した。

「そんなんしてたら襲いたくなって話になんねーよ」
「えー襲って襲ってー」
「ばーか」

 くくく、と笑う慶。……大好き。大好き慶。せっかく一緒にいられる時間、少しだって離れていたくない。



「そういや、こないだの朝、お前と一緒にいた子もバスケ部だったんだな。今日試合でてた。背の高い……」
「あ、うん。高瀬君」

 185センチあるという。でも機敏で器用、そして冷静。………冷静、といえば聞こえはいいけれど、何もかもに一歩引いたような冷めた対応をするところが気になるといえば気になる。

「で、もう一人の方の子と一緒に試合見たんだよ。えーと、泉君?」
「ああ……」
「親友、なんだってな」

 親友。あの朝もそう言ってた……

「懐かしいなあと思ってさ。おれも高校のとき『親友』のお前の試合、欠かさず見に行ってたもんな」
「うん」
「それでお前が女バスの先輩と仲良くしてるのをジトーッと睨みつけたりしてな」
「…………」

 まだそれを言う……

「それを言ったら、応援にくる慶を目当てに、他校の女子がたくさん来てたじゃんっ」
「なんだそれ?」
「バレンタインの時だって散々声かけられたでしょ?!」
「??? そんなことあったっけ?」
「…………」

 この人ホントに鈍感だよなあ……
 研修医の吉村さんだって、絶対慶のこと狙ってる。でも慶はまったく気が付いてない。……まあ、教える気はないけど。

「覚えてないならいいよ。慶はおれだけ見てればいいから」
「おー。おれはいつでもお前しか見てねーぞ」
「………………」

 本当に……?

 歩きながら顔をのぞきこむと、慶はにーっとした。

「当たり前だろー。だいたいなあ、おれはお前が女バスの先輩に片想いしてた間も、それはそれは健気にお前のことを……」
「それはもういいよ……」

 わざと大きくため息をつくと、ケケケ、と笑われた。 

「なんかあの二人見てたら色々思いだしちゃってなー」
「…………」

 あの二人って高瀬君達のことか。

「いいなー青春だなーってさー」
「……戻りたい?」

 聞くと、慶はうーん……と首を捻って、

「いやー高校時代はもういいかなあ」
「そう?」
「だって、高校の時はやってねーじゃん」
「何を?」
「何をって……」

 部屋のドアを開け、おれを中に押し込めると、後ろ手に鍵を閉めた慶。

「決まってんだろ。これから一時間やること」
「………」

 そして、おれの首の後ろに手を回し、噛みつくみたいなキスをしてくれる。

 慶はいつでもおれを求めてくれて、おれを見ていてくれて、おれを受け入れてくれて。これ以上何をのぞむというんだ。

 慶の中でおれの占める割合が何パーセントであっても、今、この瞬間は、たぶんおれで埋め尽くされているはず。だから……
 
「慶……」

 醜い嫉妬心も、両親に対するこの憎悪も、慶からの愛と慶への愛で包み込んで、隠すことができる。大丈夫。大丈夫だ……

 崩れそうな気持ちをなんとか立て直して、慶の細い腰を抱く。

「大好き……慶」

 その言葉にだけは嘘はない。


 
 

-----


お読みくださりありがとうございました!
すみません。あいもかわらず真面目な話でm(_ _)m
そしてやっぱり暗い桜井浩介(^_^;)
次回は明後日。諒君の可愛い小学生時代です。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 4-1(浩介視点)

2016年11月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 あかねとは、大学2年の終わりから交際をスタートさせ、現在交際7年目に突入した。

 ………………。

 気持ち悪……。こうあらためて言うと、本気で気持ち悪い。あかねも「げー」と言うことだろう。

 あかねがおれの親の前で恋人のフリをしてくれるようになってから、もう7年目……。

 おれとあかねの関係を言い表すのに一番ふさわしい言葉といったら『理解者』になると思う。
 あかねとは、大きな共通点が2つある。

 一つは同性愛者であること。
 おれが男性である慶しか愛せないのと同じで、彼女の恋愛対象は同性である女性である。

 そして、もう一つは。
 あかねもおれと同じく……「母親を殺したい」と思ったことがある、ということだ。


 この2つだけでも充分だけれども、他にも、同じ教師という職についたこと(あかねは都立中学の英語教師だ)、読書が趣味なこと、大学時代、同じ日本語ボランティアサークルに参加していて、現在も同じ国際ボランティア団体に所属していること、も加わる。


 大学二年の時、母がおれと慶を別れさせるために、慶の家族の元やバイト先に押しかけるという暴挙にでたことがあり、それをやめさせるために、親の前では、おれは慶と別れて、同じサークルのあかねと付き合いはじめた、ということにしてもらったのだ。


 あかねもあかねで、職場の男性からの誘いを断る口実におれを使っているらしく、歓迎会や忘年会の後には、必ず迎えに呼ばれ、職場の人達に挨拶させられる。

「背が高くて、顔もそれなりで、良い大学出てて、高校の先生やってて……って、あんた結構、高条件なのよね」

と、あかねに言われた。虫除けには充分らしい。

「女の子にまで避けられちゃうんじゃないの? それはいいの?」

と、聞いたところ、「職場恋愛は面倒だから、職場の女の子には手出さないよ」だそうだ。まあ、そんなこと言いながら、去年も教育実習生に手を出していた、ということについては、言及しないでおこう……。


 そんなこんなで「お互い様」とあかねは言ってくれるけれど、どう考えてもおれの方が迷惑をかける回数が多い。今回だって………


「……休みの日にごめん」
「いや? 焼肉忘れないでよ?」

 あかねはおどけて言ってくれたけれど、焼肉なんかじゃ全然足りない。

 祖母の葬儀の手伝いに、母があかねを呼んだのだ。おれはキッパリと断ったのに、あろうことか、母はあかねの職場に電話をかけてしまい……

「あかねさん、こっちもお願い」
「はい。おばさま」

 あかねはおれの両親に見せる用の顔で、ニコニコと仕事をこなしている。

(…………女優だな)

 さすが、元舞台女優。あかねは大学時代、大学のサークルだけでなく、プロの劇団にも所属していて、主役や主役級の役を何度も演じていた。でも、大学卒業と同時に引退してしまって………。あいかわらず引退が悔やまれる演技力だ。

「浩介君の彼女、いい子ねえ~。美人だし、気もきくし」

 親戚連中のあかねを誉める言葉に、母が満面の笑みを浮かべている。母の目的はこれだ。人手なんて充分に足りている。ただ単に「将来の嫁」を自慢したいだけなのだ。

「結婚はまだなの?」
「二人とも先生だから忙しくて……。今あかねさん3年生の担任だから、この一年は無理かなって……」
「……………」

 気持ち悪い………気持ち悪い。

 そんな話、一度もしたことない。「結婚は考えていない」とつい先日も言ったばかりだ。それなのに、嬉々として勝手におれの結婚話をしている母の笑顔に吐き気がする。

(おれはあんたの思い通りに動く人形じゃない……)

 あかねとも、もう別れたことにした方がいいのかもしれない。これ以上迷惑をかけられない……

(でも………)
 そうなったらきっと、山のようにお見合い写真を送ってくるだろう。先走って勝手に結婚話を進める可能性もある。
 慶とのことを認めてもらう、ということは、はなから選択肢にない。慶に迷惑がかかるだけだ。

 では、どうすればいい……?

(………消えればいい)
 おれが、母の前から消えればいい。
 すべてを捨てて、慶だけを連れて、どこか遠く………誰にも見つからない遠い国に………

(……………)
 そんなこと出来るわけない。おれはいいけど、慶にすべてを捨てさせるなんて、出来るわけがない……

「浩介さん?」
「え」

 あかねのよそいきの声に我に返る。普段は呼びつけだけれども、両親の前では、淑やかな女性を演じているので、さん付けで呼んでくるのだ。6年前はその度に笑いそうになっていたけれど、さすがにもう慣れた。

「具合、大丈夫? やっぱり辛そうね」
「……………」

 おれ、いつの間に具合悪いことになっているらしい。

 その後、あかねは適当な嘘をまことしやかについてくれ、気がついたら、母を言いくるめて、おれとあかねは先に帰ることにしてくれていた。

 ありがたい……
 あのままあの場にいたら、本当に吐いていたと思う。まあ、そう考えると、具合が悪いというのも、あながち嘘ではないか。



「今日、慶君は?」
「午前中、おれの部活の練習試合観に行ってくれてて……」

 おれが告別式で行けない、と言ったら「代わりに観てきてやる」と言ってくれた慶。
 そのあと、おれのアパートで待っててくれる予定になっていたんだけど……

「でも、午後から出勤になったってメールがきたから、今頃病院……」
「あらま。残念。せっかく毒消ししてもらえると思ったのにね」

 毒消し。うまいこと言う。

「飲みにでも行く? っていいたいところだけど、これからデートなんだわ」
「あ………そうなんだ。ごめん……」

 それなのに今日来てくれてたんだ……

 言うと、あかねは肩をすくめ、

「いや?逆よ? あんたんち行くことになったから、予定入れたの。役から抜けきるために」
「………………」

 前に言われたことがある。
 舞台だと、舞台用の衣装から着替えて、メイクを落とせば、役から抜けられるけど、この役はそういうわけにはいかないから、抜けきるのにちょっと苦労する、と。入り込むのはわりと簡単だそうだ。良く分からない世界……。

「あんたも、朝からずっとイイコにしてたんだから、息抜きしなさいよ」
「…………」

「毒は早めに洗い流さないと」
「…………うん」

 親を「毒」と言いきってくれるあかねの存在がありがたい。慶は何も口出ししないけれど、心の中では、おれと両親の関係を修復させたい、そのうち自分とのことを認めてもらいたい、と思っているのが伝わってくる。

(でも無理なんだよ、慶)

 慶には理解できないと思う。幸せな家庭で育った慶には。でも理解してほしいとは思わない。慶にはこんな黒い気持ちに触れてほしくない。慶にはいつでも白く輝いていてほしい。

(………会いたい)

 慶に会いたい。

 慶のあの白い光に触れることができたら、今おれの体にベットリついている黒いものなんて、すぐに浄化されるだろう。今は息を吸っても吸っても苦しいけれど、慶が纏う清涼な空気に包まれたら、呼吸も途端に楽になることだろう。

(会いたい……)

 このままではこのドロドロとした黒いものに覆われて、窒息してしまいそうだ……




-------



お読みくださりありがとうございました!
浩介、安定の暗さ(^_^;)
ちなみにあかねはこの時点ではまだ都立中学の教師ですが、現在は超お嬢様学校の教師をしています。

本当は一つにまとめようと思っていたのですが、あまりにも長いため切りました。
ので、続きはまた明日……

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 3-2(侑奈視点)

2016年11月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

✳未成年の飲酒は法律で禁止されています。作中に未成年の飲酒シーンがありますが、決して真似なさいませんようお願いいたします✳





***

 お正月。
 父は仕事に行ってしまった。新聞記者には昼も夜も盆暮れ正月もない、というのが父の言葉だ。
 でも、寂しくなかった。今年もいつものように、2人が来てくれたから……

 こたつでお節を食べて、お正月番組をダラダラと見て……、幸せで穏やかな時間。まるで小学生に戻ったみたい。

 家にあった日本酒をみんなでチビチビと飲んでいたら、泉が早々に真っ赤になり、そのうちテーブルに突っ伏して眠ってしまった。お酒弱いな……

「……寝ちゃったね」
「これだけしか飲んでないのに……」
「………」
「………」

 元に戻る宣言をしたとはいえ、やっぱり、諒と二人きりは気まずい……

「わ、私もちょっと寝てくる~~」
 明るくいって、襖の向こうの自分の部屋に逃げ込む。

(やっぱり気マズイ……)

 二人きりになると、余計に、どうしても、諒を好きだという気持ちが隠せなくなってしまう。

 諒の女遊びはまだまだ続いていた。
 諒……どんな風に女の人を抱くんだろう。かりそめの愛を囁いたりするんだろうか。

 あーあ……と思いながらベッドに横になったら、本当に寝てしまい、気がついたら30分近くたっていた。


(……泉、起きたかな……)

 隣室からはテレビの音しか聞こえてこない。まだ寝てるんだろうな……

 そう思って、こっそりと襖を開けて………

「…………………え」

 その光景に、我が目を疑った。
 諒が、眠っている泉の髪をすいている……愛しそうに大事そうに……こんな表情の諒、初めて見た……

「………あ」

 ハッとしたようにこちらを振り返った諒。
 でも、その顔はいつものクールな諒だった。今のは見間違い……?

「……少しは眠れた?」
「うん……」

 うなずいて、諒の正面に座る。諒は何事もなかったかのように、日本酒のつがれたお猪口を舐めている。色っぽい……

 見ているとドキドキしてしまうので、誤魔化すために泉に視線を落とす。

「泉、まだ寝てるんだね」
「昨日深夜に家族で初詣にいって、帰ってきたの明け方だったからね」
「え、そうなの?」

 そんなこと泉、何も言ってなかったのに……
 諒は「ああ」とうなずくと、

「家、隣だからさ。出かけていくときの声とか聞こえたから知ってるだけ」
「あ……そっか」

 それなのに、朝からうちに来てくれたんだ……

「言ってくれれば、午前中からなんて誘わなかったのに……」
「オレ達に気を遣って言えなかったんじゃない? 家族で何かするって、相澤もオレもほとんどないからね」
「…………」

 確かに……。諒に魅かれるのはそういう共通点のせいもあるかもしれない、と今さら気が付く。

「泉は優しいからね」

 ふっと笑った諒。お酒が入っているせいか、少し外の壁が崩れている感じがする。
 今だったら、なんでも話せそう。今だったら……。そう思って、言ってみた。


「諒って、ホント泉のこと好きだよね」

 なんの他意もなく言ったのに………

「……………え?」

 ギクッとしたように手を止めた諒。

 ………何?

 諒が……いつも冷静なあの諒が、明らかに動揺している。
 
「え……」

 それは……何?

 その動揺は……何?

「諒……」

 ふっと頭をよぎる、さっきの光景。愛しそうに泉の髪をすいていた諒……

「諒、まさか……」
「…………」

 すいっとこちらを向いた諒の目……私が「諒としたい」と言った時と同じ冷たい、目。

「諒……」
「…………」
「…………」

 
 ああ……そっかあ……

 当然、のように体の中に染み込んでくる真実。

(諒、泉のことが好きなんだ)

 そう思ったら、何もかもに合点がいった。

 いつも泉の後ろにひっそりと立っている諒。
 女を抱くことが「精神安定剤」といった諒。

 出口のない想いを抑え込むために「精神安定剤」が必要だったんだ……


 そして、同時にもう一つ、気が付いてしまった。
 諒が私を冷たく拒否するのは、本心の裏返しだ。

 本当は、私を欲しいと思っている。
 だって………泉が好きなのは私だから。

 諒は昔からそう。
 泉の好きなものは何でも欲しがった。共有したがった。お菓子でもゲームでも何でもだ。泉が好きなものを自分も好きであろうとした。
 それは単なる依存の友情の現れかと思っていたのだけれども、友情を超えた想いだと解釈した方がよっぽど納得がいく。

 だから、諒は本当は私のことも欲しいはず。
 でも、理性でそれを押しとどめようとしている。だから冷たくあしらおうとするのだ……


「……諒」
 手を伸ばし、お猪口を持っている手にそっと触れると、諒はビクッと震えた。

「……やめろ」
「諒……」


 私たち……利害は一致してるよ?
 私は諒が好き。だから抱かれたい。
 諒は泉のことが好き。だから泉が欲しがっている私が欲しい。

 だから……だから。


「諒……」
「…………」

 そっとその手を包み込み……


「だからやめろって!」
「!」


 怒鳴られ、勢いよく手を弾かれた。

「せっかく元の三人に戻れたのに、今さらかき乱すなよ!」

 今まで聞いたことのない諒の怒鳴り声。荒れた口調……諒の本当の顔、だ。

「わかってんだろ? 泉はお前のことが好きなんだよ!」
「………」

「そんなお前にオレが手出すわけにいかないだろ!」
「諒……」

 あの諒が、震えている……

「オレは泉が大切なんだよ。泉を守るためなら何だってする。泉のためならどんな我慢でも……っ」

 諒の悲痛な叫びにかぶさるように……

「なにそれ?」
「?!」

 鋭い声が私たちの間に投げ込まれた。いつの間に、泉が起きていた。

「泉っいつから起きて……っ」
「ああ? たった今だよ。耳元で大声出されれば誰だって起きるだろ」

 あああ、と呑気に欠伸をしてから、泉は諒を振り返った。


「お前、今、変なこと言ったな?」
「………え?」

 変なこと? 諒も私も固まってしまう……。が、泉はとんでもないことを言い出した。

「お前もユーナのこと好きなのに、オレに遠慮して我慢してるって?」

「え?」
「は?」

 え?
 そういう解釈?

 素早く先ほどまでの諒とのやり取りを思い出す。
 確かに、後半だけ聞いていたら、そう解釈できないでもない、というか、そういう解釈になるかもしれない……


「オレのせいで両想いのお前らがくっつかないのはごめんだぞ」
「え、泉、その……」
「泉……」

 困ってしまった私と諒を置いて、泉はうんうんうなずくと、

「お前らオレに遠慮せず付き合えよ」
「………」
「ただし、条件がある」
「条件?」

 なんだ?と思ったら、いきなり泉は諒の両頬を囲って、こつんと額を合わせた。

(……わ)
 あのクールな諒が、ぱあっと赤面した。

(諒……本当に泉のこと好きなんだ……)
 思い出してみると、諒は泉の前ではクールさを保てないことが多かった。それは恋愛感情ゆえのことだったんだ……


「条件……って?」
「ユーナと付き合うからには、もう他の女には手を出すな」
「………」

「他の女とやったりしたら、ぶっ飛ばす」
「………」

 泉……

「そしたらさ……」

 諒が乾いた声でいった。

「オレが相澤とやっても……いいの?」
「………」

 ドキッとする。

 泉は一瞬黙ってから、

「当たり前だろ。何なら今からでもいいぞ」
「痛っ」

 ゴンッとオデコをぶつけられ、諒が悲鳴をあげる。

 って、今、泉、とんでもないこと言った……

「泉、今からって……」
「善は急げっていうだろ」

 善? いや、善ではないような……

「でも、お父さん帰ってきちゃうかもしれないし」
「オジサン、バイクで出かけたんだろ? オレ、ここから帰ってこないか見張っててやるよ」
「え」

 さすがの諒もギョッとしたように聞き返した。

「泉、本気でいってんの……?」
「おお。本気だぞ。今までオレに気を遣ってくっつけなかったことへのせめてもの詫びだ」
「そんなの……」

 泉はカバンからゴソゴソとCDウォークマンを取りだして、耳にイヤホンを付け始めると、

「オレこれ聞いてるから。だから何も聞こえないから安心してやってくれ」
「泉……」

「あ、でも」

 安心、で、思いだした!と泉が慌てたようにいった。

「諒、お前、あれ持ってる?あれ……持ってないよなあ……買いに……」
「ああ、持ってる」
「………」

 諒があっさりとカバンから、小さな袋を取りだした。

「…………」
「…………」

 コンドーム、常備してるんだ……さすが……
 思わず感心してしまったところ、

「わー!もうお前嫌い!さっさと行け!」

 泉はわーわー叫んで、ゲシッと諒に蹴りを入れて、ぐいぐいぐいっと襖の向こうの私の部屋に押し入れた。
 そして、私を振り返ると、にっと笑った。

「ユーナ」
「うん……」
「良かったな。ユーナ」
「………」

 そのまま背を押されて、私も部屋に押し入れられ、バンッと勢いよく襖を閉められた。 

 泉……

 泉の消えた襖をジッと見つめていたら……

「相澤」
「……っ」

 後ろからフワリと包まれた。夢にまでみた、諒の腕の中……

「後悔、しない?」
「………」

 耳元で囁かれた言葉に、コクリと肯く。

 後悔なんか、するわけがない。諒の気持ちが他を向いていたって、この時間だけは私のものになるはずだから……




-----


お読みくださりありがとうございました!
前回から合わせて侑奈の小5から約6年間のお話でした。
諒は諒で色々考えてることがあって……それはまた次の次に。

今の若い子はCDウォークマン知らんですかね?
CD用のポータブルオーディオプレーヤーです。はい。

次回は浩介サイドのお話です。暗いです。
明後日更新予定です。よろしくお願いいたします。


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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 3-1(侑奈視点)

2016年11月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

✳未成年の飲酒は法律で禁止されています。作中に未成年の飲酒シーンがありますが、決して真似なさいませんようお願いいたします✳





 アメリカから日本に戻ってきたのは、小学校5年生の時。
 団地には、小学生が一人もいなかったため、一番近い戸建てに住んでいる男の子2人と一緒に登下校するように言われた。

 一人は、綺麗な顔立ちの子で、一人は、サルみたいな子。
 綺麗な子の方は、サルの後ろに隠れてひっそりと立っている感じの子。
 サルの方は……ガキ。わあわあうるさい。うるさいけれど……

「お前らユーナが可愛いからそうやってからかうんだろー!男なら男らしく好きって言え!」

 外国人風の容姿のことでからかわれていた私のことを、真っ先に庇ってくれた。あんな奴らを黙らせるなんて別に自分でもできたけど………でも、ちょっと嬉しかったことは、今でも覚えている。


 綺麗な子は、両親共働きで家にはお手伝いさんがいるだけだから帰りたくない、と言い、サルは、うちが大家族で居場所がないから帰りたくない、と言い、自然と学校帰りに私のうちに遊びに来ることが増えた。

 三人の空間はとても居心地が良かった。それぞれ、勝手に宿題をしたり、ゲームをしたり、お菓子を食べたり、時々お喋りをしたり……。
 母が亡くなったばかりな上に、父は忙しくて家に全然いなかったため、私にとって、二人は寂しさを癒してくれるこの上もない存在となった。家族のような兄妹のような温かい関係。ずっと三人でいられればいい。そう、思っていた。


 でも、そんな温かい関係でいられたのは、ほんの一時のことだった。
  
 小6になってから、声変わりもはじまり、一人ぐんぐんと背が高くなっていった諒……。その大人っぽい外見に加え、色気みたいなものも備わって、もう、クラスの男子なんか子供にしか見えない大人の男に成長してしまった。

 元々、諒はおとなしくて、サルの後ろにひっそり立っているような子だった。でも、とても優しくて、口調も柔らかい。そこが余計に大人っぽく思えた。少し寂し気な笑みを浮かべるところも魅力的だった。

 あの長身の綺麗な顔に見つめられ、ニコッとされた日には、どんな堅物の女の子だって落ちるに決まっている。5年生までは全然目立たなかったのに、6年生の秋には諒のことを好きな女子は掃いて捨てるほどいた。

(……なんで好きになっちゃったんだろ)

 そういう私も、そんなアホな女子の一人だ。ずっとただの友達としか思っていなかったのに、中学の入学式での諒の制服姿に目を奪われ……

「相澤、よく似合ってる。可愛いね」

と、制服姿を褒められ、頭をポンポンとされ、ニコッと笑われ……、それだけで、今までの諒と同じとは思えなくなってしまった。


 でも、変わったのは私だけではない。諒も変わってしまった。

 中一の夏に、女バスの先輩と付き合いはじめた……という噂が出たのを皮切りに、次々と彼女を変えていった諒。本人に言わせると、付き合っているつもりはない、という子も何人もいたけれども、キスした、だの、最後までした、だの噂は噂をよび……、でも当の本人はどこ吹く風。それがまたクールでいい、と余計にモテたりしていて……

 一方のサルは、まったく変わらなかった。ほんの一時期、諒とサルはギクシャクした時期があったけれど、すぐに仲直りしたようだった。男の子同士って羨ましい。

 諒とサルはバスケ部、私は吹奏楽部、それぞれ放課後は部活で忙しくなり、前みたいにうちで集まることもほとんどなくなってしまった。それでも、時々一緒に登下校することもあったし、テスト期間はうちで一緒に勉強することもあったから、周りからは〈仲良し三人組〉と認知されて、うらやましがられていた。

(仲良し三人組……)

 そう言われる度、内心複雑だった。諒にとって私は仲良しの友達にしか過ぎず、彼女に昇格できる見込みはない、という現実を突き付けられるからだ。

 それでも、〈仲良し三人組〉をやめることが出来なかったのは、諒のそばにいたいという気持ちが強かったからだと思う。 

 それに、諒がどの彼女に対しても本気でないことは分かっていたので、本気にされない彼女になるよりは、特別な友達の方がずっといい、という気持ちもあった。

 だから、諒と関係のあった子やファンの子から嫌がらせをされても、耐えることができた。元々気は強い方なので、負けるつもりもなかったけれど。


***


 諒への気持ちを隠したまま、中学を卒業し……私達は高校生になった。3人同じ高校だ。
 私が推薦で先に合格していた高校に、二人が後から一般受験で合格したのだ。

「一緒の高校に行こうよ」

と、サルを誘ったら、昔から私の頼みを断れないサルが志望校を変えてくれた。 

「じゃ、オレも同じ高校行く」

 案の定、諒も志望校を変えた。
 大人っぽくてクールな諒だけれども、サルへの依存度がいまだに高いことを私だけは知っている。作戦勝ちだ。


 でも、高校生になっても、諒は相変わらずだった。女の子に優しく声をかけてその気にさせて、何度か関係を持つと、また違う女に……ということを繰り返していた。

「ありゃ病気だな」

 サルは呆れたように言っていたけれど、私はわりと本気で諒が心配になっていた。

 中学の時よりも、さらに節操がない。
 まるで何かから逃れるために女に走っているような……



「セックスてそんなに気持ちいい?」

 高一の10月の終わり頃、諒と二人きりになれた時に直球で聞いてみた。

 すると諒は、うーんと唸り………、ポツリと言った。

「精神安定剤……かな」
「…………」

 精神安定剤……?
 意味がわからない……

「…………私もしてみたい」

 思わず言ってしまうと、

「何いってんの」
「……っ」

 ポンポンと頭を撫でられ、泣きたくなってきた。諒がふんわりと笑って言った。

「相澤には必要ないでしょ」
「……必要だよ」
「相澤?」
「だって……っ」

 その手を掴み、必死に見上げる。
 そして、言ってはいけない言葉を口にしてしまった。

「諒と、したい」
「………………」

 諒の目が見開かれ……すうっと口元から笑みが剥がれた。
 冷たい……冷たい目が見下ろしてくる……
 ちょっと……怖い……

「諒……?」
「相澤とはしない」
「…………」

 なんで?
 
 聞いた私に諒は言った。

 泉が相澤を好きだから。相澤に手を出したら泉が悲しむから。だからオレは絶対に相澤とはしない、と……。


***


 それから2ヶ月……
 ただひたすら辛かった。せっかく今まで必死に守ってきた諒との関係を、一時の衝動でぶち壊してしまった。諒のあの冷たい目……。もう、取り返しがつかない。

 顔が見たくなくて、諒のことはもちろん、サルのこともずっと避けていた。
 サルが私を好きだから「しない」……。サルとの友情を優先したいということだ。私はサルに負けたということだ。

 サルの気持ちは知っていたし、正直それを利用していたところもあったけれど……。でもこうなってしまうと、サルに対して怒りが湧いてくる。ただの八つ当たりだ。でも、そうでもしないと理性が保てなかった。


 そして訪れたクリスマス。

 クリスマスパーティーと称して、クラスの派手なメンバーと一緒にカラオケボックスで騒いでハイになって、その帰りに大学生にナンパされて付いていって、そして、お酒を飲まされたことまでは覚えている。

 自暴自棄になっていた。もうどうでもよかった。セックスが精神安定剤になるというのなら、誰とでもいいからしてみたい、とまで思っていた。

 だから、知らない男に抱えられるようにして、ラブホテルの入り口に立っている自分に気がついたときには、ようやく楽になれる……と思った。

 思った、のに………

「ユーナ!」
「!」

 サルの声……
 振り返ると、サルが真っ赤な顔をして立っていて……

「相澤」
「…………諒」

 諒が悲しいような、辛いような顔をして立っていて……


「なんでここに……」
「お前のクラスの奴から連絡もらった。お前何やってんだよ」

 サルが「帰るぞ」と言いながら、無理矢理、男から私を引き離した。

「ちょっと、君ら何……」
 言いかけた男の前に、ずいっと諒が立ちふさがる。

「すみません、彼女そういう子じゃないので」
「…………」

 長身の諒に見下ろされ、男は怯んだように後ずさると……

「だったらついてくんなよバーカッ」

 吐き捨てるように言って、立ち去っていった。


「…………」
「ユーナッ」

 途端に足の力が抜けて、倒れそうになったところを、サルが抱えてくれる。

「大丈夫か?」
「泉……」

 サルの……泉の優しい声にコックリと肯く。
 ああ……知ってる。泉はいつでも私をこうして守ってくれる。サルのくせに。

「無事で良かった」
「…………」

 安心したように息をついた諒。
 その声も、全部全部、大好き。やっぱり大好き……


 ラブホ街から出て、駅前の広場にきたところで、泉が私のことを覗きこんだ。

「お前、何があったんだ? 最近ずっとオレらのこと避けてるから心配してたんだぞ?」
「…………」

 諒、泉に何も話していないんだ……
 泉のまっすぐな瞳……嘘をついてはいけない気がする……

「……泉」
「ん?」

 心を決めて、泉に告げる。泉にとっては聞きたくない話かもしれないけれど、でも、言わなくてはならない。

「私ね……」
「おお」

「……諒のことが好きなの」
「………」

 泉がキョトンとした顔をした。その後ろで諒は下唇を噛んでうつむいている……

「でも、フラれちゃって……それでちょっとヤケになってたっていうか……」
「そう……なのか?」

 泉に振り返られてもなお、諒はうつむいたままだ。

「でも、もう、元に戻りたい」

 諒にも聞こえるように大きな声で言う。

「仲良し三人組に戻りたい」
「ユーナ……」
「……………」

 しばらくの沈黙の後……

「戻るもなにも、オレ達ずっと仲良し三人組だろ? な?」

 泉が明るく言ってくれて……

「そうだね」

 諒も静かに肯いてくれた。

 


-----


お読みくださりありがとうございました!
あいかわらずの真面目な話でm(_ _)m

最後の方で「諒のことが好きなの」とユーナに言われた泉がキョトンとするのは、泉は中学生の時からとっくに気が付いていたからなのでした。なので、何を今さら?っていうか、バレてるって知らなかったんだ? の「キョトン」でございました。泉君、サルサル言われてますが、ちゃんと色々考えてます。

上記の最後は高校1年のクリスマスのお話。
明後日は、初回の関係(高校2年。諒と侑奈がしている音を、泉が盗み聞きながら外を見張る、という異常な関係)になったキッカケのお話になります。


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